街へ行こう(2)次女の視点
「ああ、まただ。」ニュースキャスターが「核」とか「危機」とか言うたびに、どうしても耳をそばだててしまう。今朝もまた同じようなニュースが流れていて、長女が少し不安そうな顔をしていた。彼女はいつだって心配性だ。だけど、こんなに「核」の話を何回も聞かされたら、普通は興味を持つだろう。私はむしろワクワクしてくる。核の原理とか、その破壊力のすごさとか、理論的に考えると本当に面白いんだ。
破壊の規模がとんでもないし、全てを一瞬で吹き飛ばすエネルギーの塊だ。あれを制御できるなんて、科学の力は本当にすごい。人類は何千年もかけて、火とか水とかを利用する方法を編み出してきたけど、核はその究極だ。物理の本で読んだ時のことを思い出す。ウランの核分裂やプルトニウムの利用法、その効率性と破壊力が見事に融合しているところが特に好きだ。
もちろん、私はそれを実際に使って何かを壊したいわけじゃないけど、その技術を知っておくことは大切だと思う。知識を持っていることで、何かあった時にどうすればいいかがわかる。備えるのって、そういうことだ。長女はそういう実際的なところまで考えずに、ただ心配してばかりなんだよな。政府だってそこまで馬鹿じゃないし、核戦争なんて起こるはずがない。そんなもの、政治家たちがバランスを取って避けてくれる。だから、私はもっと気楽に見ていられるんだ。
最近は、シェルターの改造にもハマってる。あれは完全に私の実験室だ。工具箱の中には、いろいろな装置や部品が詰まっていて、いじりがいがある。空気の循環システムとか、簡単な発電機とかも作った。なんだかんだで、あそこにいると落ち着く。長女がいつも言っている「備え」というのも、実際に手を動かして何かを作ることなら面白いんだけど、彼女が心配しているのは感情的なものばかりだ。
今日は、街に出ることになった。長女がまた何か心配していて、「念のために」っていう理由で買い出しに行こうとしているみたい。そんなに急がなくても、特に問題はないはずだけど、まあ外に出るなら出るで悪くないかもしれない。街に行けば、新しい本が手に入るかもしれないし、最近はあまり読んでない科学雑誌もチェックしたいところだ。
「次女、今から街に出るけど、一緒に行かない?」と長女が階段の上から声をかけてきた時、私はちょうどシェルターの中で、配線をいじっていた。タイミング的にはちょっと惜しいところだけど、まあ仕方ない。外に出るなら、本屋に寄ってもらうのも悪くないか。
「うーん、どうしようかな。」私は一瞬考え込んだフリをしてみたけど、実際には答えは決まっていた。「まあ、何か面白いものが見つかるかもしれないから、行くか。」
長女が準備をしている間、私は適当に着替えを済ませた。ポケットには、いつものように小さなドライバーや工具をいくつか忍ばせておく。街に行く途中で何か壊れていたら、ちょっと修理してみるのも面白いし、何か発見があるかもしれない。長女はおそらくそういうところをあまり気にしないだろうけど、私はいつも頭の片隅に、何か新しいことを見つけるチャンスが転がっていないかを考えている。
本屋で探したいのは、核エネルギーに関する最新の本だ。これまで読んできたものでは、どこか物足りなさを感じていた。理論は面白いけど、実際の応用や未来の技術がどうなるかについてはまだ未知数だ。例えば、核融合が本当に実現できれば、それこそクリーンで無限のエネルギー源になるっていう話もあるけど、そこまで行くにはまだまだ時間がかかるらしい。でも、その研究の進展を追っていくのは楽しいし、実際にその未来が来たら、私もその時代の最先端にいたいと思う。
そういうことを考えながら、私は玄関へと向かう。三女も来るらしいけど、彼女は最近ちょっと元気がない。いつもなら鼻歌を歌って何かに夢中になっているはずなのに、最近は何だか大人しい。彼女は感情に敏感だから、最近のニュースが影響しているのかもしれない。長女がそんな彼女を気にしているのもわかるけど、私は彼女の内面に立ち入るのがあまり得意じゃない。感情のことをどう扱えばいいのか、よくわからないんだ。
ともかく、街に行けば少しは気が紛れるかもしれない。私たち三人で外に出かけるのも久しぶりだし、こんな時だからこそ、日常の延長でちょっとした冒険を楽しんでみるのも悪くない。
「よし、準備完了。」私は一人、軽く言って、玄関のドアに手をかけた。




