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24話 その男、解けないはずの古代魔術を解き明かし記憶を取り戻す。

生徒に当り散らした末に、特別指導と称して研究室に呼びつけ、今度は単位で脅して言う事を聞かせる。


レイブル。教師の風上にも置けない人間だ。


「あの噂、マジだったってこと? うわ、どうしよ、寒気してきた。単位は欲しいけど……それはまじで勘弁してほしいかも」


ルチアは顔を青くして、身体を一つ震わせる。


噂の真偽はともかく、今の彼女を安心させてやるには、特別指導を回避させてやるほかない。


「ルチアーノくん。この紙、少し貸しといてくれるか? すぐに返すよ」

「え? どうするの。だって先生、今の知識じゃほとんど解けないって……」


おっと、無意識だったが、それはとんだ失言だ。


俺が転生者であることは、伏せておかねばならない。少し自分の中で反省をしながら、彼女には笑顔を返しておく。


「ほとんど、と言っただろう? 可能性はあるさ」


俺はそこから、魔術式を解きにかかった。

まずは式を別の用紙に書き写していく。


「先生、もしかして読めるの?」

「まあ少しだけね」


本当はすべて読むことができるけれど、そこは伏せておく。

まずはペンを走らせていたのだが……そこで見つけた一つの項目に、式を写していた手が止まる。


『アデル・オースティンのみが発動可』


そんな文言が記されていたのだ。


どうやらこの魔術式は、かつての俺が作成したものらしかった。だが、そんな記憶はない。


こうなったらば、解き明かさない手はない。

俺は本腰を入れて、魔術式の分解を始める。そうして、少し。空欄に入るべきものの答えを無事に導き出すことができた。


そりゃあまぁ作った記憶がないとはいえ、かつて自分が作っただろう式だ。

自然と答えを導き出すことができた。


俺は式の一部に、欠けていた一文である『複合魔素による降霊術である』旨の一文を書き加える。その外周に、魔術サークルを結んだ。


すると、どうだ。

書き入れていたノートが白く発光しはじめたではないか。


この現象は、これまで見たことがない。


「先生、なにしたの……」


おおいに驚くルチアを横目に、俺へ唐突に襲い来るのはいつか味わったような頭痛だ。

そう、それこそ前世の記憶が戻ったときに味わったものに近い。


痛みがひどく、俺は椅子のうえで頭を抱え込む。

同時、つい唸り声をあげてしまった。


「アデル先生、大丈夫!? 嘘でしょ、この式のせい? もしかして、あの変態レイブルの奴が仕込んでたの? もう、ありえない……!」


ルチアが盛大な勘違いをしているから、俺はどうにか首を横に振る。

しばらくすると発光はだんだんと収まり、痛みも同時に引いていった。


俺は切れた息を整えて、やっと平常を取り戻す。


そこで、ふと鼻先を飛び回る小さな存在に気づいた。


そこにいったのは、羽のついた小さな少女……いや、精霊だった。

前に記憶が戻ったときみたく、初めて見るのに確信がある。


さっきまでの俺は、『精霊』なんて存在は知らなかった。

どうやら、この魔術式にはこの精霊の召喚術式だけではなく、俺のかつての記憶の一部が埋め込まれていたらしい。


たぶん、1000年前の俺自身が封印したのだろう。

理由は分からないが、わざわざ分けて封印をしていたということは……もしかすると転生することを予期していた?


俺が考え込んでいたら、精霊少女から声がかかる。


『ご主人……? お若くなりましたね、ずいぶんと』


鼻先で、顔もスタイルも整った小さな、手のひらサイズの少女が白のドレスをひらひらと回しながら首をかしげる。


白の精霊・ビアンコ――。それが、彼女の名前である。


その登場にもっとも驚愕していたのは、ルチアだ。


「しゃ、しゃ、喋った⁉ なに、この小さいの――」


授業で見ていたとおり、思ったことはなんでも口にしてしまうタイプらしい彼女だ。

大きな声を上げようとするから、俺はいったんその口元を手でふさぐ。


「ルチアーノくん、ここは図書館内だから静かにするんだ」


彼女が、目の大きさに比して小さい顔をこくこくと縦に振ったのを見てから俺はあたりを見わたした。


どうやら、他の人間には見られていないようで、ほっとする。

魔術書コーナーが地下階層の隅にあり、利用者がいないことに救われた形だ。


『小さいの、とは失礼ですね、小娘。わたしは、聖なる『白』の力を体現する精霊ですよ』

「小娘って、どう見ても君の方が小さいじゃん」

『そういうことではありません! わたしは魔術元素のうち、白に分類される項目をつかさどる精霊であって……』

「なにそれ、白色? 服の漂白とかできるの?」


……ビアンコと、ルチアにより、ずれまくった会話が交わされる。


このままでは収集がつかなさそうだったから、俺は一旦、ビアンコの召喚術を解くことにした。


『ご主人、わたしとこの娘と。どちらが小娘だと思われ――』


なにか言いかけていたが、うん、聞いても仕方がなさそうな内容だ。

久しぶりの再会の余韻もなく、俺は魔術サークルの外周を少し崩した。


こうすることで、召喚は解ける。

一度召喚をすれば今度からは、完成した式を記録しておくことですぐに呼び出せる仕組みだ。


「……アデル先生、今のなに?」


ビアンコが消えて、ルチアが改めて問う。


そりゃあ、首を傾げたくもなるだろう。


今の時代、誰も精霊なんて召喚できない。

精霊は属性魔法の五大元素と同じく、五体がいるとされてはいるが、それはあくまで神話の話。

誰もが幻の存在だと理解している。


……が、記憶の蘇った今ならそれが違うと断言できた。


彼らは幻の存在ではなく、実在する。

もっとも、1000年前においても、ほんの一握りの術者のみが召喚できるほぼ幻の存在だったが。


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