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鋼鉄の赫竜  作者: ebi_chann_
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第四章 【胎動】

8日目。


この8日間のうち私は初日で今回のゲルマニア訪問の目的を達してしまったので、残りの日は大してやることもなくなってしまった。


2日目も同じく禁書庫で情報を漁ったのだがこれといった情報は初日のもの以外になかった。


しかし、ハインリヒの提案で、3日目から残りの滞在期間は彼ら家族と一緒に各所で行われる式典やら祭典やらを見て回ろうということになった。


最終日である今日はフォルクス・ハレにおいて総統閣下より極めて重要な発表と演説が行われるそうで、私は彼らとともにその場へ行くこととなっている。


とはいえ、この戦勝記念式典の最終日は毎年、国の新たなプロジェクトや新技術、新兵器などのお披露目もなされている。


これは国民に向けての一種のパフォーマンスのようなものであろう。


事実、その国民らは毎年この発表を楽しみにしているため、国の政策としては専ら成功といえる。


またその会見は午前に行われるので、朝から悠長とはしていられない。


そうして、私達は朝食後早々と家を出発したのだった。


                        ◇


フォルクス・ハレ。


ゲルマニア=ベルリン国立中央駅から北へ伸びる南北縦貫メインストリートの先、高くそびえるその議場のホールの天蓋はまるで巨大なピッケルハウベのようである。


今日、総統閣下から直々に国民───ひいては全世界へ向けて行われる会見はさぞ大層なものなのだろうと切実な高揚とともにその大ホールが見られる南北縦貫メインストリートの歩道を歩く。


遠目からもホール周辺や道で人々が蠢いているのが見て取れる。


今日はこの演説のために多くの道路は全面的に車の通行が制限されており、歩行者天国かのような状態である。


が、警察や軍も動員され、それによって議場に近づくにつれ、人々の流れは統制されたものとなっていく。


非常に秩序立ったさまである。


私達も彼らの指示に従い、所定の位置へと誘導される。


ホールの外周にはスピーカーや白黒のディスプレイが設置され、その周囲に人々は集まり、人によっては椅子やグランドシートを持参し、座りながら待つ者もいる。


そんな中、私達は少し離れたところに立ち、談笑でもしながら演説が始まるのを待つ。


「今年はどんな発表があるんだろうな。」


ハインリヒが誰にでもなく問いかける。


「もうちょっと実用的で家庭的な技術とかを発表してほしいわね。主婦の意見だけど。」


ローザは自分なりの意見で答える。


「いやいや、いつものはロマンがあって、かっこいいだろ。なあ?」


ハインリヒはそう熱心に語り、私に同意を求める。


「そりゃ、もちr」


私がそれに同意しかけたところで、スピーカーから虫の飛び回るような砂嵐の音が鳴り、それは遮られた。


そうすると、ディスプレイの中、フォルクス・ハレ内の席に大臣や各国要人たちが集っていた。


私達含めそれを見ていた人々は、静かにその中を見つめている。


彼らは立ち上がり、拍手でもって、国家元首━━━総統閣下の登場を迎える。


                        ◇


『まず最初に、今日ここに、皆さんに集まっていただけたこと、誠に感謝申し上げます。』


壇上に登ったゲッベルスは一礼した後そう告げ、ホール内の議席に座する各国の高官や首脳、有力者らに目を配る。


その彼の声はマイクを通して電気信号となり、議場内に、そしてゲルマニア市街や国中に、果ては世界へと響く。


かつてのように。


いつものように。


『たった今これを耳にしているゲルマニア帝国の同胞諸君!労働者諸君!そして盟友諸君!今日、我々は戦勝から12年目という記念すべき日を迎えた!21年前のあの日!我らは偉大なる指導者を総統として迎え12年前のその日へ至り、本来あるべき秩序を創り上げたのだ。何より汝らの功労によって!汝らの血と涙によって!汝らの鋼鉄の如き意志によって!』


観衆から歓声が上がる。


偉大な勝利と指導者を称えて。


数多の観衆らはこの “平和” を信じているということを伝えるために。


「「「「「SIEG HEIL(ジーク ハイル)!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!」」」」」


ゲッベルスは熱弁する。


彼の目は確かに輝き、額から汗が滴る。


『かの勝利は新たな時代の開幕を告げるものであり、我らの偉大な秩序と平和を象徴するものでもある。非道な連合国を討ち負かし、1度目の敗戦からたった数年、十数年で国民も、文明も我々は目まぐるしく発展させてきた!今日の世界の繁栄と泰平を牽引するのは我らであり、その共同体であり総統閣下であることは明白なのだ。』


