DJサムの放送4
ラジオの雑音が、真夜中の暗い部屋を満たしていた。切れ切れに入る音声の中で、耳を澄ますと聞こえてくる、あのいつもの声――DJサムの声だ。いつもなら、皮肉と笑いを交えた軽快なトークが楽しみだったが、今夜は違った。
「――さて、みんな、これを聞いてるってことはまだ息してるわけだ。オメデトウ! だが、今日は笑っていられない日だ。もし俺の声がちゃんと聞こえてるなら、すぐに耳を傾けてくれ。これが最後になるかもしれないからな」
いつもの陽気さに、どこか焦りの色が混じっていた。姉妹たちの家のリビングでその放送を聞いていた長女は、言葉に釘付けになった。次女は腕を組んで座りながら、ラジオの調子が悪いのかとアンテナをいじり、三女は不安そうにその場の空気を伺っていた。
「…いいか、これが最新情報だ。政府はついに、緊急事態宣言を出した。これはお遊びじゃない。東の空で爆撃音が聞こえたって報告が相次いでる。軍の動きは沈黙のままだ。お前たちはどうする?『あいつらが何とかしてくれる』と思うのか? それとも、自分で何とかするか?」
ラジオの音量が低くなり、サムの声が少し震えているように聞こえた。それでも彼は、笑いの要素を忘れなかった。
「たとえば、俺? 俺は自分のラジオブースで缶詰を開けて、ビールでも飲みながら終末を迎える準備だ。だが、お前たちはもう少しマシな選択をするんだぞ。家族や友達がいるなら、今すぐに確認しろ。物資はあるか?逃げる先は決めたか?」
ここで、ラジオから微かな音楽が流れた。ノイズに混ざって聞こえるその曲は、なんとも言えない古いカントリー調だった。サムは再び言葉を継いだ。
「…分かってる。こんな話、聞きたくないよな。でも、これが現実だ。俺たちは大きなバカどもが引き金を引く前に、どれだけ準備できるかにかかってる。頼む、みんな、油断だけはするなよ」
長女はその言葉を聞きながら、窓の外を見た。夜空は静かで、星々が瞬いている。まるで、この地上の混乱を嘲笑っているかのようだった。次女は、ラジオを消すか迷ったが、そのまま放置した。三女は、サムの声に少しの希望を感じていたのか、ラジオに近づき、小さな声で呟いた。
「まだ大丈夫、だよね…?」
しかし、誰もその言葉に答えることはなかった。空気の中に漂う不安は、ラジオの音よりも強く三姉妹の胸を締めつけていた。




