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5話 vsサル 3

「……は?」


 メリーは倒れている。

 気を失っているだけのようだが、この状況ではマズイ。

 

 数多くのサルの死骸もまた転がっている。

 こちらは一目で見て死んでいると分かる。

 俺が頭蓋を砕き、竹やりで心臓を貫いたからだ。


 だが、数多くのサルを殺しても尚、未だ危機的状況は過ぎていない。

 まだ後1匹、残っている。

 奥に鎮座するボスサルが。

 倒していないのではなく、倒せなかった。

 他のサルを殺せたのは見逃してくれたから。

 まだその場からは動いていない。

 少し指で石を弾いただけだ。

 指弾で発射された石は銃弾のようにメリーの額を撃ち、砕けた。


 ……メリーが人間で無かったから。

 バディで、吸血鬼であったから。

 

 雑魚サルとの闘いに夢中であったとはいえ、メリーが一撃で気絶させられた。

 その後は俺1人で残っていた雑魚サルを片付けたが、いつまた指弾が飛んでくるか怯えていた。


 逃げる事だって出来たかもしれない。

 1人ならばあるいは、だが。

 メリーを置いていくという選択肢を取れなかった時点で俺はこのボスサルと闘わざるを得ないわけだ。

 先ほどまで剣術のスキルを得るまでの闘いは前座。

 これから起こる死闘こそ本番。


 まだ折れていない。

 木剣も、俺の心も。そう、自分に言い聞かせるように剣を強く握りしめた。


「俺達はまんまと嵌められたってわけだよな」

「うきっきー」


 ボスサルは歯をむいて笑う。

 罠を張っていたら獲物がつれた。そんな状況を楽しんでいるかのように。






 サルの群れを出し抜いて倒しきった。

 そう思い、確信し、油断しきっていた。

 なによりも俺が剣術という新たなスキルを手に入れたことで強くなれたと過信し、これなら大抵の敵とも渡り合えると思っていた。


 最初におかしいと言い出したのはメリーであった。

 数が合わない、と。


「そういえば気になることが1つ」

「うん?」

「【クレイジー・モンキー】って確かに集まると厄介なのだけれど、流石に5匹で【クマッ】を倒せるかなって」

「倒せるとか言ってたのメリーじゃないか」

「いえ……私も知識では知ってるけど実際に見るまでは不確かなものって多いのよ。【クレイジー・モンキー】は集団で【クマッ】よりも強いってのは知っているけど、それが何匹集まれた倒せるのかは知らないの」


 ……まだどこかに潜んでいるってことか?

 5匹よりも多いサルがいて、今は俺達を襲撃する機会を伺っていると。


「……ん? 俺達が逃走もしくは迂回すると先回りされているかもって話していたよな。もし本当に先回りしていて、あそこに残っていたのがクマの死骸を見張っていた連中だとすれば……」

「私達がいないことに気が付いた残りが戻ってくるかもしれないわね」


 たぶん行きの道程の半ば程。

 そこまで歩いたところでサルがまた現れた。

 それも10匹も。


「紅剣、おそらく貴方が突撃を選んだことをあのサル達は読み切れなかったのでしょう。迂回か逃げるかを予想して、森中に散らばっていた。それが再び……」

「集まってきたってわけか。いけそうか、メリー?」


 数は多い。

 剣術のスキルを得てようやく俺はサルと対等に渡り合えるようになったのだ。

 つまりは、10匹のうちほとんどをメリーに引き付けてもらわなければならない。

 だが、メリーは


「あら、誰に言っているのかしら。私は貴方のバディ。ならばこれしきの闘いは乗り越えなければいけないわ」

「俺に相応しいってところを見せると?」

「誰もそんなこと言っていない。ただ、見せつけてやるだけよ。私の力を」


 メリーが木の盾を持ってサルへと向かっていく。

 竹やりをいなしながら、サルの胴へと盾を投げ、叩きつけ、振り回す。

 瞬く間に1匹を沈めたメリーは次のサルへと目線を向ける。


 メリーの強さを実感したのか、俺へは2匹ばかりのサルが、残りはメリーの下へと別れていく。


「……なるほど、これがスキルってやつね」


 なんとなくだが体の動かし方が分かる。

 サルの次の動きまでも予測し、そこに向かって剣をどの角度で斬り合えばいいかも分かる。


「まずは1匹!」


 メリーに負けじと俺も1匹のサルへ集中的に剣を叩きつけて頭蓋を割る。

 それを見て体が竦んでいたもう1匹へもすかさず木剣を振り下ろした。


「メリー! やったぞ、倒せ、た……?」


 加勢が必要か、メリーへと振り返ると、メリーはまだ闘っていた。

 数が数だけに、一斉に来られたら攻めきれないらしい。

 それでも着実に数が減っていっているのは流石というべきか。


 だが、その奥に鎮座する一回り体格の大きなサル。

 そのサルの存在で戦況は一変したのであった。






 残った1匹――ボスサルの動きを見逃さぬようしっかりと見据える。


「……突然変異なのか、それとも別種なのか。それは後でメリーに聞くしかないな」


 聞くために2人とも生き残る。

 

