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薬膳料理(3)三女の視点

三女の一人称視点:キッチンで見つめる長女


キッチンに立つ長女の背中をじっと見つめる。カウンターの上には、街で買ってきたばかりの食材がずらりと並んでいる。生姜にクコの実、にんにく、ほうれん草。何やら複雑な香りがふわっと広がって、もうそれだけで私はワクワクしてくる。あの味がまた食べられる――と思うと、嬉しくて胸がじんわり温かくなる。


隣で次女も長女の手元をじっと見つめている。まるで実験の観察でもしているみたいに、真剣な顔つきだ。いつもの癖で頬杖をつきながら、ふと口元を歪めて小さく呟いた。


「まるで魔女みたいだな。」


私は思わず吹き出しそうになったけど、ぐっとこらえた。次女の言い方は皮肉っぽくて、ほんの少しからかうような響きがある。でも私は、そうは思わない。


「魔法使いみたいだね。」と小さく呟いてみた。


だって、そうじゃない?長女が作る薬膳料理はただのごはんじゃない。私たちを元気にしてくれる魔法みたいなものだ。それを作る長女は、とても素敵な魔法使いだと思う。


鍋の中に何かを入れるたび、ふわっと香りが変わっていく。今は生姜の爽やかな匂いが広がって、鼻の奥がスッとする。きっと体の中からポカポカしてくるんだろうな。材料が一つひとつお互いの力を引き出して、まるで仲良しの友だちみたいにまとまっていく。その「おいしさの連携」が私は好きだ。


長女は黙々と手を動かしながら、時々レシピノートに目を落として確認している。あのノートは、どの食材がどんな効果を持っているかとか、どう組み合わせるともっと良くなるかがぎっしり書かれた「魔法の本」だ。


私にとっては、この薬膳料理の味が大好きだ。生姜のピリッとした刺激も、クコの実のほのかな甘さも、どれも素材の味が活きているのがいい。それに何より、長女が「みんなに元気でいてほしい」と思いながら作ってくれる、その愛情がたっぷり詰まっているのが伝わってくる。だから、スプーンを口に運ぶたびに、私は幸せな気持ちになるんだ。


次女は、どうやらあの味が苦手みたいだけど、私は理解できない。もしかして、お肉ばっかり食べてるからじゃないかな。あれじゃ、野菜やハーブの素朴な美味しさに気づけないんだよ。次女は美味しいって顔をしないけど、それでもちゃんと食べるのは偉いと思う。次女なりに長女の気持ちを受け取っているのかもしれない。


「ねえ、味見してみる?」

長女が振り返って、スプーンを差し出してくる。私は「うん!」と元気よく返事をして、一口もらった。


――ああ、やっぱりおいしい。ほんのり塩気の効いたスープが舌の上に広がって、体がじんわりと温かくなる。まるで優しい魔法が心まで届いたみたいに。


「美味しい!これなら次女も絶対好きになるよ!」と私は笑顔で言う。


「そうかな?」と長女は少し照れくさそうに微笑む。


次女はそんな私たちを見ながら、「やれやれ」とばかりに小さく肩をすくめる。でも、口元はいつもより少しだけ緩んでいるように見えた。


きっと次女も、長女の魔法に少しはかかっているんじゃないかなって、私は密かに思った。

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