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ラブアンドピース

 思えばあの三人はエンデの元締めにエルフの族長、そして王都スラムの武力派のトップだ。見方を少し変えれば首脳会談ということになるだろう。


 詮ずるところ俺の存在はお邪魔虫というわけだ。勇者とかいう無駄に国の権威を帯びた存在が側にいたら積もる話もできやしない。

 小物商会の経営者が集まって飲んでいるところに豪商が割り込んできたら口にする話題を選ばなければならなくなる。それと同じだ。


 そういうわけで俺は中央広場から速やかに離脱した。

 これは見捨てる行為ではないぞ。より良い関係を築こうとしている三人に水を差さないための配慮だ。勇者なりの忖度ってやつね。まぁ……何があろうと同意さえしなけりゃ大丈夫だから……。うん。


 腹を割った話し合いに発展しないことを祈りつつ路地裏を進む。

 表通りは人が多すぎて少し進むにも難儀する。その点路地裏は快適だ。多少入り組んでいるものの、道を塞ぐものがないので経路さえ頭に入っていれば足を止めずに進める。


 飲み過ぎてもうぶっ倒れた馬鹿が何人か転がされていたが、そういうやつらは蹴り飛ばして端に寄せれば道が空く。なんら問題はない。

 表通りから響く喧騒を聞き流しながら進む。目的地も路地裏にあるからな。そういう点でもちょうどよかった。


 何度か道を曲がり、最短経路で寂れた家屋へたどり着く。暗く湿った路地裏にひっそりと立つのはイカれ錬金術師であるアーチェの工房だ。

 持ち主不在となった廃屋を少し整えただけといった風貌の外見に、申し訳程度に飾られた看板。少し見ただけでは店だと判断できない体裁だ。表通りで看板を出すことなどできない品を取り扱ってるからな。さもありなん。


 扉の取っ手には休業中の札が掛かっているが関係ない。ノブを回して店に押し入る。

 ……鍵が掛かっているだと? 生意気な。【風殺(ボヤンシィ)】発動。これぞお手軽ピッキング。ういーっす、邪魔すんぞ。


「ちょっと! 今日は店じまいだって札を掛け……うわ、でた」


「おお、勇者サマじゃん。ういーす」


 工房の中にいたのは勘定台に座ったアーチェ、そして薬棚に背を預けて酒を嗜んでいる『聖女』オリビアであった。


「あ? オリビアも来てたのか。よくこんなカビ臭ぇとこで酒なんて飲む気になるな」


「カビ臭いのは否定できねぇけどな。ま、うるせぇ連中に囲まれながら体裁を取り繕って飲む酒よりはよっぽどうめぇよ」


「……ここ、私の工房なんですけど? 避難所でも場末の酒場でもないんですけどっ!」


「細けぇこと言うなよアーチェ〜。アタシとお前の仲だろぉ? 外で飲んでたらよ〜、ドアホ連中に解毒魔法ねだられて飲むどころじゃねぇんだからさぁ」


「うへぇ……ダル絡み……」


 どうやらオリビアも結構な酒が入ってるらしい。

 オリビアが勘定台に座るアーチェに詰め寄り強引に肩を組んだ。完全に酔っ払ったおっさんの仕種である。

 これで『聖女』の看板をぶら下げるとか図々しいにも程があるだろ。ドブ水を高級酒だと偽って売りつけるようなもんだぜ。稀代の詐欺師だな。是非ともあやかりたい。


「お前らが仲良くやってるようで何よりだ。引き合わせた甲斐がある。……さて、それじゃこっちの用も果たすとするかね」


 勘定台に詰め寄り【隔離庫(インベントリ)】発動。

 大量の禁制品を取り出して並べる。ライザルと闇市の商人に指示を出して集めさせたものだ。

 今の俺は市場価格の乱れや闇市連中の目を気にして行動を制限する必要がなくなった。必要に応じて欲しい量を好きなだけ調達することができる。やはりコネ。コネはあらゆるゴタゴタを解決に導く。


