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三女の視点:お姉ちゃんになりたい


長女が次女を呼び止めたとき、思わず体がピクリと動いた。静かだった食卓に突然声が響いて、私は一瞬、また言い争いが始まるのかと思った。でも、そうじゃなかった。


「あなたが子供を助けに行くなら、私はあなたとその子を助けるわ。私はお姉ちゃんなんだから。」


長女のその言葉を聞いた瞬間、次女がびっくりしたように目を見開いて、それからつい笑ってしまったのを見て、私もホッとした。空気が柔らかくなって、今までの重たさがふわっと溶けたみたいだった。ああ、良かった。これで大丈夫。


でも、その瞬間、私は何をしていたんだろう?ただ黙って二人のやり取りを見ていただけだ。きっと、何も言えない自分に少しだけがっかりした。


次女が立ち上がって部屋に戻っていくのを、私はじっと見送った。長女も、次女がいなくなってから少しだけ肩の力を抜いて、そのまま片付けを始めた。私は、ただ座っているだけだった。


「……私も、あんなふうにお姉ちゃんになりたいな。」


心の中で小さく呟いた。


あんなふうに強くて、自信を持って、「お姉ちゃんだから」って言える人になりたい。 でも、それは今の私にはちょっと遠い世界みたいに思える。何かあったとき、長女は迷わず行動できるし、次女は自分の信じることを堂々と言える。私には、それがまだできない。


たとえば、今みたいな時。二人の間に立って何かできたんじゃないかと思うけど、何を言えばいいのか、どうしたらいいのか、まったくわからなかった。ただ静かに、二人が言葉を交わすのを見ていることしかできなかった。


「私もお姉ちゃんになりたい」って気持ちが胸の中でじんわりと広がる。あの二人みたいに、しっかりしていて、頼れるお姉ちゃんに。自分の気持ちをはっきり伝えられて、誰かを安心させられる人に。でも、どうやってなれるんだろう?何から始めればいいんだろう?


私にできることって何だろう?


お料理を作ることかな?それとも、お花を飾ってみんなの気持ちを和ませることかな?そんなことを考えても、なんだかそれだけじゃ足りないような気がする。あの時みたいな大事な場面で、ただ黙って見ているしかないんじゃ、本当のお姉ちゃんにはなれない。


「……もっと、頑張らなくちゃ。」


自分にそう言い聞かせながら、ふと長女の背中に目を向けた。いつも、どんなときでもあの人は前を向いてる。強いなあって思う。でも、時々、その背中がちょっと重たそうに見えることがある。今夜みたいな時には、なおさらそうだ。


だからこそ、私も何かできるようになりたい。 あの背中を少しでも軽くしてあげられるように。次女みたいに頭が良くなくても、長女みたいに何でもできなくても、私にしかできないことがきっとあるはず。


でも、何だろう。それがまだ見つからないのがもどかしい。


私は小さく息を吸って、立ち上がった。たとえ今は何もできなくても、せめて食卓の片付けくらいは手伝おう。そう思って、キッチンにいる長女の横にそっと立った。


「……何か、手伝うことある?」


私の声に、長女がちょっと驚いたように振り返った。その顔はさっきより少しだけ柔らかくて、私はそれを見て少し安心した。


そうだ。お姉ちゃんになるって、こういう小さなことから始めればいいのかもしれない。


まだ何をどうしたらいいのかはわからないけれど、こうして少しずつ、一歩ずつ。そのうちきっと、私にもわかる日が来るはずだ。

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