異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~ルゥと幸せの島~
異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~連れ去られた側室とココの物語~
『異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~ルゥと幸せの島~』の第二部から登場するココが主役の物語です。
あれは、すごく不思議な光景だった。
まだ、わたしが八歳の頃。
海賊船で金持ちの船を襲う航海の途中、不思議な光を見たんだ。
その光は、海と空とを繋ぐ光の柱になっていた。
「父ちゃん! あれ見て!?」
「ココ! 海に出たら船長って呼べ!」
「はあ!? バカ言ってないで見てよ!」
「……!? なんだありゃ!?」
他の乗組員も皆騒いでいる。
当たり前だよ。
こんなの……まさか、神様が空から降りて来たとか?
「お前達! 宝の匂いだ! 光に直進だ! あははは!」
船長の父ちゃんが叫ぶ。
「父ちゃん……大丈夫だよね? いきなり爆発とかしないよね? このオンボロ船じゃあ不安だよ?」
「あははは! 最初は新品だったんだぞ!?」
そりゃ、そうだろうけど……
怖いよ。
光の場所で、何が起きてるの?
「船長! あの船だ! ピッカピカに光ってるぞ!」
「よーし! 宝はオレらの物だ! 乗り込むぞ!」
船を横づけして板を渡して乗り込む。
それにしても、立派な船だ。
お貴族様の船かな?
でも、乗組員も貴族もいない?
怖いくらい静かだ……
「誰もいないぞ?」
「こっちもだ!」
「どうなってるんだ?」
「幽霊船……だったりして……」
まさか……
幽霊船?
「お前ら、しっかりしろ! なぁにが幽霊船だ!」
「ばあちゃん……だって、怖いよ。こんな立派な船なのに誰も乗ってないなんて……」
「ココ! 船に乗ったら前船長って呼べ! あははは!」
ばあちゃん……
父ちゃんと同じ事、言ってるよ。
さすが親子だね。
って事はわたしもいずれこうなるのか……
イヤだな……
「うう……」
え?
今、女のうめき声が聞こえなかった!?
怖いよっ!
やっぱり幽霊船だったんだ!
「船長! やっぱり幽霊船だ! 逃げよう!?」
「うわあぁ! 祟りが起きるぞ!」
「怖いよ! 島に帰ろう!」
皆の言う通りだよ。
呪われちゃうよ!
逃げないと!
「バカ言ってんじゃないよ!? この船は今からわたし達の物だよ!?」
「ばあちゃん!? 何言ってるの? 早く逃げよう!?」
「ココ! 前船長の言う通りだ! 今からこの船の船長は父ちゃんだ! あははは!」
この二人……
早死にするよ……
「誰か……いるの……?」
か細い女の声……
やっぱり幽霊……
「ぎやあああ!」
いや、父ちゃんが一番怖がってるよ!?
「バカ息子が! 生きてる女の声だ! 貴族の娘なら売れば高いぞ?」
ばあちゃんは、いつも冷静だね。
そして、強欲だ。
貴族の娘か……
話には聞いた事があるけど、実際に見た事は無いな。
どうせ、ワガママで意地悪でろくでもない女だな。
そうに決まってる!
「いた! ベットに隠れてやがった!」
上掛けをめくると、見た事が無いくらいのキレイな女がいる。
銀の長いサラサラの髪。
海みたいにキレイな青い瞳。
でも……
すごく苦しそうな顔だ……
「あぁ……あなた方は王妃の手先……では無さそう……うう!」
王妃の手先?
この女、もしかして王族?
「お前……陣痛が来たのか? 何でそんな時に海に来たんだ?」
ばあちゃんが女に尋ねる。
「わたくしは……リコリス王国の側室……です……王妃の手先に……連れ去られて……倒して……手先がまだ二人船に……」
倒して?
このキレイなお貴族様が?
まさか……
「……いや、わたしらが来た時には誰もいなかった」
ばあちゃんが女と話し始める。
……?
ばあちゃんが小さく震えている?
ばあちゃんもお貴族様相手だと緊張するのかな?