「これはまた……今さら驚きはしませんけど、随分と大量に仕入れてきましたね」


「まあな。俺から自重を取っ払ったらざっとこんなもんよ。……これだけあったら『平和のための薬』の開発もちっとは進展するんじゃねぇか?」


 俺はアーチェを優秀な金づるだと認識している。同時に、極めて優秀な錬金術師であることも認めている。

 平和のための薬。人に苦痛を感じさせなくする作用を持つ薬。その完成をもって俺の計画は準備段階を終え、実行に移すことが可能となるのだ。

 人に器を与えるために使う【共鏡(インテグレート)】は苦痛を伴うからな。騒がれることなく計画を遂行するためにはそれが必要なのだ。


痛覚曇化(ペインジャム)】を使う手も考えた。だが俺の魔法はいかんせん()()()()。影響をゼロにはできない。

 繊細な操作を要求される【共鏡(インテグレート)】の最中に別の魔法を使うのも避けたかった。失敗が許されない作業なのだ。アーチェが作ろうとしている薬は俺にとって必須のものとなる。


 素材は大量に恵む。金に糸目はつけない。だから完成を急げ。

 暗にそう仄めかしたところ、アーチェは瞬きを数回繰り返してオリビアを見た。オリビアもまたアーチェを見返す。視線を交わした二人が――酷く底意地の悪い笑みを浮かべた。


「あー、そういやアンタにはまだ言ってなかったっけか」


「ふっふっふ……ガルドさん、あなたは私を……この、私を誰だと思っているんですか? 王都の錬金術協会が唯一恐れた至高の頭脳を持つ、この私を!」


「……まさか」


 心臓が強く脈打つ。思わず身を乗り出す。

 焦るな。そう自分に言い聞かせる。こいつらなら思わせぶりなことを言ったあげくに拍子の抜けることを言い出しかねない。過度な期待はするなと己に告げる。


 アーチェがえへんと薄い胸を張った。


「そのまさか、です!」


 そして悪魔的天才は俺の想像を裏切ってくれた。


「私の最高傑作『ピースちゃん』です! ひとさじ飲めば苦痛とはおさらば。悲痛悲哀もなんのその! 嫌なことだって一瞬で忘れちゃいますよ! 全ての苦しみが消え、互いに憎しみ合う悲しみの連鎖が消えた世界――まさに平和そのものではありませんかッ!!」


 イカれた思想を聞き流してオリビアを見る。オリビアは確信を帯びた力強い頷きを返した。


「認めたくねぇが、こいつぁ天才だよ。アタシがちょっとアドバイスするだけでみるみるうちに仕上げちまった。効能のほどは保証する。アタシの眼を信じな」


「マジかよ……アーチェ、お前は流石だよ。俺が見込んだだけのことはある……」


「ふふん! どうですか! ……と、言いたいところですが……天才の称号はまだ受け取れませんね。ピースちゃんの完成はオリビアさんの協力ありきでしたし、独力で成し遂げたとはいえないんですよ。私一人だったら……きっとあと三年はかかっていたかもしれませんね」


「無駄にストイックだよな、お前」


 そうか。……そうか。完成したか。

 万感の思いだ。もっと喜声を上げて喜ぶべきなのかもしれんが……色々な思いがせめぎ合っていて、何をどう表に出していいか分からない。そんな感じだ。ただ脳天に突き上げる達成感のようなものがある。


