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鋼鉄の赫竜  作者: ebi_chann_
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第二章 【ゲルマニア】

8月9日。


戦勝記念式典そのものは、8月16日まで例年行われている。


そうは言っても、なんだかんだ例年8月いっぱいは外国からの見物客も大勢いるので、士官学校の教官ら含めた軍隊も動員されている。


そして今日も、世界中からその式典のために多くの人がここ、世界首都ゲルマニアへと訪れる。


多くは旧枢軸国からの人ばかりなのだが。


そんな人のごった返すゲルマニア=ベルリン国立中央駅のホームに一人の青年が数多の肩に揉まれながらも足をつける。


名をアウグスト・デーリング。


父が所属していた部隊に関しての調査のために彼はゲルマニアへ訪れた。


まず目に入ったのは、その荘厳な装飾たち、天井から下ろされたはためくハーケンクロイツの垂れ幕。


それらはまるで我ら国家の栄華を体現しているかのようだ。


駅の多くの壁はガラス張りで強大な技術力を感じさせながらも、柱の装飾などは新古典様式的なで建築方式が採用され、さながら技術と伝統の融合といった感じだ。


駅の正面出入り口からは南北縦貫メインストリートが巨大凱旋門をくぐり、議事堂たるフォルクス・ハレの威容も眺望できる。


さすがは、世界首都としてその名を轟かせているだけのことはある。


と、私は感心しながら駅の構内を歩きながら、


「確か迎えが来てるはずなんだけ、ど。」


そう言って辺りを見渡す。


イザークが言っていた知り合いがここまで迎えに来てくれているはずなので、その人物を探している。


聞くところによるとその人はこの辺で車の整備士をしているらしい。


服装は青っぽいツナギで見た目は大柄で銀髪なのでわかりやすいはずだ、と言われたもののあまりの人混みでなかなか分からない。


だが歩き回っていればそのうち見つかるだろう。


                        ◇


景観も堪能しつつ、しばらくの間彷徨っているうちに出口付近まで来てしまった。


と、そこで突然、背後から声を掛けられた。


「よっ!」


肩を掴んでそう告げられ思わず、振り返るとそこには青いツナギで覆われた巨躯に銀髪を輝かせた男性が立っていた。


確実にこの人だ。


「もしかしてハインリヒさんですか?」


「そう。俺がハインリヒだ。ハインリヒ・ロンメル。ま、とりあえずここじゃ人が多いし、外に出よう。」


駅の外へ出ると、ハインリヒは、


「イザークから話は聞いてる。しばらく滞在するからお前を泊めてくれってな。」


ハインリヒは自身の車のところへ向かいながら、横目で語りかける。


「ええ、都合は大丈夫なんですか?」


「ハハハ!そりゃ大丈夫だとも。それに旧友からの頼みだ。断るわけにもいかんだろう?」


彼は自身が乗ってきた乗用車のドアへ手をかけながら言う。


「確かにそうですね。それにしても、これはKdF(カー・デー・エフ)Wagen(ワーゲン)-Werke(ヴェルケ)のタイプ1ですか?」


「ああ、そうだ!いいだろう?この外装がまるっこくていいんだよ。」


そうKdF、KdF社とは、戦時のKdF計画が戦後、民間の団体として運営されるようになったことで成立された企業である。


この企業は帝国国内や植民地地域のインフラの多くを担っており、Wagen-Werkeは傘下企業として党の国民車の計画の延長として継続されている。


「しかも、これがたった990マルクで買えるんだぞ?こんないい話があるか。」


ハインリヒは興奮した口調で語りだす。


「って、話してたら日が暮れちまう。さ乗った乗った。」


のを抑え、車に乗るように促す。


車に乗り込み、ハインリヒはポケットからキーを取り出し、エンジンをかける。


「改めて自己紹介しとくよ。名前はハインリヒ・ロンメル。この辺にある小っさい車の整備会社でメカニックをやってる。」


「あと、家は妻と娘との3人だ。よろしく。」