観衆は奮起する。


かつての勝利を、そこに集う全ての人が、称える。


「「「「「SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!」」」」」


『しかし!それを良いものと思わぬ者もいる。アメリカで、ブリテン島で、シベリア、北欧でその者らが暗躍している現状も皆知っての通りだ。そこで今ここの盟友諸君らに!、同志諸君らに問おう!』


ゲッベルスは一息つき唾を飲み込む。


その目はまさにこの千年帝国の輝かしい未来を信奉する者の一人たるものである。


観衆はこれを察してか一堂に静まり返り、ゲッベルスの次の発言を待ちわびる。


『諸君らは18年前祖国に、そして総統閣下にその御身を全て捧げんと誓った。その意志は今も揺らがぬものであると言えるか!』


「「「「「Jaaaaaaaaa(ヤーーーーーー)!」」」」」


『諸君らは総統閣下の、我ら代表陣の命により、10時間であれ12時間であれ、その共同体のために働く覚悟はあるか!』


「「「「「Jaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」」」」」


『諸君らはかつてのように世界の秩序を作り上げる覚悟はあるか!』


「「「「「Jaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」」」」」


『ならば!今再び諸君らの忠誠を示すのだ!諸君らの総統閣下に!、そして何よりその祖国に!』


「「「「「Jaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」」」」」


『最後はやはりこの言葉で締めさせていただきたい。さあ国民よ、起て!そして嵐よ起きよ!』


「「「「「HEIL(ハイル)!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!」」」」」


ゲルマニア国民の観衆らは右手を天に掲げ、議場内に垂らされたハーケンクロイツの旗と総統閣下に、羨望と希望、夢想の瞳でもって答える。


その歓声は議場を揺らし、彼らの魂をも共振させる。


そうしてゲッベルスは一礼をし、演台から降りていく。


そしてその後すぐに彼──ゲルマニア帝国総統アドルフ・ヒトラー閣下が観衆らの目線に答えるように演台へと上った。


彼はその顔を上げ静かにその右手を観衆のゲルマニア国民らと同じように右手を天に掲げる。


「「「「「HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!」」」」」


総統のその動作に議場内の観衆は呼応して叫ぶ。


ヒトラーはその観衆を、手を上げたまま、高所より一望する。


その眺めはさぞ心地の良い光景であっただろう。


その光景は己の正義を肯定するものであっただろう。


そうして総統がその手を下ろすと自ずと観衆も静まる。


それを確認して、ヒトラーは満を持してその眼前のマイクへと声を通す。


『諸君。』


その声はどこか老いを感じさせるものでありつつも、彼らしい演説で、彼らしい覇気を帯びていた。


『ゲッベルス君の述べてくれたように昨今、我々に新たな魔の手が忍び寄っていることは言うまでもない。であらば、我らはどうせねばなるまいか。しかし、その答えもまた言うまでもなく明白なことだ!』


議場内の国民らは熱狂する。


「「「「「HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!」」」」」


ヒトラーはその熱狂が収まるのを待つ。


その間は観衆らをより彼の世界へと惹きつけてゆく。


『その答えを諸君らは今、かつてのように私に、私達に示してくれている。諸君らはその意志でもって、我らの征くべき道に光を与えてくれた!SIEG HEIL!』


再び観衆は熱狂する。


その光を絶やさぬべしと声を張り上げる。


「「「「「SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!」」」」」


しかし、ヒトラーは顔を落とし、先刻よりも長い間をつくってから話し続ける。


『しかしながら、私がその道を進み続けるのもあと少しかも知れない。見ての通り私も時の流れには逆らうことは出来ない。この国の展望を諸君らと見届けられえぬのは非常に残念なことだ。だが、それは迫る運命であり、私自身の終幕に過ぎぬのだ。決してこれは我ら民族や国家の行き着く終着ではない!たとえ私がこの座を降りようとも諸君らがその手を止めることはない!、私は諸君らに機会を与えただけであって、ここに立つためには諸君らの並々ならぬ努力と苦心あってのことだと信じている。諸君らもどうか信じてほしい。祖国の栄華を!悠久たるこの秩序を!』


観衆らは共に己等の指導者を称える。随喜の涙と共に。


「「HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!HEIL!」」


「「SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!SIEG HEIL!」」


「「HEIL(ハイル)HITLER(ヒトラー)!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!HEIL HITLER!」」


ヒトラーはなおも続ける。


『差し当たってここに宣言させてもらおう。二度目の、総統選挙を。』


そう言い終わったところで、突然、議場を物理的に揺らすほどの轟音が鳴り響き、彼の声はかき消された。

えびです。よくここまで読みましたね。ありがとうございます。ファンタジーの要素が本格的に出てくるのはまだ先です。気長に読んでいてください。

もし続きが気になるとか、この作品面白いとか思っていただければ★やブックマークをお願いします。

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