 いいね。最高だ。本当に――いい土産話ができた。


「本当に、よくやったぞアーチェ。お前のクズさ加減に呆れ果てたこともあったが……見捨てずに投資し続けた甲斐があったぞ」


「ん? なんか馬鹿にしてます?」


「してないしてない。さぁ、お前も飲めよ! 俺の声は届いてたんだろ? 今日だけは奢ってやるから遠慮すんな!」


 俺がそう言うとアーチェはぱちぱちと目を瞬かせた。コテリと首を傾げて言う。


「いえ、もうお腹が一杯になるまで飲みましたけど?」


 アーチェが勘定台の裏から酒瓶を三つ取り出す。

 おいおい……こいつマジかよ。俺は呆れた。それ全部飲み干しても顔色一つ変えないとか本物のウワバミじゃねぇか。やっぱりどこかイカれてるとしか思えねぇ。


 それに。俺はアーチェが持っている酒瓶の銘柄に目を滑らせた。

 こいつ……高い酒を狙って持っていきやがったな? 流石だぜ。生き馬の目を抜くようなクズの所業を呼吸のように行う。それがアーチェという女だ。全く、それでこそである。


「そうか。味わって飲んでくれたなら俺としても嬉しいぞ。そして報酬を受け取ったとみなす。アーチェ、このピースちゃんとかいうクソふざけた名前の薬を量産しろ。ひたすら作れ。いいな?」


 極論、この国の全員に肉の器を与えなければならないのだ。必然、薬は相応の量がいる。アーチェには寝る間も惜しんで薬作りに励んでもらわなければならない。


 そう指示したところアーチェが眉を曲げた。気の抜けた声でむぅと唸る。


「……ガルドさん? 私にはもう一つの夢がありましてですね……覚えてます? ラブですよ、ラブ。抱いた愛を永遠のものにする薬です! その開発も並行して進めたいので、ピースちゃんだけを作るっていうのはちょっと……」


「分かってる。分かってるさ。だがなアーチェよ、この薬はとにかく数が要るんだ。他の研究にうつつを抜かすのは後回しにしてくれないか?」


「えぇ?」


「アーチェ。分かってるだろ? この禁制品の数々はそのために持ってきてるんだ。頭のおかしい薬の開発は後回し。オーケー?」


「うぅ……で、でもっ! ほらオリビアさん! オリビアさんも想い人に飲ませる愛の薬が欲しいですよね? ねぇっ?」


 だからクロードにクソみてぇな薬を盛るんじゃねぇって言ってんだろ。殺すぞ。


 オリビア。もし薬を欲しいなどと抜かしやがったら……冗談でも許さんぞ。

 牽制の意を込めてオリビアを睨む。果たして『聖女』様は。


「んふっ……ぬふふっ……むふっふっふ……!」


 生まれてこのかた耳にしたことが無いほどに気持ちの悪い笑い声を口から漏らしていた。


「うわっ……キモ……」


「飲んだお酒にパッパラ草でも混ざってたんですか?」


「むふふ……笑え笑え……笑うといいさ……! くふふっ……アーチェ、アタシは惚れ薬なんていらねぇよ。……いや、もはや必要なくなったと言うべきかなぁ」


 俺とアーチェの目が合う。そして互いに首を傾げた。どうやらアーチェもポンコツ聖女が何を言っているのか理解できないらしい。

 緩みきった顔でぬふぬふと漏らしていたオリビアが力強く腕を組んだ。溢れる愉悦を誇示するかのようにぐっと背を逸らす。鼻で大きく息を吸い――そして言った。


「二人とも、聞いて驚け。アタシとクロードはな……もう熱く抱き合った仲なんだッ!」


「は? ……はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


「ちょっとちょっと! えっ、いつの間にそんな進展してたんですか!? もう! 黙ってるなんて水臭いじゃないですかっ! 詳しく聞かせてくださいよ! あ、待ってちょっとおつまみ取ってくるので」


 どういうことだ。俺は……どういうことだ? どういうことだろう。俺は混乱していた。


 クロードが、まさか、そんな……こいつ寝込みでも襲ったのか? そうか。そうとしか思えない。それ以外に考えつかない。クロードは断り切れず渋々? いやあいつに限って流されてなんてことはないはずだ。しかし傷つけない為に応じた……? いやいや……あいつはそこまで浅はかじゃない。そもそもこのヘタレポンコツ聖女が自分から仕掛けるなんてことがあるのか……? よくよく考えると有り得ない気がしてきた。だが、だとしたらクロードから? あいつからアプローチを掛けたのか? 好意を持たれていることを察して男を見せたのか? クロード……お、お前……俺より先に――


