いつもの朝(5)次女の視点
シェルターの中は、ひんやりとしていて落ち着く。ここは私の秘密基地。長女は倉庫代わりに使ってるけど、私にとっては立派な実験室だ。誰にも邪魔されないし、外の暑さや騒がしさから解放されるこの空間は、まるで自分だけの世界みたい。薄暗い光に照らされた金属製の机の上には、昨日の夜からずっと考えていた実験セットが並んでいる。実験室って言っても、本当の科学者みたいな設備はないけど、私にとってはこれで十分だ。
今、私はエネルギーの循環について考えている。最近読んだ本で、核エネルギーがどれだけ効率的かって話があった。それに対する好奇心と少しの怖さが同時に胸の中を占める。核エネルギーって、すごく効率が良くて、大きな力を持っているけど、その反面、扱い方を間違えると一瞬で世界を壊してしまう。まるで、すごく繊細な機械みたいだ。制御が全てだ。
私の目の前にあるのは、ただの手作りの簡単な装置。でも、これは私にとっての「小さな原子力発電所」だ。もちろん、本物の核反応なんて起こせるわけないけど、少しの電力でもこの装置がちゃんと働けば、原理を理解できるんじゃないかって思っている。
「さて、今日はどうやって改良しようかな」と、つぶやきながら配線を触る。金属の端子を手に取り、慎重に接続を確認していく。電圧を上げるのか、それとも他のパラメーターをいじるのか。長女や三女は、私のこの「遊び」に理解があるようなないような。でも、そんなの気にしない。私は私で、自分の興味を追求するだけ。これが私の世界だ。誰にも文句を言われる筋合いはない。
シェルターの入り口のドアがガタっと音を立てて、長女の声が聞こえた。「次女、そろそろ準備してね。ボブおじさんのところに行く時間よ。」声ははっきりしてるけど、少しだけ遠く感じる。いつもそうだ、長女は私を誘うけど、私がここで何かしている時には、なかなかすぐに応じる気になれない。だって、この実験の途中でやめるなんて、なんだか気持ち悪いじゃない?
でも今日は少し違う。ボブおじさんがトラクターの運転を教えてくれるって言ってた。それは、ちょっと興味がある。機械には興味があるし、トラクターなんて普段は触れないものだから、実際に運転するのは面白そうだ。大きなタイヤ、重たいエンジン、それを自分で動かす感覚はどんなものなんだろう?
でも、シェルターを出る前に、この実験をもう少しだけ進めたい。長女の「準備してね」の言葉が耳に残っているけど、私はまだ装置に集中している。配線をもう一度確認し、スイッチを入れる。青いランプが点灯し、軽いモーターの音が静かに響く。よし、今のところは順調だ。いつものように、装置が突然煙を吹いたりすることもないし、今日はうまくいくかもしれない。
実験が終わったら、長女の声に応えてシェルターを出ることにしよう。トラクターは楽しみだし、それにボブおじさんの農場には、機械以外にも興味をそそられるものがたくさんある。ボブおじさんはいつも「自然は最高の教師だ」なんて言うけど、私にとっては自然そのものよりも、それを動かす原理や法則が面白い。どうして太陽が植物を育てるのか、どうして雨が降るのか、その背景にあるメカニズムを考える方がずっと魅力的だ。
少しだけ装置をいじってみたら、スイッチを切る。そして、少し不満が残るものの、長女の呼ぶ声を聞きながら、シェルターを出る準備をする。「また次の機会に改良しよう」と自分に言い聞かせて、工具を片付ける。
今日はトラクターの運転だ。お昼からは実験じゃなくて、実際の機械を動かす番。