探せ、本物のイジトリを
なあ、異次元のこっこお行列って知ってるか?
「ふう、ふう……あ? 何だって?」
いや、だから、異次元のこっこお行列だ。
「ふう、ふう……何、異次元の大名行列?」
こっこおおおおおおおおお!
「おわっ!? 何だいきなり!」
ドアッホウが! 何だよオイ、異次元の大名――略してイジダイってのは!
「いや、俺、略してねえしな」
イジダイなんて、想像もつかねえ変なもん勝手に作るな!
「いや、それなら多分、異次元のこっこお行列の方が想像つかないと思うぞ」
なっ、なん……だと……!?
「え、何、何そんなに驚いてんのさ」
お前、異次元のこっこお行列が想像つかないって……え、マジか。
「マジだぜ」
嘘……だろ……?
「というか、一般の皆様に訊いてみ。百パーセント想像つかないって答えが返ってくるから」
ふっ、ふふふっ、ふははははは!
「な、おい、どうした。ついに狂ったか」
君ねえ、無知は罪だぜ。
「最近よく聞くなあその台詞。ハマってんの?」
お前なあ、異次元のこっこお行列っていったら、俺たち異次元のユデタマゴ同好会の同志たちの間では定番の行事なんだぜ?
「スルーか。まあいいけど」
異次元のユデタマゴ同好会――略してイジユデ同好会の間じゃあ、東に行けば異次元のこっこお行列、西に行っても異次元のこっこお行列、北に行っても――。
「お、おう、わかった、もういいから、な?」
こっこおおおおおおおおお!
「うおっ、何だよ急に」
いやな、ちょっとこれから起こることを想像したら興奮しちまってな。
「興奮?」
ああ、ついに俺も異次元のこっこお行列に挑戦できるのかと思うとな……!
「なあ、俺に何も情報入ってきてないんだけど」
おう?
「何なんだその、異次元のこっこお行列ってのは」
そうかそうか、どうしても知りたいというわけだな?
「え、いや、そういうわけじゃ……」
じゃあ、ヒントだ。異次元のこっこお行列は、略してイジコオ行列と呼ばれている。
「……いや分かんねえよ!?」
はあ? このくらい分かんなくてどうすんだ! お前も同志になったのに!
「どっ、同志!? 俺が?」
ああ、俺は忘れないぜ……夕暮れに染まるイジユウのゴンドラの中で、お前と暑くこっこおと叫び合ったあの時間を……!
「あっ……」
それはともかく、もう一つヒントだ。
「展開早いな」
イジコオ行列から、行列を抜くと……?
「イジコオ、になるな」
なあ、最近、どっかで聞いただろ……? イジコオに似た響きの言葉をよ……!
「いや、そんなびしっと指差されながら言われても、皆目見当が……」
なっ、なんだと、お前のイジユデ同好会へのラヴはその程度だというのか……!
「そんなの持ってねえよ!?」
なあ、イジコオとイジボウって発音似てねえ?
「えっ、いや、まあそうかも……って、あ!」
ふっ、そういうことさ。やはり、お前のイジユデ同好会へのラヴは本物だったようだな……!
「今お前が自分から答え言ったよな! 言ったよな!?」
ふっ、着いたぜ。ここが異次元のこっこお行列の会場の――。
「はあ? こんな何もないところに……」
イジボウ工房だ。
「……えええええええええ!?」
どうした、そんなに叫んで。
「いや、だって、えっ!?」
忘れてたのか、俺たちは遥かなる山を登っていたんだぞ? イジボウ工房に辿りつくのは当たり前だろ?
「いや、おま、ここが異次元のこっこお行列の会場なの!?」
ああ。
「何で!?」
何で、とは?
「何でよく分からないがすごい包丁を作ってる工房が、そんなイベントの会場なの!?」
そんなとは、何だ、そんなとは! 異次元のこっこお行列はなあ、イジユデ同好会が発足した当時からある、歴史あるイベントなんだぞ!
「イジユデ同好会発足当時から……って、歴史があるのかないのか分からねえな、オイ」
さあ、行くぞ! ふう、興奮するなあ!
「俺は最早何も感じないけどな」
すうううううう……。
「何で息を吸い込むんだ」
こっこおおおおおおおおお!
「え、何故叫ぶ!?」
馬鹿野郎、これは異次元のこっこお行列に参加するためのエントリーだ!
「どんなエントリー方法だ!」
(何だ、騒々しい……)
「……!?」
お、お願いします!
(ん、ああ、お前か、オヤジが言ってた見込みある若造ってのは……)
こ、光栄であります!
(いいぜ、エントリー、だよな?)
はい!
(そっちのガキは、エントリー、するのか……?)
「え?」
はい! 彼は私の相棒であります!
(む、そうか……本来なら、異次元のこっこお行列は一人で臨まなければならない……神聖なイベントだ……)
心得ております! ですから、まずは――。
(だが、オヤジがお前たちは手厚く迎えろと言っていたからな……特別に、二人一緒に参加することを認めよう……)
ありがとうございます!
