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8話 その男、元生徒に学校へ戻ってきてほしいと乞われる



「単刀直入に言います。あなたには再度、王立第一魔法学校の講師になっていただきたいのです」


と。


応接室に入り、席に着くなりリーナは俺に告げた。


「…………えっと?」


一瞬、頭の中が真っ白になる。

リーナがなんと言ったのか理解しきれなくて、もう一度尋ねれば


「先生を連れ戻しに来ました。あなたには再度、王立第一魔法学校の講師になっていただきたいのです」


同じ答えが返って来た。


正直、意味が分からなかった。

俺は魔術の危険性を理由に、一度学会から追放された身である。

今さらその地位に戻ろうだなんて考えてもみない。


それよりも、だ。


「えっと、応接室って使っていいのか? それに、俺は仕事が山積みなんだが……」


あとで学長にどやされないかのほうが、俺は気にかかっていた。


「学長に、応接室の使用許可は得ました。先生の仕事は別の方がやってくれるそうです。

 なにも心配はいりませんよ」


が、リーナはそこまで手を回していたらしい。

血色のいい唇を緩めて、俺に笑いかける。


こうして正面から見ると、その凛々しい美しさはなお際立って見えた。


教師と生徒だった時は、俺が25歳でリーナが17歳だった。

そこから5年、22歳になったリーナは、すっかり大人らしい魅力を備えた女性になったらしい。


俺は、言い返す言葉を失う。

そこで彼女は俺の戸惑いを察したらしく、こほんと咳払いを一つ。


「少しいきなりすぎましたね。まずは説明させてください」

「あぁ頼む。できるだけ詳細に」

「はい、先生が尋ねられることであればなんでも答えますよ。その話をするにはまず、先生をいつから探していたかについて話さなくてはなりません」


ん……? と少し引っかかりを覚える。

それよりも、王立第一魔法学校へのスカウトの件を知りたいんだが?


そう思う俺に構わず、リーナはもう語り出していた。


「あなたが学会を追われてすぐ、私は一度、学校を休学しました」

「休学……? あんなに優秀だった君がどうして。というか、ご両親は認められたのか?」


リーナの生まれであるリナルディ家は、押しも押されぬ大権力を持つ公爵家だ。

その長女として生まれた彼女は幼い頃から厳しく育てられていたようで、品行方正かつ成績優秀と、ほぼ非の打ち所がなかった。


魔術学にも真摯に取り組んでくれて、授業はほぼ毎回最前列で受けるなど、真面目そのものだったと言える。


「あなたにご指導いただけないならば、いるだけ無意味だと思ったからです。私が興味があったのは、先生と魔術だけでしたから。

 でも、あなたはどれだけ探しても、冒険者や人探しを雇って探させても見つからなかった」


おいおい、たかが俺を探すためにそこまでしてたのかよ……! ちょっとやりすぎなんじゃ?

なんて、ツッコミを入れる間もない。



「そこで私は策を変えました。先生を探しながら、属性魔法の研究で名をなすことを決めたのです。そうすれば、いつか権力を得たら、正式にあなたを呼び戻す場所を用意できる、と」

「そんな理由だけで、たった5年で理事になったと……?」

「私には、人生をかけるだけの理由でした。もちろん、実家が公爵家ということもあるでしょうが、新技の開発、魔素との反応実験などかなりの成果を上げましたから。

 それもこれも先生に教わったおかげです。先生は魔術を含めた魔法を、基本構造から教えてくれました。その考え方は、属性魔法の研究にも生かせるものでしたから」


彼女は嬉しげに、そう振り返ると、カバンの中からノートを取り出して見せる。


そこに書かれてあるものは、まぁ懐かしい。

かつて俺が魔術の構造を解説した際の授業内容がびっしりと書かれてある。


たしかに指導した覚えはあるが、ほんの二年程度の期間だ。

その後の努力は自分の努力であろうに、リーナは俺のおかげだと強調する。


「それで、俺を見つけたのはどうやって?」

「この五年間、あなたを探さなかった日はありません。

 この間、情報収集をしていたら、耳に入ったんです。『田舎町の初級ダンジョンにヒュドラが現れ、それを何者かが倒した』と」


「……え、それだけの情報で? そんなの俺じゃない他の凄腕冒険者かもしれないだろ」


「いいえ、そのニュースを聞いてすぐに分かりました。誰にも見られないうちにあの大物を倒すなんて芸当は、一流の魔術師でなければできません。

 私の知る限り、あなたを置いて他にはいない。だから、すぐにこの町には行きつきました。あとは捜索隊を送って、見つけました」


……自分の生徒ながら、なんて思い込みが強いのだろう。

そのうえ、推理も強引すぎる。


だが、その結果として、俺の元へとたどり着いているのだから、その行動力は恐ろしい。


……あと、俺への執着ぶりも怖い領域に入っていると思う。


昔から慕ってくれてはいたが、ここまで強烈ではなかったはずだ。

せいぜい、毎日のように研究室に顔を出して、お茶を淹れてくれて手作りの菓子を……って、それも今にして思えばかなりやばいな、うん。


俺がそんなふうに過去を振り返っていたら、彼女は机の上に置いた俺の手の上、そっと手を重ねてくる。


「先生、本当に会えてよかった」


声が震えていたから見上げてみれば、彼女の瞳には涙がにじんでいた。



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