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長女の視点:信念を曲げない宣言


食卓がやっと終わった。皿の上には、誰も手を付けなかった料理の残りが、冷たく沈んでいる。箸を置く音さえ耳障りに感じるくらい、この場の空気は重い。苛立ちはまだ胸の奥で燻り続けていた。 それでも、もうこれ以上この空気を引きずりたくない。何かを言えば、またぶつかり合うのはわかっている。私たちはいつだってそうだ。正しいと思うことを譲れないから。


「ごちそうさま。」

誰からともなく、その言葉だけがぽつりとこぼれる。それを合図に、三女が静かに席を立ち、食器を片付け始める。次女も続けて席を離れ、さっさと部屋へ戻ろうとするその背中に、反射的に声をかけていた。


「待って、次女。」


自分の声が思った以上に強張っていて、少し後悔した。呼び止めた理由が、次女との言い合いを続けたくないからなのか、それとも何か言わずにいられなかったからなのか、はっきりしない。でも、今ここで何も言わないのは違う。苛立ちを引きずったまま、口をつぐんで終わらせるのは、自分にとっても相手にとっても後味が悪すぎる。


次女が振り返る。その瞳は冷静で、少しだけ面倒くさそうな光を帯びていた。いつもの次女らしい態度だ。けれど私は、苛立ちと、何よりも信念を飲み込むように深呼吸して、きっぱりと言葉を続けた。


「私は、信念を曲げないよ。」


次女の表情が微かに変わった。それが苛立ちなのか、失望なのか、理解なのか、正直わからない。でも、今度は止まらなかった。


「あなたが助けに行くなら、私はあなたとその子を助けるわ。」


言葉が重く、けれどまっすぐに胸から出ていくのを感じる。嘘偽りなく、本心だった。私は次女のやり方には同意できない。でも、たとえ次女が私の信じる「正しさ」から外れる道を選んでも、見捨てるつもりはない。


「私はお姉ちゃんなんだから。」


自分で言っていて、少しだけ胸が痛んだ。その言葉の裏には、**「お姉ちゃんでいることの責任」**がずしりと重くのしかかる。それでも、これが私だ。何があっても守ると決めたのなら、どんなときもそうする。それがどれだけ苦しくても。


次女は、私をまじまじと見つめていた。最初は戸惑ったような表情だった。けれど、しばらくして口元にかすかな笑みが浮かぶ。


「……ああ、ほんと、長女らしい。」


笑い声は意外なくらい軽やかだった。皮肉混じりの、でも少し安心したような笑い。私を茶化すための言葉だったのかもしれないけど、その笑顔が嘘じゃないことくらい、わかる。


「それじゃあ、私が無茶したら、長女も巻き添えってことだね?」


「そういうこと。」


私はため息をつきながら肩をすくめる。正直、巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。でも、もし次女がそうするなら、私はそれでも一緒に行く。それが私の選んだ道だから。


「変な姉ちゃん。」


次女はそう言って、苦笑を浮かべたまま部屋に戻っていった。背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。苛立ちはまだ完全に消えたわけじゃない。 けれど、少なくとも少しだけ気が楽になった気がする。


私は誰のためにも、自分の正しさを手放すつもりはない。でも、それは次女や三女の思いを否定することじゃない。何があっても、私は彼女たちを守る。それだけは絶対に譲れない。


「……ふぅ。」


重たい空気を吐き出すように、一人、深いため息をつく。姉妹というのは、本当に厄介だ。だけど、たとえどれだけぶつかり合っても、私はお姉ちゃんでいることをやめるつもりはない。


三女がこっそりこちらを見ているのに気づき、彼女に小さく微笑んでみせた。三女も安心したように、ふわりと笑い返してくれる。その笑顔が、少しだけ救いだった。

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