ミートローフ(1)長女の視点
帰り道、冷たい風が頬をかすめるたびに、私の胸の中のモヤモヤがさらに重くなる。誰も何も言わず、ただ足音だけが小さく響いている。その静けさが痛い。次女は黙りこくったまま、少し距離を置いて歩いている。三女はその間に挟まれて、私たちの様子を伺っているのがわかる。次女の涙を思い出すたび、あの瞬間の自分の言い方がいかにきつかったかを思い知らされる。胸の奥が重く、苦い気持ちが押し寄せてくる。
「どうして、あんな風に言ってしまったんだろう…」
あの時、次女が危険な運転をした瞬間、私の中に強烈な恐怖が湧き上がった。三女の目が見開いて、固まっていたことにも気づいていた。次女はそんな三女の恐怖に気づかないまま、無邪気というか無頓着な態度で平気そうにしていた。それが、私を余計に怒らせた。どうしてあんな無神経なことができるのか。あの子は、いつも自分の興味にばかり気を取られて、周りを見ていない。自分たちがどんなに心配しているのか、危険なことをしているのか、まるでわかっていない。
「もう少し考えてくれたらいいのに…」
いつもそうだ。次女は自分の世界に没頭するあまり、他人の感情や状況を見逃してしまう。それが三女を怖がらせることだってある。あの時も、三女が顔を真っ青にして怖がっていることなんて見えていなかっただろう。どうしてあんなことができるんだろう。私たちを守りたいのに、あの子が時々、あまりにも無防備で、自己中心的に見えることがある。それが、私をイライラさせる原因だ。
でも、そう感じているのは私だけじゃない。三女だって、不安を感じているはずだ。彼女は小さな手を握りしめ、黙って私たちの間を歩いている。三女はいつも私たちの空気を敏感に感じ取り、言葉にはしなくても不安そうな顔をしている。私たちが険悪になると、彼女が一番傷つく。それを分かっていながら、私は感情に任せて、次女を叱ってしまった。
「…叱りすぎた、間違いない。」
頭の中で何度も繰り返す。あの時、感情が爆発してしまったのは、確かに次女の無鉄砲な行動に対する恐怖と心配が原因だった。でも、あの言い方はなかった。次女が泣いてしまったのを見て、ようやくそのことに気づいた。叱ることが彼女を変えるわけじゃない。むしろ、逆効果だったんじゃないかという不安さえある。
「謝らないといけないな…」
次女への不満は残っているけれど、それを抱えたままじゃ何も解決しない。彼女だって悪気があってやったわけじゃないし、きっと自分なりに反省しているはずだ。私は深呼吸を一つして、ふっと息を吐き出す。どう言えばいいのか、頭の中で整理しながら、少し歩みを早めて、次女に追いついた。
「次女、さっきは言い過ぎた。ごめんね。」
そう言うと、彼女は私を一瞬だけ見たが、またすぐに視線を逸らした。返事はないけれど、少しだけ表情が和らいだ気がする。私は続けて話す。
「危険なことは本当にやめてほしいんだ。でも、あの言い方は良くなかった。三女も怖がってたし、私も…すごく心配してたんだ。」
次女はまだ何も言わない。でも、少しずつ私の言葉が届いているような気がした。私はもう少しだけ勇気を振り絞って、場の空気を変えようと提案する。
「ね、今日は三女の自慢のミートローフにしようか。次女の好きなやつ、特製のね。」
次女がほんの少しだけ顔を上げた。それは大きな反応ではなかったけれど、彼女の好物に関しては、いつも少しだけ心がほぐれることを私は知っている。三女のミートローフは、いつも次女の心を和らげる。それに、三女が嬉しそうに料理をしている姿を見ると、家族の緊張した空気も自然と解けるのだ。
三女がその提案を聞いて、ニッコリと笑った。彼女は本当に、こういう小さな瞬間で空気を変える力を持っている。次女もそれに気づいているはずだ。歩みはそのままだけれど、私たちの間に流れる空気は少しだけ軽くなった気がした。
「ね、次女。それでいい?」私はもう一度、彼女に問いかける。次女はやっと、かすかにうなずいた。声には出さなかったけれど、その小さな動きだけでも私には十分だった。
家に帰ったら、みんなでゆっくり食卓を囲もう。ミートローフを囲みながら、もっと優しく、ゆっくりと話す時間を作ろう。家族として、大切に思っていることを伝えなければならない
※ミートローフ
オーブンで焼くハンバーグのような欧米で広く親しまれている家庭料理の一つ。
牛肉や豚肉などのひき肉に、パン粉や卵、玉ねぎ、にんにくなどの材料を混ぜ合わせ、パン型のような形に整えて焼き上げる。名前の「ローフ(loaf)」は、パンの形を意味し、食べやすいスライス状に切り分けて提供することが多い。
味付けは地域や家庭によって異なり、ケチャップやバーベキューソースで甘辛く仕上げるものや、ハーブやスパイスで風味豊かにするレシピもある。また、調理の際にチーズや野菜を生地の中に詰め込むバリエーションも一般的。
特にアメリカの家庭料理として愛されており、焼いた後、冷めてもおいしいため、翌日のサンドイッチに使うこともある。




