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度肝は手のひらの上でよく踊る

 シクスから自由行動を言い渡された四人は王都各所で情報収集を行っていた。

 協力の暁には知りたい情報を教える。そうシクスは確約したが、四人としてはその時を座して待つつもりはない。


 こちらが先に情報を集め、失せ物探しの任を完遂すればシクスに協力する理由はなくなる。きな臭い件に首を突っ込む必要もない。

 もっとも、それはシクスが離反と逃走を許容するかによるのだが。


「スラムを除く王都全域では特にそれらしい話は集まりませんでした。王都は……驚くほどに、平和です。少々、平和ボケが過ぎるのではないかと思うほどに」


「情報が集まりそうな酒場を片っ端から回りましたけど……こっちも成果はゼロでした。娯楽の話ばっかりで、物騒な話とかは誰も話してませんね」


 ミラは持ち前の足を活かして広範を巡り、メイは範囲を絞って探りを入れたが、やはりと言うべきか、表では望んだ情報が得られなかった。


「俺は……それなりに成果はあった。つっても、ほとんどはシクス……さんの情報だけどな。失せ物と『例の件』とやらの情報はさっぱりだ」


伝心(ホットライン)】を使わないのは、もはやシクスを相手に隠し立ては不可能と悟ったからであった。


「俺様も、成果はァ……あった。いや……成果なしと言うべきなのかもしれんが、なァ」


 神妙な顔で意味深な呟きを漏らすアウグストの姿に三人が目を見開く。

 誰一人としてこの男が情報収集の面で役に立つとは思っていなかった。むしろトラブルを持ち込むのではとさえ考えていた。


 よもやこの男の後塵を拝することになるとは。

 心胆を氷水に漬けられた思いのミラが動揺を押し殺して尋ねた。


「……成果なしかもしれないとは、どういうことですか?」


「あァ……おかしい。確実におかしいンだ……聞いていた話と、まるで違う……」


 尋常ならざる表情をするアウグスト。その額に汗が伝う。

 アウグストは黙して続きを待つ三人の顔を順繰りに見つめた。唾を飲む音を響かせ、大きく深呼吸してから言う。


「かの乙女を……ウェンディという、国の至宝を、王都の色街の人間は……誰も知らなかったんだ……」


 アウグストはこの期に及んで己の欲を優先していた。


「おかしい……おかしいぞノーマン……かの乙女はァ……王都の色街で名を馳せていたのでは……なかったのか……?」


「……………………」


「アウグストさん……俺、一周回ってアウグストさんのこと好きだわ」


「野郎の告白は受け付けてねェ」


 アウグスト、成果なし。これにて三人の予想と合致する結果となった。

 アウグストの戯言を聞き流したノーマンは、集めた情報をあえて口に出して開陳した。


「俺が集めた情報は、あの人の諸々についてだ。能力や取引先相手、そして……エンデに放ってる間諜について――」


 四人はシクスへ連絡する手段を持たされていない。だが、ノーマンにはある確信があった。常にどこかで聞き耳を立てているあの男は、こうして密談を交わしていればすぐに姿を現すであろうと。


 宿の廊下からわざとらしい靴音が響く。狙ったようなタイミングであった。


 靴音は部屋のすぐ前で止まった。そして扉が開く。ノックもなしに堂々と部屋に入ってきた男――シクスは不敵な笑みを浮かべた。どこか自慢げに見える表情で口を開く。


「お前らの物を奪った組織と話をつけてきた。物は返すとさ。明日、俺に同行してもらう」


「!?」


 それは今日一日の行動全てを無駄へと帰する一言であった。


 自由行動とは――何をしても無意味だから好き勝手しているといい、という意図だったのかもしれない。

 知れば知るほど底が見えなくなる男の所業を目の当たりにしてノーマンは静かに背を震わせた。


 ▷


 めっちゃアホ面晒してて笑いそうになるわ。


 いやぁ、相手が必死に隠してることをズバリと言い放つのは気分がイイねぇ。

 こちらが上で、お前らは下だ。そう格付けを言い渡す瞬間の心地よさよ。病みつきになるね。


 冒険者諸君はやり手かもしれないが、スラムでの身の振り方に関しては俺に一日の長がある。この結果は必然というやつなのだよ。


 まー、ライザルが勝手に口を滑らせただけなんだがね。しかし過程は重要じゃない。今ここにいるやつらの度肝を抜いて手のひらの上で転がしているという事実こそが重要なのだ。