そう言って彼はグリースやエンジンオイルによって若干黒ずんだ手を差し出す。


その腕には腕時計を輝かせて。


「こちらこそ。俺はアウグスト・デーリングです。ご存知の通りミュンヘン陸軍大学の一年です。」


そう言って握手を交わす。


                        ◇


車は走り出し、少ししたところで車が停まる。


「着いたよ。ここが俺の家だ。」


そう言って、彼は車の外へ出る。


それに乗じて、私も車の外へ出ると、ゲルマニアほどでなくとも賑やかな笑い声や話し声が聞こえてくる。


式典のせいか、露店なども多く窺え、それらの喧騒に気圧されそうになる。


「おーい。こっちこっち。」


彼に呼ばれて、そちらを向くとそこには木製のフレームを意図的に露出させたハーフティンバー様式の建物がそびえていた。


いかにも我が国の文化を感じさせる。


カリーヴルストの香ばしい香りも漂ってくる。


また、その両脇にも似たような建物が連なっており、地元や大学周辺では見たことのない風景に感心する。


と、木製扉の金具が軋む、扉の開く音が聞こた。


ハインリヒは家の中へ入っていく。


はっとして、私はその後を追うようにして足早に玄関先へ行き、ハインリヒとともに家の中へ入った。


                        ◇


「ただいま。」


ハインリヒは中で待つ妻子に自分の帰宅を告げる。


「お邪魔します。」


そう言って私は彼のあとに続ける。


それとほぼ同時に玄関から伸びる廊下の奥にある扉が開き、7歳くらいの女の子がひょこっと顔を出し、その後ろから彼女の母親が姿を現し、


「おかえりなさい。その人が例の?」


「ああ、紹介するよ。彼は、アウグスト・デーリング。陸軍の士官候補生で、ここで泊めることになってる。」


ハインリヒはある程度簡単に私の紹介を済ませる。


そこで彼は振り向き、私に向かって、


「それじゃ、僕の家族を紹介するよ。この娘はハンナ・ロンメル。僕らの娘だ。そして彼女がローザ・ロンメルだ。僕の奥さんね。美人だろう?」


「何言ってのよ。」


そう、仲睦まじい家族の風景を眺めていると、

「まあいいわ。とりあえずよろしく。」


ローザは温かく母親たる安心感を感じさせるような声色でそう言い、私に向かって手を差し伸べる。


「ええ、こちらこそ。」


                        ◇


翌日、ロンメル家宅。


私、アウグストは朝の4時頃に目が覚める。


仮にも知らぬ人の家であるからか、早くに起きてしまったのだろうか、と朝から頭を使う。


眠気も覚めてしまったので、近くを散策を兼ねて散歩でもしようかと考え、借りているベッドから身を起こす。


持ってきた服でちょっとした軽装に着替え、部屋を出ると、お手洗いから戻る途中らしいハインリヒと鉢合わせた。


「おお、おはよう。」


彼はまだ眠たいのか、目を擦っている。


「おはようございます。」


「どこかへ行くのか?」


こんな時間にどこへ行くのか不思議に思ったのだろう。


彼は問いかける。


「少し散策がてら街の散歩でもと。」


「そうか。キッチンにパンがあるから食べてくといい。」


「ありがとうございます。」


そう話し終わると、彼は自分の寝室へと帰っていく。


彼が見えなくなったところで、私は部屋の扉を閉め、ハインリヒとは反対の方向のキッチンのあるリビングへと歩を進める。


キッチンにつくと布を被せたバスケットがあった。


おそらくこれのことだろう。


布を手で少しめくると、ロッゲンブロートやフォルコルンブロートなどの定番のパンたちがその顔を顕にする。


もちろん焼き立てではないので、冷えているし、多少固くはあるが、それこそが良いのだ。


一切れ食べていくとしよう。


                        ◇


玄関から出ると、昨日はあれだけ賑わっていた通りも早朝は流石に薄暗く閑散としており、朝の開店に向けて準備をし始める人や、自分と同じように散歩をしているらしい人らがちらほらと見られるだけである。