「……逃げたので……しょうか……」
「苦しそうだね……ずいぶん腹がでかいが……」
「はい……双子で……お願いが……あります」
「お貴族様が海賊に頼み事かい? こいつは愉快だね」
「わたくしは……わたしは……シャムロックの……」
「シャムロック……小国だけど武力に優れた国……」
「はい……わたしはもうダメです……どうか、産まれた子を……シャムロックに……」
「リコリスの方が大国だ。そっちに連れて行った方が幸せになれるだろう?」
「……リコリスは……もう……おしまい……王は……腐りきって……」
「ふぅん……それで? 何をくれるんだい? まさか海賊にタダ働きをさせるんじゃないだろうね? わたしは慈善家じゃないもんでね……」
ばあちゃん……
根っからの海賊だね……
「シャムロック……の……父に……」
「リコリス王は自分の子をいらないって事かい?」
「……愛情の……無い人で……殺され……るのは、わかりきって……」
「自分の子を殺すって言うのかい? ……これだから王族って奴は……」
「ううっ……」
「産むつもりなんだね? まあ、出てこようとしてるものを引っ込めるわけにもいかないからね……」
「お願いが……」
「まだ他にもあるのかい? これだからお貴族様は……」
「子供達に……わたしのイヤリングを……片方ずつ……」
「やれやれ……高そうだから売りさばこうかと思ってたんだけどね」
「あなたは……優しい人……巻き込んで……ごめ……」
「産まれるよ! 男どもはお湯を沸かしな! これだけの船なら水くらいあるだろう! ココは手伝うんだ!」
こうして命がけの出産が始まった。
側室は兄を産んだ後、妹を産み終えると意識を失ってそのまま亡くなった。
赤ちゃんは銀の髪に青い瞳の、母親にそっくりなかわいい子達だった。
ばあちゃんは強欲だけど、約束通り赤ちゃんに一つずつイヤリングを握らせた。
そのまま、オンボロの船をお貴族様の船で引っ張りながらシャムロックに向かった。
でも、シャムロックではいじわるな王妃が力を持っていて、この双子が生きていられる保証は無かった。
「ばあちゃん……どうするの?」
「リコリスに連れて行っても殺される……か」
「ばあちゃん……」
「ココ、お前、弟か妹を欲しがってただろう。面倒みな」
「はあ!? ばあちゃん? なに言ってんの!?」
「母親は……リコリスに連れて行こう。シャムロックに連れて行けば問題になるかもしれないからね……」
「問題? どうして?」
「王族って奴は意地の張り合いばかりしてんのさ! 帰るべき所に返すのさ」
「帰るべき所に……?」
「母親はもう死んでるからね……もう殺される事は無いって事だ……」
ばあちゃん……
ばあちゃんは本当は優しいから、今すごく辛いのはわかるよ……
でも、この子達は?
海賊になるの?
それで幸せなのかな?
リコリスに近づくと船に積んであった小舟が無くなっている事に気づいた。
それに……妹がいなくなっている事にも……
「ばあちゃん! 小舟と妹が消えたよ!?」
「はあ!? ココは寝ぼけてんのかい!?」
「母ちゃん! 兄ちゃんの方は、ほらここにいるけど妹が消えてたんだ!」
父ちゃんが慌てて、ばあちゃんに兄の方を見せる。
「そういえば、王妃の手先が二人いたって言ってたね……」
「まさか、船に隠れていたの!?」
妹が連れ去られたって事?
「まだ遠くには行ってないはずだ。望遠鏡で捜すんだ!」
ばあちゃんに言われて、皆で甲板に出て望遠鏡で王妃の手先の乗った小舟を捜す。
「ばあちゃん、いたよ! でも一人だよ?」
「妹は!?」
「ダメだよ! 波が荒すぎる! このままじゃ……」
王妃の手先は自分を守るのに精一杯で……妹は海に落ちた……
わたし達は、それを見ている事しかできなかった……
その後すぐの事だった。
魔族のハーピー族が飛んで来て……王妃の手先を襲ったんだ。
それから……誰も乗っていない小舟だけが、荒ぶる波に揺られていた。
わたし達は、心がモヤモヤしたままリコリスに母親の遺体を置いてきた。
面倒な事に巻き込まれないように、こっそりと……
でも、母親の言った通りだった。
リコリス王は母親の遺体を引き取らず、そのまま放置したんだ。
その事を知ったシャムロックの王妃が泣きながら娘の遺体を引き取りに来た姿を見た時には、リコリス王を殺してやりたくなった。
自分の娘の亡骸をほったらかしにされるなんて……
とても耐えられないよ……
優しそうなシャムロックの王妃に赤ちゃんを渡そうかとも考えたけど……
もしかしたら、リコリスの王妃に殺されるかもと思うと、とても手放せなかった。
こうして、赤ちゃんはヘリオスと名づけられて海賊として育つ事になったんだ。
あのイタズラばかりしていたヘリオスがリコリス王になったのか……
帰るべき場所に帰った……か。
わたしは……
ヘリオスは、わたしとの約束を覚えているのかな?
小さい頃、わたしをお嫁さんにしてくれるって言ったあの約束を……
リコリスにはキレイな貴族も大勢いるだろうし……
きっともう忘れてるよね……
ココとヘリオスの幼い頃の物語は
『海賊の船長の一人娘のわたしと、弟として一緒に育った大国の王子は惹かれ合っても違う未来を進むしか無いのでしょうか? 信じて待つわたしの気持ちはいつまでも変わりませんが、弟は……?』
に書かれています。