タイトル会議
ゲームのタイトルって看板として、ゲームの中身を想像する材料として、軽視出来ないんですよね。
あ、オチはあとがきです。
サンドボックス型MMORPG。
普通のMMORPGでは戦闘職や生産職などのジョブに就き、プレイヤー毎に思い思いに遊びつつ、他のプレイヤー達と協力してグランドシナリオと呼ばれる、ゲームの本筋のクリアを目指すゲーム。
…………だが、今回開発を目指している物は少し違う。
メインとなるグランドシナリオは用意しない。
あらすじも、国王からの大号令で新発見の大きな島の開拓を始めたとする、とても簡単なもの。
ゲーム機への負担や、ゲームとして楽しくない所などを考えて簡略化している部分は有るものの、出来るだけリアルっぽく。
それで島をプレイヤー達が開拓し、好きに遊ぶと言うもの。
一応地上には謎の遺跡、地下に洞窟及び遺構等を生成し、この島で過去に起きた事を匂わせ考察させる余地等もある。
が、メインは大きな島を舞台にした遊び場を提供するのが目的となる。
なんとも不思議な組み合わせだが、このゲームの開発者は語る。
「ゲームのハードが高性能になればなるほど、ゲームは複雑化する。 このゲームはそれを見据えたシステムを組み、皆様にいち早く未来のゲームを擬似体験して頂きたくて創った」
その言葉に合うかどうかは未来になってみないと分からないが、そんなゲームのタイトルを決める会議は、モメていたそうだ。
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A∶このタイトルはダメだろう!
B∶なんでですか!? 【南海島開拓令】カッコいいじゃないですか!!
A∶いや、この島は南の島として設定してないんだろう? だったら南海はおかしいだろうが!
C∶おかしいっすねぇ。
B∶ぐ……っ!! だったら【わいわい開拓! みんなあつまれ!】とか楽しそうで良いじゃないですか!!
A∶カジュアル過ぎるだろ! メインサーバーではPvPアリで、PKのペナルティが薄い、実質PK推奨のゲームバランス想定だぞ!?
それなのにカジュアル勢を呼び込んで、トラウマだけ与える様な鬼畜行為はしたくないだろ!!
C∶それは良くないっすねぇ。
B∶良いタイトルだと思ったのに……
A∶いや、MMOだけどMMOをしたくない、のんびりマイペース勢用の隔離プライベートサーバーなら、お好みの調整と設定をして好きにやってくれだけどな?
メインサーバーをマルっと捨てるようなタイトルはダメだろう。
C∶1番気合いを入れる予定のウリより、あまり多くないと踏んでるサブコンテンツの方の雰囲気のタイトルはまずいっすよねぇ。
B∶だったらどんなのが良いんですか!? さっきから僕しか案を出してないじゃないですか!!
A∶あ〜、まあ。 うん。 英語のタイトルとかオシャレで良いんじゃないか?
B∶ザックリ!? もしかして何にも考えてないんですか!?
C∶ほら、ナントカオンラインって昔から使われているっすし、そう言うので良いんじゃないっすか?
別にオフライン版が有るわけでもないのに、なぜか使われてたりするっすし。
B∶こっちも具体的なタイトル案が出てこないっ!?
A∶いやさ、俺はブレインストーミングするつもりで、具体的なタイトル名を持って来てなかったからなぁ。
C∶こっちも同じくっす。
B∶それ、何も考えて来ませんでしたってのを、聞こえを良くしただけですよねぇっ!?
A∶いいや? 英語タイトルなんてどうだ? って案を用意しただろうが。
C∶同じ事を考えてて、先に言われただけっすー。
会議は難航を極めた。
大きな島を舞台にプレイヤーが思う形で開拓し、思う形の建物を建て、プレイヤー達が集まって街を作り、プレイヤー達自身がドラマを創る設計。
メインサーバーの大きな島を開拓し終えるまで、早くても3年はかかる想定で作られているほど広大な島で。
その3年の運営で様子を見て、人気になったら追加されるだろう予算によって、更に大きなナニカを開発する予定。
それに相応しいタイトルを決めるには、それに相応しい時間が要る。
そう、会議に参加した人員全員が考え始めた頃。
それはBの口から発せられた。
B∶そんなに壮大なタイトルが欲しいと言うのなら【神のみぞ知る】みたいな大げさな名前でも良いのでは?
