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6話 vsサル 4

 右を見て、左を見て、そして正面で歯をむき出しにして笑っているボス猿を見て。

 

「なるほど、よく持ちこたえたわね紅剣」

「だけどマズイぞ。あのサル、仲間を呼びやがった」


 状況を理解したのか、メリーは俺を褒めてくれる。

 それに心躍るも、それどころではないと気を引き締め直し、見ただけでは分からない情報を伝える。


「あら、それは本当に大変」


 大したことないといった余裕そうな言い方が今は頼もしい。


「じゃああの大きなのは紅剣、よろしくね」

「……へ?」

「私はこれから来るであろう小さいのを全部やるから。逆のがいいかしら?」

「い、いや……」

「決まりね。……でもその武器じゃ心もとないわ」


 貸して、とメリーは小さな手を出す。

 はい、と俺は自分の手を重ね――触れられない。


「貴方の手なんていらないわ。私が貸して欲しいのはその剣の方よ。話の流れもそうだったでしょう」

「てっきり心細いから手を握りたいのかと」

「死ぬといいわ」


 酷いことを言われても嬉しいのは何故だろう。

 きっとメリーがいることでこんな状況でも希望が見えるからだろう。


 俺はメリーに剣を渡す。

 少しの躊躇もない。

 たとえ剣をサルに投擲するための道具にされたとしても、メリーがいる限りは俺は絶望し――


「えいっ」

「なんで折るのぉ?」


 メリーが可愛らしい掛け声とともに木剣を真っ二つに折ってしまった。

 まさか吸血鬼の身体能力を見せつけるために……?


「こうしないと私の新しいスキルが発動しないからよ」

「スキル?」

「そう。貴方の血を吸ったことでようやく開花した私のオリジナルスキル。流石に盾だけじゃ厳しいと思っていたわ」


 真っ二つにされた木剣を返される。

 俺の手の中でその2つは光り、それぞれ金と銀の装飾を施された剣へと変わっていた。


「ま、今はこんなところでしょうけど。十分ね?」

「ああ。ありがとうメリー」

「……お礼を言うのはこちらの方よ」


 金銀の剣は少しずつ短くなっていた。

 それこそ、片手で振るうのにちょうど良さそうなくらいに。

 折ったのはこのためだったのだろうか。

 用意周到だ。


「さて、ボス猿さんよ。決着を付けようじゃないの。もう援軍の力は借りられないぞ。メリーが全て抑えてくれるって言ったんだ。だったらそうなんだろう。ここからは俺とお前だけの闘いだ」


 背後ではすでにメリーが雑魚サルと闘う音が聞こえてくる。

 数は分からない……が、きっと森中のサルを呼んだはずだ。

 ここが最終決戦。

 もう出し惜しみは互いにしない。


「行くぞ!」

「グギィ!」

 

 竹槍の突きが放たれる。

 ……見える。辛うじてだが、軌道は終えている。

 また、【剣術】のレベルが上がったのだろうか。

 好都合だ。このまま上げて上げまくって、押してやる。


 竹槍を躱す、と同時にボス猿は竹槍を一度引き、連続で刺突を繰り出す。

 避けきれない。だが、受け切れる!

 2本の剣で槍をいなす。

 同時に、一歩ずつ前に踏み込んでいく。


「その長さじゃ、接近戦は苦手だろ。中距離じゃ一方的になるだろうが、ここを越えれば……!」


 右手で槍を捌きつつ左の剣でボス猿を切り裂く。

 ……浅い!

 だが、一瞬でも怯めばこちらのものだ。


 下がろうとするボス猿を追いかけ右手の剣で斬る。

 『剣術』のスキルが後押ししてくれているのが分かる。

 滅茶苦茶に振るっていると思っていたが、その剣筋は正確で、ボス猿の命を着実に削っていく。


「グ、ギギギギギ」

「吠えたところで仲間は来ない。お前は独りぼっちのお山の大将だ」


 頭が冴えていくようだ。

 すでにこちらの体には一つさえ掠らない。

 

