街にて(1)次女の視点
店に入った瞬間、目に飛び込んできたのは今月の限定フレーバーのポスターだった。やっぱり、目を引く。コスモギャラクシーフレーバーとニュークリアフレーバー。どちらも名前からして惹かれるが、特に「宇宙味」と「核の味」だなんて、想像が追いつかない。
まずはコスモギャラクシーフレーバーのポスター。背景には濃紺の宇宙空間、無数の星々が輝き、中心にはロケットに乗った宇宙人が勢いよくUFOを追いかけている。ここがポイントだ。普通なら宇宙人はUFOに乗るはずなのに、この宇宙人は自分のUFOを見失ってロケットに乗り込んだらしい。何とも言えないそのシュールさが、たまらない。宇宙人が必死にUFOを追いかける姿を見ていると、私も宇宙に飛び出して一緒に追いかけたくなるくらいだ。
「これだよ、これ…!」心の中で小さく叫ぶ。思わず舌を湿らせて、早くコスモギャラクシーを味わいたい衝動に駆られる。だが、視線をそらすともう一つのフレーバー、ニュークリアフレーバーのポスターが目に入った。黒い背景に、巨大なアイスクリーム。その背後には、ありえないくらいに大きなキノコ雲が堂々と立ち上っている。そして、その上には緑色の不気味なフォントで「ニュークリアフレーバー」と書かれている。
「これは…なんというか、安っぽいな」と内心苦笑したくなる。ポスター全体がチープで、どう見てもデザインに手抜き感がある。まるで、クオリティの高いコスモギャラクシーのポスターを作った後に、「あ、ついでにこれも頼むよ」と無理やり作らされたようだ。けれど、それが逆にいい。この時代、この状況でこんなポスターを堂々と貼るのは、ある意味で天才的だ。
私は店内を見回し、他の人々がどう感じているのかを少し確認してみたが、特に気にしている様子もない。長女も、何か考え込むようにニュークリアフレーバーのポスターをじっと見つめ、眉をひそめていた。それも当然だ。今、このご時世に「核の味」を口にすることを真剣に考える人は少ないだろう。
けれど、私は違う。時勢に合わせるなら、今こそニュークリアフレーバーを選ぶべきだ。もちろん、私だってコスモギャラクシーフレーバーの誘惑を無視するのは難しい。あのロケットに乗った宇宙人が私を呼んでいるような気さえする。それでも、今は冷静になろう。今日、ニュークリアフレーバーを選んで、次回こそは絶対にコスモギャラクシーフレーバーを食べる。そんな確固たる決意を胸に抱いた。
長女が店員に何か質問をしているのを横目で見つつ、私はニュークリアフレーバーをじっと見つめていた。その強烈なビジュアルをもう一度心の中に焼き付ける。アイスクリームとキノコ雲。まさかこの二つを組み合わせるとは…。そう思いながらも、私はやがて確信した。「今度、コスモギャラクシーフレーバーを食べる時には、三女のホエールじゃないけど、UFOのプラモデルでも買ってもらおう」と。
そして、私はついに決心した。「ニュークリアフレーバーをください!」と言った瞬間、店員の驚いた表情が目に入った。ほんの一瞬、目を大きく見開いたかと思うと、すぐに彼は気を取り直してオーダーを受け取った。あまりにも注文が少ないのだろうか、それとも単に私がこのフレーバーを頼んだこと自体が意外だったのだろうか。彼の反応は、私の中の少しの不安を呼び起こした。もしかして、これを頼むのは私だけなのかも、と。
そんな不安を感じつつも、私はニュークリアフレーバーに心を惹かれ続けていた。周りの視線が気になるが、それでも今日の選択が特別な意味を持つような気がした。今という時代にふさわしい選択をする覚悟を決めた。次は、どんな味が待っているのだろうか。ああ、楽しみだ。