「よく見ろ……見極めろ……」


 恐らくは、このサルが大量の雑魚サルへと指示を仰いでいた。

 クマの死体に4匹を残し、近づく俺達へと罠を張っていた。

 知恵の回るサルの群れのボス。

 人間が獣に取れるアドバンテージの一つである知略が、この敵に対してはほとんど機能しないだろう。

 

 ならば残りの俺の武器は剣術というスキル。

 ……もう一つ、あるにはあるが、今は使えない。

 使える時を待つしかない、か。


「来い……っと、おわぁ!?」


 なんとも情けない声をだしながらボス猿の指弾を木剣で弾く。

 ボス猿が鼻をほじりながらなんとなしに弾いた小石を俺は集中して何とか凌ぐ。

 力量の差も歴然。


「ウキィ」

 

 ボス猿が立ち上がる。

 そして、雑魚サルの死体が持っていた竹やりを2本取拾うと、構えた。


 当然だが、様になっている。

 単純な手数の差もそうだが、このボス猿が雑魚サルよりも弱いとは思えない。


「キーッ!」


 ボス猿が跳躍する。

 空中からの2本の槍の乱舞が俺を襲う。

 1本は何とか抑え込めるが、2本目は俺の顔や手足を掠めていく。


「……ぐっ」


 いくつも増えていく痛みと傷。

 意識を失うにはほど遠い。だからこそ、より鮮明に眼が冴えていく。

 今はまだ何とかなる。防御に徹することで均衡を保つことが出来ている。

 それはつまり、このまま押し切られてしまうことを意味する。

 だが、負けられない。


 負ければ全てを失う。

 それだけは、嫌だ。


「う、おおおおおおおぉぉぉぉ!」


 竹やりが左腕を抉る。

 痛い。だが、止まるわけにはいかない。

 木剣で竹やりを受け止めると、そのまま押し返す。

 

 そのまま転んでしまえば好都合。

 だが、ボス猿は身軽に宙を舞うと、後方へと下がった。


「キキキ」


 ボス猿は笑い、


「キキィ―――――」


 森中へ響き渡るような金切り声を上げた。

 高らかに勝利を吠えた。

 ……そんな理由だったらどれほど良かっただろう。


 森中へ響く声。

 それはつまり、森の中に散っていた雑魚サルが全て集結するということ。


「ウキキ」


 こちらを見てニヤニヤと笑っている。

 俺とボス猿。彼我の力の差と、更にはそれを上回る援軍。

 質と量。どちらも負けている。


「勝った……と思うよな。この状況じゃぁ」


 ああ、この状況を俺が待ち望んでいた。

 

 ボス猿が俺より強い? そんなの当たり前だ。先ほどようやく剣術のスタートラインに至った俺より強い存在はいくらでもいる。

 森中からサルが集まる? 一斉に来られたら俺1人ではひとたまりも無いだろう。


 俺1人だったら、ボス猿にも勝てないし、これから集まるだろう雑魚サルにも対処できない。


「メリーが倒れたのはな、不意打ちだったからなんだ。お前は隙を伺っていた。隙のないメリーを倒すために配下を使ったんだ。真正面からじゃ倒せないことを悟ってな」


 メリーを抱き抱える。

 彼女は未だ気絶している状態だ。

 無理やり起こすことも出来るだろうが、その時間は無い。

 ボス猿が下がった。

 雑魚サルを呼んだ。

 この時間でやれることは、一つの賭けに出るしかない。


「……木剣じゃ打撲痕は作れても切り傷は作れないからな。助かったよ」


 一際傷の大きな左腕をメリーの口元にあてがう。

 本能故か、メリーは血の臭いを嗅ぎ、そして吸った。


「おおぅ……変な感覚」


 メリー・スプラトゥス。

 彼女は吸血鬼である。

 夜に力が増だとか、ニンニクや十字架、銀の弾丸が苦手だとか。

 そういった話をする以前に、もっと特徴的な話がある。

 血を吸う鬼。故に吸血鬼。

 彼女は言っていた。

 血を吸えば吸う程に身体能力は高くなると。


「甦れ、メリー!」


 だったら今だ。

 この状況で俺に出来ることはメリーに血を与えることだけだ。


「……淑女を起こしたいのならもう少し静かに出来ないのかしら。それに、蘇れだなんて……ま、吸血鬼になら相応しい言葉なのかもね。血は美味しかったわ、ご馳走様」


 メリーは目覚めた。

 その額には先ほどまでくっきりと残っていた指弾の痕は消えていたのであった。


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