 やがて俺の剣と打ち合ったことで耐えきれなくなったのか竹槍が半ばから斬り落とされて飛んでいく。


「グギ!?」


 焦ったボス猿は竹槍を捨て、単身殴り掛かってくるが、


「ここだ!」


 がら空きの胴。

 フェイントを入れると胴を守るが俺の狙いは違う。

 その少し上……心臓に剣を突き立てる。


「あ……が……」


 ボス猿は血に塗れた涎を垂らしながら倒れるとそれきり動かなくなった。


「ハア……ハア……倒せたか」

「お疲れさま」

「……お疲れ。そっちはやっぱり終わっていたか」


 振り返ると30匹程の雑魚サルが倒れていた。

 ……こんなにいたのか。


「貴方の血を吸っていたからね。それなりに身体能力も向上していたのよ。貴方もそうだったのではないかしら?」

「俺も?」

「ええ。吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼になるのよ。とは言っても一時的でしょうけれど。今回は初回だし、力が強くなって眼が良くなった程度じゃないかしら」

「へー。じゃあ闘いの度にメリーに血を吸ってもらえば……」


 大分楽になりそうだ。

 俺も力が上がるしメリーも力が上がる。スキルも使える。良いこと尽くしじゃないか。


「それはあまりお勧めしないわね」

「うん? なんでだ」

「吸血鬼度って言えばいいのかしら。吸血し続けるとね、貴方段々吸血鬼になっていくわよ。取り返しのつかないくらいに。私のような吸血鬼に」


 少し寂しそうな顔をしながらメリーは言う。


 メリーと同じ吸血鬼にか。

 うーん……でもそれって……


「別に吸血鬼になってもいいな。何かデメリットあるのか?」

「……人間じゃなくなるのよ?」

「でも見た目そう変わらないじゃん。少しだけ牙あるだけだろ」


 むしろ俺のチャームポイント増えちゃう?


「貴方の牙なんて私以外からしたら気持ち悪いだけよ」


 マイナスポイントでしたか……。


「あーでも血を吸わなきゃいけなくなるのか……。どこから調達したものか」


 献血みたいなのってこの世界にもあるのか?

 夜な夜な襲うなら……若い女の子の方がいいなやっぱり。

 オッサンの肌に口を付けるのは嫌だな。


「味に拘らないのなら、魔物でも何でもいいわよ」


 メリーはくすくすと笑っていた。


「人間の血が一番強くなれるし効率も良いけれどね。別にどんな血だっていいのよ。それに、吸血は食事ではなく強化と思いなさい。普通に食事したって生きていけるの」

「そうなのか」

「ええ。少しばかり寿命が延びてしまうけれど、私が一緒にいるのだから、構わないでしょう?」

「あ、ああ」

「……本当にいいの? 吸血鬼になったら人間には戻れないわよ」

「お前は人間じゃねえって、クラスメイトに何回言われたっけな……。あれはつまりはこういうことだったんだろう」

「それはただの悪口よ。貶されていることに気が付きなさい、愚かな紅剣」


 先ほどの暗い表情はすっかり消えていた。

 今はもう笑みを浮かべながら俺を貶している。

 だが、不思議と嫌な感じはしない。

 クラスメイトに言われた時と違い、むしろメリーに言われるならばと嬉しくなってくる。


「……いいのね?」

「ああ」


 再度確認。

 俺は即答する。


「……じゃあ頼む」


 首から直接吸うのかな……。

 痛いのは嫌だな、チクッとするくらいなのかな。

 目を開けたらメリーの顔が近くにあったらどうしよう……。やだ、ドキドキしちゃう!?


 とか思いながら目を閉じてみたのだが、一向に何も起こらない。


 目を開けるとメリーは歩き出していた。


「何をしているのかしら?」

「え、吸血鬼にするんじゃ……?」

「言ったでしょう。少しずつ吸血鬼になっていくって。いきなりは負担がかかるのよ」

「あ、そっか」

「ちゃんとアイテムは拾ってくるのよ」


 魔物を倒せば最も特徴的な部位を残して消える。

 ボス猿は大きな骨を残していた。……俺、これ担いで帰るの?


 メリーは森の出口が分かっているのだろう。

 迷いなく歩いている。

 俺は置いて行かれないようにアイテムを拾い集め追いかける。


「……それに、完全な吸血鬼になっちゃったらもう貴方の血を吸えないじゃない」

「あだっ!?」


 メリーが何かを呟いたような気もしたが、ボス猿の骨が木にぶつかり俺の頭に跳ね返ってきたため、上手く聞き取ることが出来なかった。


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