 最近は俺だけ取り残されていて誤魔化すのに必死だったからな……お前らの慌てふためく様を見て心の安寧を保たせてもらうよ。くくっ……。


「シクス、さん。俺らはまだあんたに何も対価を払っちゃいないんだが?」


「報酬の先払いさ。それに……この程度は俺にとってさしたる労力にはならないんでね」


「……さすがは、神出鬼没のシクスってところか」


 その神出鬼没って何なんだよ。名乗った覚えはねぇぞ。

 まぁ、俺は首切り転移であちこち足を運んでるからな。そのトリックを把握していないやつらが恐れをなして祭り上げてるのかもしれん。闇市の商人も節穴ばっかだな。


「その情報も……転移の力で集めたのか」


 !? !!?

鎮静(レスト)】! 落ち着け……ば、バレるはずがない……カマをかけているだけだ……落ち着け……!


「なんの話だ?」


「とぼけなくていい。シクスさんがその力を使って……エルフと取引してることは知ってる」


 !? クソがッ!! 【鎮静(レスト)】ッ!!


「……なるほど」


「あんたの使ってる毒は……そこで手に入れたんだろう?」


 な、何だ……? 何が起きている……? どうしてシクスの秘密が暴かれているッ! この短時間でッ!!

鎮静(レスト)】ッ! 全力ですっとぼけろ……!


「さて、なんのことやら」


「……なるほど、確かに表情一つ変えねぇのな。こりゃ……勉強にならぁ」


「……どこぞの誰かに与太話を吹き込まれたか? 闇市には駄法螺吹きを生業にする連中もいる。……それは誰の口から聞いたんだ?」


「軽々しい他言は信用を落とす。そうだろ? シクスさんよ」


 クソがっ……! そういうのいいからとっとと吐けよ……! どこのどいつが俺の情報を握ってやがる……! そして、それをペラ回しやがった……ッ! 見つけたらだじゃおかねぇぞクソがッ……!!


「ほう……分かってるじゃないか」


「ちと手痛い指導を賜ってね……沈黙は金って言葉を学んだよ」


「フッ……凡愚ではないようだな」


「前までの俺は……ちと馬鹿正直だったみたいでね。だからシクスさんは俺らに情報を共有しなかった。違うか?」


「そういうことだ」


「わりぃな、未熟でよ。腹の探り合いは……慣れてなくてね。危なっかしいと思われてたんなら、そりゃ当然だ。そのうえで……あえて馬鹿正直に聞きたいんだが……」


 ま、まだあるのか……? 嘘だろ……。こいつ、どこまで……。

鎮静(レスト)】……! 俺は心を平静に保って備えた。



「鉄級のエイト」


 !?……!???


「あいつは……シクスさんが用意した間者なんだろ?」


 …………せ、セェェェェフ!!

 いやセーフか!? 正体が完全にバレた訳ではないが……割と……致命的、じゃないか? 肯定も、否定も、ろくな結果に繋がらねぇ……!!


 俺は笑った。


「フッ…………フッ…………!」


「なんだァ……? あの男のことを……まだ疑ってたのか……?」


「えっ…………嘘、でしょ……?」


 アウグストと黒ローブが何か言っていたが、言葉が右から左へ抜けていく。

 どうする? どうするんだ? まずい……シクスのメッキが、エイトの擬態が、剥がれかけていく……!