「お待たせしました! さぁ続き! 続きを聞かせて下さい!」


「……そ、そうだ! オリビア、てめぇどういうことか説明しろ! ニヤけてねぇで早くしろッ!」


「ええ〜? 聞いちゃう? それ聞いちゃう〜?」


 殴りてぇ。つか殴るぞ。くだらねぇ理由だったら殴る。

 俺は『聖女』だろうが躊躇いなく殴れる男。ふざけたことを抜かそうもんなら……その事実を右の拳で証明することになる。


「ま、まぁ勿体ぶることでもないんだけどな? ほら、あの日だよ。アタシがアンタを刺し殺した日。覚えてるだろ?」


「ああ」


「…………ん? えっ、今ちょっと聞き捨てるには物騒すぎる単語が聞こえた気がしましたが……」


 茶番騒動の日だ。覚えてる。三日前だからな。記憶に新しい。


「アンタが力尽きて消えた時にさ、その時に」

「いやいやちょっと待ってくださいよ! なんでサラッと流してるんですか!? そこをまず説明してくださいよっ!!」


「黙れアーチェ水を差すな。情報を仕入れておけよ。こいつは俺を衆目の前で刺し殺したんだ。んなこといちいち説明させんな」


「…………。痴情のもつれ……?」


 アーチェが話の腰を折ったせいでオリビアの話が止まってしまった。馬鹿め。俺はすっと右手のひらを差し出して続きを催促した。うんと頷いたオリビアが続ける。


「続けるぞ? アタシがアンタを刺し殺した時さ、ほら、アタシは跳んでたから結構な勢いで体勢を崩したわけよ」


「そうだな」


「アクロバティック刺殺……?」


「そん時にさ、そん時にさぁ〜! ほら、アンタのことをクロードが羽交い締めにしてただろ!?」


「ああ」


「まさかの共同作業!?」


 うるせぇ。合いの手を入れんな。いま真剣な話をしてるだろうが。茶化すんじゃねぇよ。


「で、ほら……分かるだろ!? そこでアンタが消えたらさぁ、体勢を崩した私のすぐ目の前にクロードがいるわけ!」


「ああ」


「ちょっとあんまり適切な絵面が浮かばないです」


「そこでクロードが……ほら、ガッと、アタシのことを抱き、留めたんだよッ!!」


 ……なるほど。なるほどね?


「でさ、でさぁ! ほら、アタシもそこまで余裕がなくて、気が付いたら……く、クロードの背中に、思いっ切り手を回しちゃってさぁ……!! ひゃあ〜!!」


 …………。ぶ、物理的な話だったか……。

 だよな。はは。そんなこったろうと思ったわ……ったく焦らせやがってこのポンコツめ。


 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 首を捻ったアーチェが、頬を押さえてくねくねと奇妙な踊りを披露しているオリビアに問う。


「経緯は分かりました。いや分かりませんけども。で、その後は?」


「そ、その後……? その後は……ま、まだ……」


「えっ? いや抱き合ったあとはどうなったんですか?」


「えっ……いや、それなりの一大事だからってんで解散して、そのまま終わり……だけど……」


「…………っはぁぁぁぁ〜〜」


 肺腑の中身を絞り出す勢いのため息を吐いたアーチェがつまみの炒り豆をむんずと鷲掴みにした。ボリボリと咀嚼して一言吐き捨てる。


「へたれ聖女」


「なっ、なにを……!」


「ただの抱擁でなにを浮かれきってるんですかね……」


「いやいや、あんだけガシッといったんだぞ!? 腰に手がこう、ガッて……! それに、み、耳元で、大丈夫ですかって……! あれもう絶対に私のこと好きだから!」


「付きまとい予備軍。やりすぎたら犯罪ですよ」


「はぁっ!? お前、このっ……!」


 今にもアーチェに掴みかかりそうなオリビアの肩を叩く。俺は笑顔だ。ニッコリと微笑みかけて言う。


「オリビア。俺はお前のヘタレさに安心したよ。お前のポンコツ具合は筋金入りだ。誇っていいぞ」


「あ!? 殴るぞコラ!」


 安心。そうだな、安心したよ。

 俺は別に二人の恋路を邪魔しようなどとは思わん。ただ、それは二人にとって納得のいくものでなくてはならないと思っている。まだ時期ではない。それだけさ。くだらん話はこれにて終了である。


