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いつもの朝(2)次女の視点

目が覚めた瞬間、やけに眩しい光がカーテン越しに差し込んできた。時計を見ると、いつもより少し遅れてるけど、別に慌てることじゃない。どうせ朝ご飯はまだできてないはずだし、長女は私を起こすときにもう一度確認するのが常だ。私は布団の中で少し伸びをして、気だるさを紛らわせる。朝は嫌いだ。起きるのは面倒だし、特に何も面白いことがない。


ドアを軽く叩く音が聞こえ、長女の声がする。

「朝ご飯できたよ。早く起きて。」


ほらね。彼女はいつもこんな風に私を促す。どうせ三女と二人で外で作業してたんだろう。私は布団から体を起こし、足を床に投げ出すように下ろす。まだ眠気が残るけど、とにかく台所へ向かう。


階段を降りると、既にテーブルには朝ご飯が並べられている。三女が嬉しそうににこにこしながら、自分たちで育てたトマトを使ったサラダを私に差し出してくる。きゅうりもある。野菜ばっかりじゃないか。もっと栄養があるものが食べたいけど、文句を言っても仕方ない。


「ほら、これ、美味しいよ」

三女は私に向かってサラダを勧めてくるけど、私はスクランブルエッグに集中していた。トマトと一緒に炒められた卵がいい感じに混ざっていて、食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。


「ありがとう」とだけ言って、サラダを一口取る。思ったよりシャキシャキしてて悪くない。三女がこうやって自分で野菜を育ててくれるのはありがたいことだ。でも、私はそれよりも今考えていることを口にしたくてたまらない。昨日の夜、寝る前に読んでた本の内容が頭から離れないんだ。


「ねえ、聞いて」

スクランブルエッグを少し口に放り込みながら、私は話を切り出す。

「昨日読んでた本で、また面白いことが書いてあったんだよ。核エネルギーについてさ。」


長女がすぐに反応するわけじゃないのはわかってる。彼女は私の科学的な話には興味がないことが多い。だけど、こういう話題を持ち出さないと会話が停滞してしまう。私はとにかく話し始める。誰かに話したい、って感じだ。


「核エネルギーってすごいんだよ。すごい力を持ってて、エネルギーの効率も高い。核融合とか、ほんとに未来を変える技術だって言われてるんだ。もしこれがうまくいったら、今の電力問題も全部解決できるかもしれないんだってさ。でも…」

私は一瞬言葉を止める。ここからが本題だ。

「でも、同じくらい怖いんだよ。核兵器とかさ。使われたら、人々がどれだけの被害を受けるかわかんない。全部が一瞬で壊れてしまうかもしれないんだよ?」


三女は私の話を聞いてるけど、どこか上の空だ。彼女はこういう話はあまり得意じゃない。彼女の頭の中では、もっと感覚的でふわふわしたことを考えてるんだろう。でも、これも大事な話だってわかってほしい。だって、こんなことが起きたらどうするのか、私たちも知っておかないといけないんだ。


「ねえ、お姉ちゃん」

私は長女に向かって話しかける。彼女はまだ黙々と食べてるけど、何か考えてるみたいだ。ニュースを見てるだろうから、少しは気にしてるはずだ。


「最近、ニュースで色々言ってるじゃん。国同士がいがみ合っててさ。もし本当に戦争になったらどうなると思う?このシェルターって、そういう時に使えるんじゃない?」


自分でも少し不安になるようなことを言っているのはわかる。でも、これが現実だ。戦争の話は遠い世界の話じゃない。核エネルギーは平和にも、破壊にも使える。その両方を知ってるのと知らないのとでは、全然違う。


三女が私の話に完全に引き込まれていないのは見ればわかる。むしろ、トマトの皮を丁寧に剥いて食べようとしている。私はそれに気づき、軽くため息をつく。彼女にこんな話は難しいのかもしれない。だけど、長女ならわかってくれるはずだ。


「そういう話は、あまり朝食には合わないよ」

長女がぼそりとそう言った。でも、私の言葉を全く無視したわけじゃないのは、その表情からわかる。彼女も何か考えている。食べる手を止めた瞬間、彼女がふと窓の外を見つめた。


「まあ、確かにそうかもね」

私は苦笑しながら、フォークを手に再び食べ始める。食事の時間にこんな話をするのは重いけど、頭の中にあることを話さずにはいられない。それが私のやり方だから。


外の景色は平和そのものだ。何も変わらない毎日。でも、その裏で何かがじわじわと近づいているような気がしてならない。

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