ほら、NPCによる手助けも最序盤以外は助けにならない最低限。 本国からの支援も最低限。
開拓の特定条件が達成されたらその少ない支援が、国王によって報酬として送られる設定が有りますよね。
国王は経過の報告を受けて報酬を出しても、島で何が起きたのかの詳細を知らないみたいに。
A∶それだ! 神……はアレだが、それを英語にすると良さそうだな!
C∶そうっすね。
B∶あ〜〜〜、でしたらこうですかね? 【王は真実を知らない】
A∶ちょっと長い! 【王は現場を知らない】……じゃあ長さが変わらないな。
B∶だったら【王は何も知らない】で良いじゃないですか。
A∶そうそれ! それを英語にすればカッコ良くなる!!
B∶えっと……【Un Knowns King】ですかね?
A∶良いじゃん! 略して【UKK】! カッコいい! それ、採用!!
C∶タイトルの後に、オンラインは付けるっすか?
A∶いらん! オンライン前提のゲームなのに、何言ってんだって話だな。
C∶まあ、そっすよね。
A∶じゃあ次。 キャッチコピーはどうする?
こうして開発中のゲームであったタイトルの会議は無事終了し、ある意味で有名になったこのゲームは、完成を待ってリリースされた。
リリースされた【UKK】だが、3年の想定を2ヶ月残し、惜しくも2年10ヶ月でサービス終了となった。
原因は、ゲームとして進展がある実感が湧かない事。
つまりどうすれば正解なのか、どうすればゴールなのか。 そもそもゴールがどこにあるのか分からない。
一部の気合の入った建築勢が現実にある城を再現したり、版権的に大丈夫か?と思ってしまう危険な巨像を打ち立てたりしたが、その程度では追い風にならない位にゲームとして楽しいか疑問に思われてしまった。
その結果、ユーザーにつけられてしまった愛称は【UNK】
Knownsでは無く、Unの方を使われてしまった。
もちろんカタカナに変換すると【ウ○コ】
これがユーザーからの評価となった。
だがゲームのシステムには一定の評価が付いた。
ゲームのキャッチコピーが【フルダイブゲームの先行体験】である。
この時代ではゲームはPCやゲーム機だが、遠い未来のフルダイブゲームと呼ばれるゲームの中にプレイヤーの意識を送って遊ぶゲームなら、確かにこんな感じなのかもしれない。
そう思わせる説得力が、このゲームには有った。
有ったからこそ、熱心な建築勢が現れたとも言える。
そこから付けられた派生の愛称?もある。
【未来のUNK】【早すぎたUNK】【フルダイブUNK】【真のUNK】等等。
これが愛称か……? なんて言われるが、本当に魅力が無いつまらないゲームであったなら、愛称なんて付ける労力すら割かれないだろう。
だからこそ、こうやってゲーム史に酷い愛称を付けられたとして記録に残るのだ。
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蛇足
ゲームのステータス
スキル制を想定。
もし人気になっていたら?の展望
メインサーバーと言いつつメイン第○サーバーと、いくつかあったそのサーバー同士を、島の取り合いとして戦略シミュレーションゲームっぽくするつもりだったらしい。
NPCからの支援は最低限
例外として、プレイヤーに対するログイン中の一定時間NPCの牢に入り続けるペナルティがあり、それの仕事はキッチリこなす。 それは最大限の支援である。
ペナルティになる条件は、PKを始めとするゲーム中に犯罪だと定められた行為全般を行うこと。
その後にNPCに捕まったり、PvPで負けたりするとペナルティが発動。
一応、盗品は没収で持ち主へ返却されるが、消費して既に無い場合は返却されない。