 …………やむなし。やむなし、か。惜しい人格だったが……しょうがない。

 失態のツケだ。二度と無様を晒さないためにも……鉄級のエイトは、いまここで……供養する。


「……なんだ。コソコソと逃げ回るだけが取り柄のあいつは……ついに尻尾を掴まれたのか」


「……ってことは、やっぱりか」


「ご明察。……だが、もうあいつのことは気にしなくていい。今、この瞬間、気にする必要が消え失せた」


「……どういうことだ?」


「尻尾を掴まれたネズミに価値はないということさ。……鉄級のエイトは、俺が直々に消しておく」


 その瞬間――


「だめッ!!」


 きん、と耳鳴りがするほどの金切り声を黒ローブが発した。


「あ、あいつは……っ!」


 腰掛けていたベッドから立ち上がった黒ローブが喉を震わせる。


「あいつは……あんなんでも……私の、私たちの……命の、恩人なのッ! あいつは、勝ち目のない戦いに、たった一人で立ち向かって……命がけで私たちを助けてくれたッ!」


 成り行き上、俺は黒ローブの命を救った。アーチェの馬鹿に薬でパァにされてた時も合わせると二回か。


「それを……たとえ、間者だからって……! そんな、壊れた物みたいに……いらなくなったら消すなんて……!」


 支離滅裂な言葉は動揺の影響か、それとも義憤か。

 凍えるように震えながら言葉を吐き出す黒ローブを他の三人は止めなかった。


「アンタが、そんな薄情で……人を人とも思わないような外道なら……」


 黒ローブが手に持つ杖の先端を俺へと向けた。その確固たる意志を反映したかのように紅蓮の魔石が仄かに光る。


「私は……アンタを許さない……! 協力なんてできっこない! 絶対に……刺し違えてでも……アンタと、戦う……!」


 冒険者ってのは義に厚い連中ばっかりだ。人と人同士で争ってる場合じゃねぇって環境がそうさせるのかもしれん。


 命を救ってくれた恩人のためなら自らの命を顧みない。

 酷くいびつな相関関係だ。俺では理解することの適わない高尚な理念である。きっと、それは尊ぶべきものなのだろう。


 だが……だがなぁ……。


 黒ローブが命を賭して戦おうとしてるやつと、命を賭して守ろうとしてるやつが……どっちも俺なんだが、これはどうしようね……?


「シクスさんよ。ギルドとしちゃ……まあ、間者を放っておくなんて大っぴらに宣言するのはアレだが……別にエイトをどうこうするつもりはねぇよ。多少やんちゃしてるが、それでもあいつはメイの言う通り、ギルドの人間を救ってきてる。……俺も、救われたうちの一人なんでね。あんま物騒なことされんのは……ちと、恐えなぁと思っちまうよ」


 ノーマンは緩い言葉で繕ってはいるが、それでも隠し切れないほどの反抗心を感じる。俺がここでエイトを消すと宣言したら……それこそ斬り掛かってきそうなほどに。


 やつらとしてはエイトに情報をすっぱ抜かれているという事実よりも……残虐なシクスの手足として良いように扱われることのほうが我慢ならんのかもしれん。


 どうする……どうすればいい……オリビア、俺に最適解を授けてくれ……。


(別にエイトを消さなくてもいいだろ。アンタが今後トチらなけりゃいいんだからよ。今のその、シクス? っつう人格の寛容さもアピールできる)


 ……それで、いくか。俺は言った。


「くくっ……随分、あいつも慕われたものだ。間者が情に絆されるなど笑いものだが……まぁ、いい。今をもってあいつの任を解く。あとは好きにするといい」


「……! じゃあ……!」


「消しはしないさ。ふっ……本気にしたか? さっきのは……軽いジョークのようなものに決まっているだろう」


 繋がりを保ったままだと変に注目される。こう言っておけばエイトは怪しまれることはない……とまでは言わないが、危険視されることはないだろう……たぶん……。


(アリバイ工作もしておけよー。アンタが王都にいる間、エイトがエンデにいないってなったら怪しまれんぞ)


(オリビア……お前、俺の助手にならないか?)


(いいから早く共鳴式を切れっての。そのためにクソ真面目にアドバイスしてんだよ、こっちは)


 俺は魔法を切った。即座に繋ぎ直す。

 クロード! クロォォドッ!!


(はい)


(エイトの顔でアリバイ工作頼んだ! 酒場ハシゴして飲んだくれて目立つところで一晩中寝てくれたら完璧だ!)


(……分かりました)


(助かる!)


