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19話  その男、元生徒に再会を泣いて喜ばれる。

年齢は、リーナのひとつ21歳になる。

だが、そのふわふわとした声も印象もまったく変わっていない。

ゆるいカールのついた肩口までのピンク色のミディアムヘア、丸い茶色の目に、すこしふっくらとした輪郭。


女の子らしさを詰め込んだような彼女は、うさぎがはねるみたいに両手を横に振り、こちらへと走ってくる。


「先生! 本当に先生だ、お久しぶりです! もう、会えないかと思っていました……!」


背の小さい彼女が、俺を下からのぞきこむ。


その服の胸元はゆるく、危うくその奥が見えそうになっていたから、熱く送られるその視線から、俺は目を逸らした。


昔から彼女は隙だらけだから困る。


「……えと、すいません。あはは」


フェデリカはやっとそれに気づいて、服装をただす。


それを待ってから俺たちは、五年ぶりの再会を仕切り直した。


「本当に久しぶりだな、フェルミくん。この店は、もしかしなくても君の店なのかい?」

「はいっ……! 学校を卒業したあとに店をはじめたんです」


「もう何店舗も開いているなんて、すごいじゃないか」

「ふふっ、先生に教わった魔術のおかげですよ。

あたし、魔術を活かした魔道具を売ってるんです。それが機能性に優れていると好評をもらいまして……、今では数店舗を開かせてもらっています。まぁ魔術の原理を使っていることは説明してもなかなか伝わらないのがもどかしいんですが」


とんでもない成果、そして大成長だ。

とくに、昔の彼女を知っているからこそ痛感する。


昔はとにかく人見知りで、暗い印象だったのだ(あとドジっ子)。

魔法がうまく使えないことをコンプレックスにしており、自信がないのか、クラスでもまったく主張をしない方だった。

だが魔術を教えたことにより、これが本当にうまくはまった。


そもそも裁縫などが得意だった彼女は、【融合】【分解】などの製作系魔術がかなりうまく使えたのだ。


それからというもの、彼女はその力を活かして、さまざまなものを作っては俺の研究室に見せに来てくれるようになる。

そこからは自信が付いたのか、すっかり人あたりがよくなって、明るい顔が増えたのが印象的だった。


そしていまや、一大アイテムショップの経営者ときている。


俺がその成長ぶりに驚いていると、フェデリカが首をひねる。


「先生はどうしてここに帰ってこられたんです? たしか王都にも立ち入れないんじゃ……」

「リーナがはからってくれたんだよ」

「リーナ先輩が……。あの人は、先生を本当に慕っていましたからね」


俺はそこから、事の経緯をざっくりと説明する。


「また王立第一魔法学校で教授をすることになったよ」


こう伝えれば、どうだ。


フェデリカは感極まったらしく、見る間に顔を赤くしていき、やがて涙を流しはじめる。


リーナが泣いたときはかなりうろたえたが、フェデリカはもともとよく泣く子だった。

俺がハンカチを差し出してやると、彼女はそれで目を押さえながら話す。


「あの、研究室の卒業生はほとんどみんながアデル先生に感謝してて! やんちゃしてたレオナルドくんも今は冒険者ギルドで重職を任されています。それから、不思議ちゃんだった後輩のヴィオラちゃんは凄腕のヒーラーなってて――」


えぐ、えぐ、と嗚咽しながら、かつての生徒たちの活躍ぶりを教えてくれた。


正直、驚くような情報ばかりだったが、それどころではない。

彼女の泣きっぷりに人の多い店内が、騒然としていた。


しかも涙を流しているのは、いくつもの店を束ねるオーナーたるフェデリカだ。それを俺が泣かしているような構図は、まずかった。


元生徒の活躍を聞けるのは教師冥利に尽きるし、心底嬉しかったのだが、このままではそれもままならない。


俺はどうにか彼女をなだめる。

それからあまり長居すると迷惑だろうと考え、店を出たのであった。


その際、フェデリカお手製だという魔導灯、護身用の煙玉だとか幅広いアイテムを土産だと持たされる。


「……なにからなにまで悪いな。給料が出たら今度は、きちんと買いに来るよ」

「ふふっ。絶対ですよ、待ってますよ、あたし」


破れない約束が、また一つできたのであった。



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