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いつもの朝(6)三女の視点

クジラのぬいぐるみを椅子に座らせて、私はそっとその前にスケッチブックを開いた。クジラの大きな目が、私の描く線をじっと見ているような気がする。今日は何を描こうかな…そうだ、ボブおじさんの農場の風景を描こう。彼の農場にはたくさんの動物がいて、特に大きな牛たちは、いつも私の目を引く。重たそうに歩く姿と、穏やかな目が好き。長女が昼からボブおじさんのところに行くって言ってたし、早く絵を仕上げてしまいたい。


鉛筆を握り、まずは農場の広がりを大きく描く。遠くに山が見えて、その手前にはボブおじさんの大きなトラクターが止まっている。あのトラクター、次女が興味津々なんだよね。なんでも大きな機械は彼女にとって、すごく魅力的らしい。私にはよくわからないけど、彼女がシェルターでいつもガチャガチャやってる姿を見ると、次女にとっての「遊び場」は、ここじゃなくてそっちなんだなって思う。


トラクターの横に牛たちを描き加える。ボブおじさんがいつも言ってた。「牛は考えてるように見えて、実際はただ草を食べてるだけなんだよ」って。なんだか、のんびりしてていいなぁと思う。牛たちは、いつも同じ時間に同じことをしてる。まるで、時間が止まったみたいに見えるんだ。そういうところが、なんだか安心できる。私たちも、こうやってずっと平和に暮らせたらいいのに。


描いているうちに、頭の中が少しぼんやりしてきて、目の前の世界がぼやける。何もかもが今のままずっと続くような気がしていたけど、最近、長女は何か違うことを考えているみたい。朝ごはんの片付けをしながら、なんとなく険しい顔をしてたし、ニュースを見た後なんて特にそう。大きなため息をつくことが増えた気がする。でも、私はよくわからない。ニュースでやってる戦争のこととか、爆弾とか、遠い国の出来事にしか思えない。ボブおじさんの農場や、私たちが住んでいるこの場所とは、全然違う世界の話みたいだもん。


そうだ、早く準備しなくちゃ。長女がボブおじさんのところに行くって言ってたし、私も一緒に行きたい。おじさんが育てている動物たちを見るのも楽しみだし、次女がトラクターを動かすところを見たら、きっとすごく面白いに違いない。でも、まだこの絵が終わってない…どうしよう。クジラのぬいぐるみに聞いてみるけど、彼は何も言わない。ただ、黙って私の絵を見つめてる。


「仕方ない、あとで仕上げようかな」と自分に言い聞かせて、鉛筆を置く。少しずつ描き加えて、もう少しで完成するところだったけど、また次の時間にしよう。ボブおじさんのところに行けば、もっとたくさんのインスピレーションが湧いてくるはずだし、きっと今よりもっと素敵な絵が描けるはず。描きかけのスケッチブックを閉じて、クジラのぬいぐるみを椅子から抱き上げる。彼も連れて行こう。ボブおじさんの農場には、クジラがいないけど、私の頭の中にはいつだっているから。


ドアの向こうから、長女の呼ぶ声が聞こえる。「三女、準備できた?」って。ちょっとだけ焦るけど、まだ大丈夫。きっと長女は、あと少しだけ待ってくれるだろう。

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