そんな中、特に行く宛もないので、ひとまずはシュプレー川にでも行ってみようと考えを巡らせ体を傾けた。


建物に遮られているせいか、太陽は見えない。


しかし、其の隙間から覗く地平線の縁は少し白みがかかっていた。


都会というのはいいものだ。


なんでもあるし、人も多い。


式典の影響もあって、早々と開店の準備に取り掛かる者らの姿も多い。


彼らが今日の国を支え、戦勝を支えてきたのだと思うと感慨深い。


歩きはじめてから十数分は経っただろう。


シュプレー川に臨むモンビシュウ公園へと入る。


私は少し休憩をしてから帰ろうと川の傍のベンチを見つける。


目の前にはフリードリヒ博物館やペルガモン博物館などが立ち並ぶ博物館島があり、一角には目的地であるゲルマニア国立図書館もある。


周辺の博物館なども式典の影響でドイツの古典美術や我ら人種の文化的、歴史的物品の展示や総統閣下の書かれた絵画の特集などを宣伝する垂れ幕や国家のプロパガンダを感じさせるスローガンや鉤十字の垂れ幕も物々しくそこに居座っている。


どこも式典に乗じてのもので煩わしくも感じられるが、それがきっと国の指示や意向だろう。


が、そこには赤いネクタイと重厚な革靴にハーケンクロイツの腕章と黒いダブルスーツを着た金茶色の髪をした男性が座っていた。


こんな時間にスーツ姿で、しかもこんなところで、何をしているのだろうか。


一抹の不安と好奇心に駆られ、私は男に話しかける


「となり、いいですか?」


「もちろんいいとも。」


「なぜスーツで?しかも腕章って。」


私がかねてからの疑問を男に問いかけると、


「党員だよ。一応ね。スーツの理由は、まあ、気にすることはない。仕事だよ。そう気負わないでくれ。」


「そうですか。」


しばらくの沈黙のあと、男は突然口を開いた。


「君は神を信仰するかい?」


「え?」


男の突然の質問に少し間の抜けた返しをしてしまう。


神を信仰するかだと?バカバカしい。この男は一体何を言っているのだ。


「君がどう答えようと知ったことじゃないが、ただ『戦場に無神論者はいない』ってことは覚えておくべきだ。いずれ戦場に立つ身なのだから。そういう立場だろう?」


確かに『神』といえば仰々しいかも知れないが、信じるものがないというのは戦場において問題だ。


なぜなら、それは我らの世界における生きる目的に他ならないからだ。


「はあ。変な質問をしてしまったね。」


男は嘆息して、立ち上がり、そう告げる。


「いえ、別にそんなことは。」


「党員だからって気を遣う必要はない。ただ見に来ただけだから。」


「見に……?」


私がその質問を言い切る間もなく男は、


「あと、アドバイス。君は、君の知らない、大きな役目を背負ってる。だから、『理念なくして闘争力なし』ってね。」


そう言って男は帰って行く。


私が質問を遮ったまま。


                        ◇


私が家へ帰る頃には既に他の皆々も目を覚まし、リビングにある食卓を囲ってハンナとハインリヒが椅子に座って、ローザがキッチンに立っていた。


ハインリヒは早朝の姿とは打って変わって、蒼い光を放つ瞳をこちらへ向け、私の帰宅に気づいたようだ。


「おっ。来た来た。おーい、ローザ!帰ってきたぞー。」


「あら、おかえり。朝食にしましょう。」


ローザが手を洗い、同じく食卓の椅子に座る。


その食卓の上には先程のパンに、チーズやハム、サラダが人数分並べられている。


もちろん私の分もそこにはあった。


扉を締め、私も食卓の空いている椅子に座り、


「ただいまかえりました!いやあ、お待たせしちゃって。」


そうして、ローザは私が席についたことを確認して、


Guten(グーテン) appetit(アペティート).」


と、声をかける。


続いて、ハインリヒ、ハンナ、私が


「Guten appetit.」


とそれぞれ言って、食卓に並ぶパンへ手を伸ばした。


そのパンは案の定冷たくも香ばしくやわらかで母の温もりを感じられた。

わざわざこの作品に君の時間をかけてくれてありがとう。専門用語の嵐で申し訳ない。この作品はかなーり不謹慎かもだけど、楽しんでくれてたらいいな。

もし続きが気になるとか、この作品面白いとか思っていただければ★やブックマークをお願いします。

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