街にて(2)三女の視点
三女の一人称視点
私はニュークリアフレーバーのポスターをじっと見つめていた。黒い背景に不気味な緑色が渦巻いていて、まるで世界の終わりを告げるようなデザインだった。宇宙人やUFOのポスターがワクワクさせてくれるコスモスペースフレーバーとは違って、このポスターは怖さしか感じられなかった。なんでそんなのを選ぶんだろう? 私にはちょっと理解できなかった。
でも、次女はそんな私の気持ちを全く気にしていない様子で、ニュークリアフレーバーを頼んでいた。その瞬間、店員さんも少し驚いた表情をしていた。あんまり売れてないのだろうか。それでも、アイスを受け取ってうれしそうに一口食べる姿は、怖いものなんて何もないかのようだった。彼女の表情はあまりにも自然で、怖さなんてまったく感じていないみたい。それを見ていると、私の心の中にあった怖さが、少しずつ和らいでいった。
次女は不思議な子だ。私が「怖い」と感じるものでも、彼女は全然平気。むしろ、興味津々で近づいていく。それがいつも私を安心させてくれる。今だって、彼女があの不気味なニュークリアフレーバーを美味しそうに食べている姿を見ていると、なんだか怖くなくなってくる。次女のこういうところが、好きだな。
アイスクリームを食べている次女をぼんやり見つめながら、ふとぬいぐるみのことを思い出した。前にこの店でミラクルホエールという限定フレーバーを食べた時、私が選んだ味だったんだ。その時、クジラのぬいぐるみも一緒に買ってもらったんだよね。あの時のことは今でもはっきり覚えている。ぬいぐるみを抱えてお店を出た時、なんだかすごく幸せな気持ちになった。それからというもの、私はあの「ホエール」と一緒に寝ている。ホエールは、私にとってただのぬいぐるみ以上の存在だ。抱きしめていると、安心できるんだ。
そんなことを考えながら、私は次女のアイスをもう一度じっと見た。確かに怖そうだけど、彼女が楽しそうに食べているのを見ると、少し羨ましくなってくる。私もその勇気があれば、もっといろんなことを楽しめるのかもしれない。そう思いながら、自分のアイスクリームを一口。私が選んだのは普通のバニラだったけど、それでも十分に美味しい。
ふと、長女の方を見ると、彼女はアイスクリームを食べながら、真剣な顔つきで買い物リストを眺めていた。いつもの長女らしい姿だ。彼女はいつも私たちのことを考えて、必要なものをしっかり把握している。今日も多めに買い物をするみたいで、何を買うかリストを確認している。長女がいれば、私たちは安心していられる。彼女の冷静さや真面目さが、私たちを支えてくれているんだ。
「何か欲しいものがある?」と、ふいに長女が尋ねてきた。
「うーん……特にないけど」と答えながらも、心の中ではもう一つ、ぬいぐるみが欲しいなと思った。でも、それを口に出すのは少し恥ずかしかった。
長女は私の答えに頷き、再びリストに目を戻した。きっと、私たちのために必要なものをたくさん考えてくれているんだろう。彼女がいてくれるおかげで、次女と私はあまり心配せずに毎日を過ごせるんだ。
バスに乗ってここまで来たことも、何だか少し特別な出来事だった。普段はそんなに遠出しないけど、今日は特別にたくさんの買い物をするために、長女が計画してくれたんだ。次女はもちろん、そんなことも楽しんでいたけど、私は少しだけ不安だった。外の世界は、私たちが思っているよりも危険かもしれない。けど、こうして姉たちと一緒にいられる時間が、少しでも長く続けばいいなと思う。
次女の笑顔、長女の真剣な顔、それを見ていると、怖さも不安もどこかへ消えていく気がした。やっぱり、家族っていいな。