 これでよし。後顧の憂いは……完全にとは言えないが、一応は断った。


 今日は旗色が悪い。これ以上根掘り葉掘り聞かれる前に退散しよう。俺は身を翻した。


「話は終わりだ。明日、俺たちはライザル派閥の拠点へ向かう。先方は和解と協力を所望している。お前らが駆り出されたそもそもの発端はやつらだが……くれぐれも短慮を起こすなよ。俺の顔に泥だけは塗らないでくれ」


 こいつらが暴れたら呪装貰えなくなるかもしれんしな。それだけは勘弁だ。


 ……万枚の金貨さえありゃ研究も進められる。せこせこと稼ぐ必要がなくなるかもしれん。


 俺の言葉を聞いた四人が首肯したのを見て部屋を出る――前に……これだけは言っておかなきゃならんかね。


「銀級のメイ」


「っ……な、なに……?」


「悪いな」


「えっ? な、にが……?」


「色々とな」


 俺はそれだけ言って扉を閉じた。

 そして覗き見対策に【不倶混淆(ケイオスフィルタ)】を使用してから外へ出て路地裏で首を斬ってから王都の別の宿で眠りに就いた。


 ▷


 王都のスラム深層。

 ライザル派閥のシマで俺たちを待ち受けていたのは、エンデの冒険者たちに負けず劣らずの精悍さを有したやつらが作る堵列(とれつ)であった。


 左右に分かたれた人垣が整然と並び、俺たちが向かう御殿への道を舗装している。その総勢は……おそらく、千は下らないだろう。まさに圧巻と評するに相応しい。


 その中心を俺たちは歩いているわけだが……これ、罠じゃねぇよな……? この人数が一斉に襲いかかってきたら俺は一秒と持たず死ぬぞ。


「おいおい、えらく歓迎されてるじゃねぇか……。シクスさん、あんたはここの大将にどんな話を付けたってんだ?」


「想像に任せる」


「これだけの手勢がいるのであれば積み荷の略奪など造作もないでしょうね。……全員、王都の表通りにいる者たちとは比べ物になりません」


「得物を持ってねェのは……友好の証ッてとこかァ……」


「……ギルドマスターが念を押す理由も納得ね」


 結局、俺たちを迎え入れるように作られた人垣はその陣形を崩すことはなかった。統率の取れた連中はただの一言も発さずに俺たちを見送っている。


 そりゃ外でも活動できるわけだわな。これだけいればある程度の魔物の群れとも渡り合える。遠征を繰り返して外の物資を調達できるわけだ。


 おそらく、俺への献上品として用意している呪装も外で拾ったものだろう。それさえ手に入れちまえば……あとは穏便に話し合いで解決するだけだ。

 ライザルは冒険者たちを遠征に協力させようとしてるらしいが……それは当人同士で解決してくれ。俺はあくまで橋渡しだ。


 もし交渉が決裂してもアウグストがいるなら大丈夫だろ。あいつなら全部力でなんとかしてくれるさ。多分。


 長い堵列の中央を往く。自然体を作り、笑みと風格で虚飾を纏えば死出の旅路も散歩道(プロムナード)に早変わりよ。


 まあ大丈夫だろ。金級二人いるし。いざとなったら【不倶混淆(ケイオスフィルタ)】で離脱しよう。


 そんな内心をおくびにも出すことなく、俺はライザルの待つ御殿へと踏み込んだ。


 ▷


「…………シクス及びエンデの冒険者がライザルと接触しました」


「…………」


「敵対はしていない様子です。……恐らく『例の件』を共有した上で協力関係を構築する気かと」


「……そう。あんな言葉で期待させておきながら……見損なったわ、シクス。貴方も厄災を撒き散らすつもりなら……こっちも形振り構うのはやめにするわ。……すぐに発つ。招聘するわ……アレを」

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― 新着の感想 ―
エイトは一笑に伏して終わりで良かったんじゃねえかな
エイト…想われてんな これガルドくんがネタバラシする時は来るのかな?
この状況に対応できる人物となると…姉上か? 宰相や国王とは繋がり無いみたいだし、洗脳した高位貴族を操っての召喚かなー。 レア姉はまだしも、レイ姉なら気配遮断も看破して来そう…ってゆうか勇者同士は感知…
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