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28話 その男、精霊と1000年ぶりの再会を果たしてポーションを作る。



さて、変態教授の件が無事に片づいて。


六の刻になり日が沈むころ、俺は一度宿に戻り、扉を締め切った。

そこで使ったのは、再びの召喚魔術である。


もう式自体は解読しているから、その精霊はすぐに飛び出してくる。


「ご主人、さっきのはひどいと思います。わたしがまだ喋っている途中でした」


と、いきなり口を尖らせるのは、白の精霊・ビアンコだ。

四つある羽をへたらせて、こちらを涙目で見る。


「君も精霊なら、千年は生きてるんだろう。15の少女と言い争うなよな……」

「だって、だってぇ」


千年前の記憶が蘇ったから、分かる。

ビアンコは、何千年生きている存在とはいえ、その精神年齢はほぼ10歳児なのだ。


それはなにも彼女に限ったことじゃない。

そもそも精霊は、澄み切った魂を持つ存在とされる。


そのため、たいていが彼女みたく子供っぽい。


「まったく変わらないな、君は」

「今呆れましたね、ご主人?」

「いいや、そのままでもいいと思うよ。それも君らしさだ」


この一言で、ビアンコの頬には朱がさす。


「えへっ、ご主人にそう言ってもらえるのは何年経っても嬉しいものですね」


これだけで機嫌が戻ってしまうのだから、純真無垢すぎる。

羽ばたきながら、にまにまと顔を触る彼女に、俺は続けて尋ねた。


「ところで、白の魔素を操ることに関しても、変わっていないって考えていいか?」

「それはもちろん……! でも、もらうものはもらいますよ?」

「あぁ、それも問題ないよ」


俺は彼女の小さな体の前へと、指を差し出す。

するとビアンコは、その先に止まり、そして小さな口を開けると、かぷりとかじりついた。


痛みは、ほとんどない。

蚊に刺された程度のかゆみがあるだけだ。


「ありがとうございます、ご主人。うん、やっぱり久しぶりにいただいても、美味ですね」


彼女は満足そうに、口元をぬぐう。


精霊は、契約をした者にしか仕えない。

彼女らが術を使う際に血を必要とするのは、契約者本人であることを確かめるためだ。


「というか、僕の身体は、前と違うんだけど……血も変わってたりはしないのかい?」

「はい、変わりませんよ。私たちは血の味そのものではなく、そこに宿る霊魂をいただいているのです」

「なるほど……。精霊は奥が深いな」


そもそも、精霊という存在自体、1000年前においても研究され尽くしてはいなかった。

また、誰かに身体を乗っ取られるようなこともなかったから、はじめて知った話だった。


魔術研究の一つとして、面白い題材かもしれない。


……が、今やりたかったのは白の魔素を利用した精霊魔術の再現だ。

そのためにわざわざ、ポーション生成用の空瓶をいくつか買って、すでに水を汲んであった。


俺はそれを、五芒星を記した魔術サークルの上に置く。



「ビアンコ、じゃあ白の魔素から【消炎】【分解】【保温】を頼む」

「かしこまりました。ご主人、ほんとそれ好きですね。じゃあ、箇所はいつもの肩でいいです?」

「あぁ、よく分かってるじゃないか」


ビアンコは俺の要望に応えると、羽をはためかせて、鱗粉を散らすようにその魔素を生成してくれる。


それは勝手に魔術サークルに吸い寄せられていき、瓶の中に集まっていく。


五芒星の紋様が示す特徴は、『凝縮』だ。

すべての魔素が瓶の中で混ざり合ったところで……きらきらと光を放つ、一本のポーションが完成した。


俺は、それを口にする。


果たして効果は、本当すぐに出た。

一瞬にして、重かった肩が軽くなり、凝りが軽減している。


久しぶりの教師仕事でため込んできた疲れが、一気に取れた気分だ。



……まぁでも、出来としては中程度。

魔素を溶かすための液体がただの井戸水ではなく、たとえばダンジョン内で採取できる魔導水などであれば、効果はさらに増大する。


「うん、やっぱり君の精霊術はさすがだよ。おかげで、かなり楽になった」

「えへっ、恐縮です。ご主人に、わたしが欠かせないことが分かって何よりです」


今回生成したのは、肩こりによく効くポーションだ。


この時代に売られているポーションと違う点は、その効く場所を細かく限定できること。


光属性魔法を利用したポーションは、効く箇所の特定まではできない。

そのためヒーラーに直接治してもらう必要があるのだが、これならばある程度の症状まではポーションで済ませられる。


ただし、原料が精霊を通してしか作れない特殊な魔素であるのが難点だが。


「えい、えい、えい~! もっと作りましょう! 瓶もありますし。予備です、予備!」


ビアンコは、褒められて調子づいたらしい。

彼女は、じゃんじゃんと魔素を生み出す。


空気中にはない魔素だ。


さすがに垂れ流すのはもったいない。

俺はまた魔術を発動して、結果、何本もポーションが生成されてしまった。


「おいおいビアンコ……どうするんだよ、これ」

「またなにかやっちゃいました、わたし?」

「作りすぎだよ。ポーションの効果期限は長くても二週間なのに」


……まぁ、もう三十路だしね?

またしばらくしたら重くなるんだろうけどさ。


とりあえず、こんなに持っていても仕方がない。


うん、もう売るしかないね、これは。



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