『クズ勇者のその日暮らし』
「空に浮かぶ星まで届く光の樹を指差して人々が言いました。
『見て。女神様が還っていくよ』
『あれが平和の光なんだね』
『美しいわ……』
魔王様と女神様が力を合わせたおかげで、世界からは魔物も呪装もなくなりました。
そして、ついでに……わるい勇者様が二度と悪事を働けないように、世界から魔法も取り上げたのでした。
勇者ゴールドはたいそう悔しがりました。
『くそっ! せっかく魔王の力を使って一儲けできると思ったのによぉー!』
どれだけ悔しがっても、もう魔法は使えません。
地団駄を踏む勇者ゴールドの腕を取ったのは……ゴールドに熱烈な……それはもう熱烈なプロポーズをされた魔王様でした。
『それじゃあゴールド。約束通り……一緒に人として生きましょう』
『チッ……この俺様も、とうとう年貢の納め時か……!』
勇者ゴールドはがくりと肩を落としました。
しかし……彼は最後まで諦め悪く悪態をつきながらも、美人で可愛い魔王様を妻として迎え入れ、まんざらでもない様子でいつもの家に帰りましたとさ。
こうして……勇者ゴールドが魔王様を口説き落としたことにより、結果的に世界は平和になったのでした。
女神様に感謝を。魔王様に感謝を。……勇者様に感謝を。
めでたし、めでたし。
……どう? 面白かった?」
「……もう終わりなの?」
「そうよ。世界が平和になって、めでたしめでたし。よかったでしょ?」
「続きはー?」
「え? 続きは……うーん……。……ね、誰も知らないそのあとの話を……聞きたい?」
「あるの!? 聞きたいっ!」
「ん……それじゃあね。あの魔法、覚えてる? 物をどこにでもしまえる魔法」
「インベントリ!」
「そう、それ。その魔法なんだけどね……あれは簡易呪装化っていって……そうね、早い話が物を一時的に魔力式に置き換える魔法なの」
「……うん?? うん」
「それでね? 勇者ゴールドはその中にたーくさんの金貨をしまっておいたの。……魔力を空に還す、その寸前までね。そのせいで……ゴールドが直前に取り出した金貨三万枚は、ぜーんぶ光の粒になって空に昇っていっちゃったの」
「うん! それで!?」
「金貨の意図的な遺棄……えっと、お金を捨てることはそれなりに重めの犯罪でね? ゴールドは自分のやらかしが国や知り合いにバレないか酷くびくびくしていました」
「うん! うん!」
「それでゴールドは……『田舎で命を繋ぐ仕事をする』なーんて強がったことを言い触らして……魔王様と一緒に田舎の農村に移り住んで……一人の子どもと、一匹のペットと一緒に、贅沢とは程遠いくらいに質素で……それでも幸せなその日暮らしを送ることになったのでした。…………めでたし、めでたし。……どう? これが……誰も知らないお話の続きよ」
「えー、もう終わり?」
「うん、終わり。その先は……私もまだ知らないから」
「えー! つまんないよー! 全然面白くない!」
「あらあら……なにがそんなに不満なの?」
「だって、ゴールドが処刑されてないじゃん!」
「ええ……?」
「この本はそれが面白かったのに! 処刑がなくちゃつまらないよ! クソがっ! クソがーッ! って!」
「ふふっ……ふふふふっ! もう……この子ったら……。……いったい、誰に似たのかしら。ね、あなた」
「…………うるせーよ。……クソがっ」
『クズ勇者のその日暮らし』(完)