 俺は震えるオリビアの肩をぽんぽんと叩いた。そしてヤケ炒り豆に舌鼓を打つアーチェに言う。


「ま、そういうわけだ。ピースちゃんの量産は任せたぞ」


「はいはい……いや待ってくださいよ! ラブの薬の話がうやむやになってるじゃないですか!」


 チッ。抜け目ない。いい感じに気が逸れたと思ったんだがな。

 対価を示さなければ引き下がらない、か。打算の繋がりは相手に甘えるとほつれを生む。しょうがねぇなぁ。


「分かった。それじゃあ折衷案といこう」


 俺の提案にアーチェが目を眇める。


「折衷案?」


「ああ。まずアーチェ、お前は俺の言う通り、まずはピースちゃんを量産しろ」


 言うとアーチェが眉を顰めたが、先と違い反論はしてこない。交換条件の提示を待っているのだろう。

 賢しらだ。ゆえにパートナーとして相応しい。いや、()()()()()()というべきか。

 賢しら故にハマる罠というものがある。俺は言った。


「代わりに。俺はお前に素材の供給を約束しよう。俺が今までに調達してきたことのある素材を、好きなだけ提供することを約束する。お前の理想とする薬が完成するまで、な。どうだ?」


 アーチェが考える仕草を見せた。眉を顰め、神妙な顔をして俯く。

 ……本当に賢しらだ。さも迷っているように見せかけている。こんな破格な条件を提示されたら……普通、一も二もなく飛びつくに決まっているというのに。


 それをしないのは舐められないためだ。対等、もしくは有利な立場を確保するための冷たい打算。

 まあ仕方ないから引き受けましょう、なんて渋々じみた態度を見せれば寛容さをアピールできる。さも譲歩したかのようなポーズを見せつけることで、さりげなく恩を着せたふうを装える。それが狙いなんだろ?


「……まあ仕方ないから引き受けましょう」


 それ見ろ。結論はとうに出てたくせに小賢しいやつよ。

 アーチェ。我が共犯者よ。お前には大変お世話になったし、これからもまだ世話になるつもりだ。


 だがアーチェ。俺はまだ――お前が約束を破った上に薬を盛った時のことを完全に許したわけじゃないんだぜ?


「契約成立だ。それじゃ、今後ともよろしく頼むぞ」


「ええ。ガルドさんも約束は守ってくださいよ」


「もちろんだとも」


 アーチェが笑った。

 俺にははっきりと分かる。こいつは混じり気ないクズだ。その腹は俺をこき使う権利を得た優越感で満たされてるんだろう。


 約束は守るさ。

『俺が今までに調達してきたことのある素材を、好きなだけ提供する』

 そういう約束だ。


 錬金術とは、魔力を含んだ素材を触媒に用いて行う業である。

 世界から魔力が消えた時……俺が今まで調達してきたことのある素材は何処にも存在しなくなっているだろうさ。あったとしても、それは従来通りの効能を発揮することはない。つまりガラクタに早変わりってわけよ。


 存在しないものは調達しようがない。そういうことである。

 稀代の錬金術師さまは馬鹿じゃない。無理難題を言うことがどれほど不毛かなんて説かずとも察してくれるだろう。


 ま、精々頑張れアーチェ。錬金術師が廃業になったら薬師にでもなればいいさ。もっとも……愛の薬などという洗脳薬の完成は遠のくだろうがね?


 稀代の錬金術師さまが道を誤るその直前、元仲間である俺の慈悲が……いやさ俺の愛がその野望をバッサリと断つ。そして世界は平和になりました。めでたしめでたし。これぞまさしくラブアンドピースってね。

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