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街にて(5)三女の視点

長女の横顔を見ながら、私は彼女の手元にある本が何なのか気になって、少し覗き込んだ。表紙には剣を持った少年が険しい山を登っている絵が描かれている。やっぱり、長女が好きな本は冒険物ばかりだ。いつも主人公が何か大きな試練に立ち向かって、それを乗り越える物語が多い。彼女はそういう物語の中で、主人公が迷わずに正しい道を選び続ける姿に自分を重ねているのかもしれない。試練に立ち向かい、勇敢に進んでいく姿は、まさに彼女自身みたいだ。


その一方で、次女が好きなのはもっと理屈っぽい本。科学とか、技術とか、難しそうなことばかり書かれている本を読んでいる。時々、次女が私にそれについて話してくれるけど、正直言ってよくわからない。彼女はいつも、私が理解できないことに少し苛立っているみたいで、もう少しわかるように話してくれたらいいのになって思う。それでも、彼女の目がキラキラしているときは、なんだか嬉しそうだから、聞いているだけでも楽しい。


私はと言えば、やっぱり絵の多い本が好きだ。色とりどりのイラストがページをめくるたびに出てきて、まるでその世界に入り込んだみたいな気分になる。文字だけの本は、なんだか難しくて読むのに時間がかかるし、途中で疲れてしまう。でも、絵本なら違う。絵を見ているだけで、どんどん想像が膨らんでいく。特に、私の好きな本には、どんな冒険が待っているのか、何が起こるのかワクワクしながらページをめくる楽しみがある。


本棚の隅に、ふと目に留まる一冊があった。表紙には、かわいい猫の三姉妹が描かれていて、彼女たちが大きなクジラを釣りに行く話らしい。猫が海に行ってクジラを釣るなんて、そんな不思議な話が気になって手に取ってみる。ページをめくると、色鮮やかな海と大きなクジラが描かれていて、まるでその場にいるような気分になる。クジラは大きくて、優しそうな顔をしている。私はクジラが好きだ。だって、なんだか穏やかで、包み込んでくれるような安心感があるもの。でも、クジラを釣りたいとは思わない。クジラが釣り上げられてしまうなんて、かわいそうだし、そんなことをしてはいけない気がする。


物語の中では、猫たちはクジラを釣ろうとするんだけど、なんと、その餌として長女が使われる場面が出てきた。私はびっくりして思わず笑ってしまった。こんな本があるなんて、すごく不思議だ。長女が餌にされるなんて、現実では絶対にありえないけど、絵本の中ではそれが当たり前のように進んでいく。でも、どこか不思議で面白い。


ページをめくりながら、私はふと思った。「本当のクジラ、一度見てみたいな」。クジラが実際にどれくらい大きいのか、どんな風に海を泳いでいるのか、想像するだけでわくわくする。クジラが潮を吹き上げて、海の中を悠然と泳いでいる姿を、いつか自分の目で見たい。それが現実に見られたら、きっとこの絵本の世界よりももっと壮大で美しいに違いない。


そうだ、せっかく今日は街に来たんだから、少し足を延ばして海まで行ってみたいなって思った。海の匂いを感じて、波の音を聞いて、あの広い水平線を見つめたい。私たちが住んでいるところから、海はそんなに遠くないから、きっとすぐに行けるはずだ。ちらりと長女の方を見る。長女も、たまには少し冒険みたいな気分で海に行くのも悪くないんじゃないかな。


でも、彼女はどうかな。長女はきっと、買い物リストに集中していて、今はそれどころじゃないかもしれない。今日の計画をしっかりと守るタイプだし、急な変更はあまり好きじゃない。それに、荷物も多くなってしまうし、無理かな。でも、やっぱり少しだけ、海に行けたらいいなと願っている自分がいる。


本を元の棚に戻しながら、私はまだ心の中でクジラのことを考えていた。長女に話してみようかな。でも、今はまだ言えないや。長女の横顔を見つめながら、私の心は次第に冒険の気持ちで満ちていく。海の向こうには、未知の世界が広がっているはず。そう思うと、少しだけ胸が高鳴る。

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