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長女の視点:揺るがぬ理想と爆発する苛立ち


「だからだよ。」


次女がそう言った瞬間、何かが胸の奥で弾けた。言葉そのものより、その冷たい声の響きに、私は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。彼女の視線はまるで針のように鋭く、私を貫いてくる。


『あなたが理想を振りかざすせいで、私が、みんなが死ぬの。それでいいのね』――彼女の言葉の裏には、そんな非難の刃が隠れているように感じた。


手がかりも希望も失われていくような世界で、私は自分が正しいと信じていた。助けたいから、守りたいから、いつだってどんな状況でも「全員を救う」覚悟を持って行動する。それが私の信念であり、生き方だ。でも今、目の前で次女が、その信念を嘲るように、冷ややかな現実を突きつけてくる。


私の理想が甘い? 愚かだって言いたいの?


その思いが頭の中を渦巻き、苛立ちがどんどん膨らんでいく。口の中が乾き、拳が知らず知らずのうちに強く握られていた。けれど、次女の言葉に返すべき反論が喉の奥で詰まって出てこない。何かを言いたいのに、苛立ちが強すぎて、頭が真っ白になる。


「……」


私はただ次女を睨みつける。今すぐにでも彼女に言い返したい。**「それでいいはずがない!」**と叫びたい。けれど、声が出ない。怒りと悔しさが絡み合い、理路整然とした言葉が組み立てられない。


見捨てるなんて――そんなこと、絶対に間違っている。


「人を助けるには力が必要なんだ。私にはその力がある。助ける準備もしてきた。」


そう、私は何も考えずに理想を掲げているわけじゃない。備えているんだ。 本も読んだ。知識も蓄えた。避難経路も頭の中に叩き込んでいる。非常袋の準備だって整えた。どんな状況に置かれても、必ず全員を助け出す――そのためにここまでやってきたのに。


なのに次女は、それを無価値だと言うのか? 「どうせ無理だ」って、何もしない言い訳に現実を持ち出すのか?


私は彼女の言葉を理性では理解できても、感情が到底受け入れられなかった。 三女の泣き声が心のどこかでかすかに響いているのを感じる。あの子はただ、あの画面の中で泣いている子供と自分を重ねているだけだ。それは助けを必要としている子供だ。あの子を見捨てる選択肢なんて、この世のどこにも存在してはいけないはずなのに。


でも、次女はそれを「現実」と言い放つ。


胸の中が煮えたぎる。まるで、何度も叩かれ続けた鐘のように、その言葉が頭の中で響き渡る。私は間違っているの? 私の信念は何の役にも立たないの? そんなわけがない。


「見捨てたらどうなるか、わかってる?」

声が震えそうになるのを必死に抑えながら、私は心の中で次女に問いかける。だが、その言葉もまた、口から出ないまま飲み込まれる。


助けるんだ。それがどれだけ厳しくても、どれだけ無理だと言われても、私は絶対に諦めない。見捨てたら、自分が自分でいられなくなる。何のために今まで努力してきたのか、その意味すら失われてしまう。それが一番怖い。


「……助けなきゃ、私は……。」


けれど、その思いを形にする言葉は出てこない。私の心臓は速くなり、拳がさらに強く握り締められる。視界の端で三女が怯えた顔をしているのを感じたが、それにかまう余裕はない。ただ、次女の冷たい瞳と自分の苛立ちがぶつかり合っているだけだった。


次女の冷酷さが憎い。 でも、彼女が言っていることがどこかで正しいかもしれないという可能性が、私をさらに追い詰める。もし次女の言う通りだったとしたら、私は、自分の信念のために、妹たちを――家族を犠牲にすることになるのか?


いや、それでも違う。間違っているのは次女だ。


私は正しい。そうでなければ、この世界には何の希望もなくなってしまう。どれだけ不可能に見えたとしても、誰かが正しいことを選ばなければならない。私はその「誰か」であるべきだと信じている。


だが、苛立ちに支配されたまま、どう言葉にすればいいのかがわからない。


次女は私を見据えたまま、淡々とその冷たい瞳を揺らさない。彼女の視線がまるで、「結局は私が犠牲になる」とでも言わんばかりだった。


「……!」


何かを叫びたくなる衝動を押し殺し、私は奥歯を噛み締めた。ただ、拳を震わせながら次女を睨みつけることしかできなかった。


助ける。それ以外の道なんてありえない。なのに、どうして私は、こんなにも言葉を失っているのだろうか?

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