いつもと違う街 長女の視点
街に足を踏み入れると、いつもの賑やかさがまるで幻だったかのように思えた。シャッターが閉まっている店が目につく。普段なら、色とりどりの看板や明るい店内が街を彩っているはずなのに、今はどこも静かで無機質な感じが漂っていた。商品を見つけようと店を回ってみるが、商品棚は空きが目立つ。買い物かごを持ちながら、私の頭の中ではシェルターに必要な物資のリストがぐるぐると回り続けていた。長持ちする食料、燃料、薬品、あとは衣類や毛布――何か一つでも不足したら、冬が来た時に困るだろう。それに、妹たちを守るためには、少しでも多くの物資を確保しておかなくてはいけない。
足早に店を回るけれど、どこも似たような光景だった。食品の棚にはぽつりぽつりと残った缶詰や乾物があるだけ。新鮮な野菜や果物はすでに売り切れているらしい。私はため息をつきながら、できるだけ手に入るものをかごに入れた。心の中では「これで足りるだろうか」と不安がつのるばかり。街全体がどこか緊張感に包まれていて、いつもの買い物の感覚とは違っていた。
通りを歩く人々の表情も、普段とはまったく違う。顔をしかめて新聞を真剣に読んでいる人、立ち止まって何かを話し合っている人たちが目につく。耳を澄ますと、ニュースについて話している声が時折聞こえてきた。みんな何かを知っている。何かが確実に変わろうとしているのを感じているのだろう。だが、それが何なのか、まだはっきりとはわからない。
一人の男性が通りの隅で新聞を広げながら、仲間たちに声を上げて何かを語っているのが見えた。怒りを露わにした表情が、彼の言葉がただの憶測や不安から来るものではなく、もっと深刻な何かを含んでいるのを感じさせた。彼の声は通りの静けさの中でやけに響いていて、それを聞くたびに私の心臓は少しずつ早く鼓動を打ち始める。
「何かが起きている…」私の胸の中で、その思いがますます大きくなる。新聞に目を落としている人々や、立ち話をしている人たちの様子を見ていると、彼らが私とは違う何かを知っているような気がしてならなかった。私はただ、その沈黙に包まれた街を歩いているだけのような気がして、いつもなら気にもしないささいな物音や、通行人の表情の変化にさえ敏感になっている自分に気づく。
ときおり、遠くから怒鳴り声が聞こえる。それがどこから来ているのかは分からないが、その声が街の平穏を一気に引き裂くような感じがした。通りにいる他の人たちも、その声に反応して一瞬立ち止まり、周囲を見回していた。みんなが何かを恐れている。私はその恐怖が何なのか、知りたいような、知りたくないような気持ちで、胸の中がざわざわとしていた。
「危険かもしれない…」そう思いながらも、私は足を止めずに店を回り続けた。今、この瞬間に何かが起こるかもしれない。それは、もしかしたら私たちの生活を一変させるような出来事かもしれない。だが、それが何なのかはまだ誰も知らないし、誰もそれをはっきりと口に出せていない。
私は買い物かごの中身を一度確認してから、もう一度通りを歩き始める。あといくつかの店を回る必要がある。シェルターに必要なものはまだ十分ではない。妹たちを守るために、少しでも多くの物を手に入れておかないといけないという思いが、私を前に進ませていた。
でも、頭の片隅では、街の異様な静けさや、人々の不安な様子がずっと引っかかっていた。何かが起きようとしている。私はそれを感じているし、たぶん他の人たちもそうだろう。だけど、今はまだ何もできない。ただ、この沈黙の中で、私たちはそれがいつ来るのかを待っているような気がしてならなかった。