(では、俺は準備してくる……少しここで待っていろ……)
分かりました!
「……」
……。
「行ったか?」
ああ。
「なあ、あれ誰?」
……はあ?
「突然大柄でひげ面だけど割ともにょもにょ喋るおっさんなんて、俺初めて見たんだが」
ばっ、お前、知らないで話してたのか!?
「え、うん」
お前なあ、あの人こそ、俺たちがここに来た目的、世界でただ一人イジボウを作っている職人じゃないか!
「……ええっ!?」
はあ……全く、君ねえ、無知は本当に罪なんだよ?
「いや、だって、あんなもにょもにょ喋る爺さんが、そんな凄そうな人なの!?」
凄そう、じゃなくて、本当に凄いんだよ。あの人がいなけりゃ、イジトリは調理できないんだからな。
「つまり、世間一般にとってはそんなに需要ないんじゃ……」
お前なあ、馬鹿なこと言ってんじゃ――。
(待たせたな……)
はいっ!
(こっちだ……着いてこい……)
おおっ、ついに、ついに俺も、異次元のこっこお行列に参加するぜっ……!
「俺、もう帰っていいかな?」
馬鹿野郎、ここまで来て何言ってやがる! 怖気ついたのか!
「いや、もう単純に帰りた――」
(さて……お前たちは……異次元のこっこお行列についてはどのくらい知っている……?)
はい、全て完璧に、歴史背景からルールまで、熟知しております!
(そうか……なら、俺から改めて説明する必要は無さそうだな……)
「え、あの、俺何も知らないん――」
(では、千二百六十五組目、ちきちき、異次元のこっこお行列を開始する……!)
いよっしゃああ! やってやるぜ! こっこおおおおおおおおお!
(ふっ……気合入ってるな……だが、俺はそんなに優しくないぜ……!)
かかってこいであります!
「え、あの、俺、とんでもないスピードで置いていかれてるんだが」
大丈夫だ。
「え?」
異次元のこっこお行列、なんて御大層な名がついてはいるが、そんなにルールは難しくない。俺がやっているのを見ていれば分かるから。
「いや、このイベントそんなに大層な名前じゃなくね……?」
とにかく、お前は最初は見てるんだ。大丈夫そうだと思ったら、参加してくれればいい。
「お、おう……」
(では、さっそく一列目だ……)
はい!
「な、何だ……? ニワトリが五羽、一列に並んで行進してる……?」
(ほれ、一番……鳴け)
[かっかあああああああああ!]
(次、二番……鳴け)
[きっきいいいいいいいいい!]
(次、三番……鳴け)
[くっくううううううううう!]
(次、四番……鳴け)
[けっけえええええええええ!]
(次、五番……鳴け)
[こっこおおおおおおおおお!]
(さて、この五羽の中で、異次元のニワトリはどーれだ……?)
五番であります!
(ほう、即答か……)
迷うべきところなどありません!
(確かに、今の問題は五番が正解だが……これはレヴェルスリー……イジユデ同好会でも幹部クラスしか正解できない問題だ……それを即答で、しかも正解とは……なるほど、確かにお前には、オヤジが言うように、少しは見込みがあるようだ……)
ありがとうございます!
(だが、まだまだイジボウへの道のりは遠いぞ……)
分かっております!
「え、どういうこと?」
ああ、言ってなかったけな。このイベントであの職人さんに認められないと、イジボウを注文することはできないんだ。
「……えっ、そうなの?」
ああ、だから、俺たちは何としてもこのイベントをクリアしなければならない!
「ねえ、やっぱ俺帰っていい?」
(次、二列目だ……)
「なっ……次はニワトリが三羽しかいない……?」
数が少なくなった代わりに、判別の難易度は格段に上がるって寸法さ……。
「さっきのも皆揃って変ちくりんな鳴き声のように聞こえたがな」
なっ……お前、耳鼻科行った方がいいぞ?
「理不尽過ぎんだろ!?」
(おい……うるさいぞ……)
すみません!
(まずは一番だ……鳴け)
[ぎいいいいいいやあああああああ!]
「たっ、ただの叫び声!?」
(次、二番だ……鳴け)
[おじゅぱああああああああ!]
「何それ!? それも鳴き声なの!?」
(次、三番……鳴け)
[くるっくほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!]
「長いわ!」
お前、鳴き声にまで突っ込むなんて……さすが同志だな。
「いやいや、ニワトリの発声器官からどうやったらあんな声が出んだよ!? おかしい音色満載だっただろ!」
お前な、信じられない気持ちも分かるが……仕方ないだろ、これはただのこっこお行列じゃない、異次元のこっこお行列なんだから。
「異次元って言えば何でもオッケーみたいに思うなよ!?」
(さて、この三羽の中で、異次元のニワトリはどーれだ……?)
二番であります!
(ほう……! また即答か……しかも正解だ……)
いよっしゃああ! こっこおおおおおおおおお!
「えっ、いや、さっきイジトリって言われたやつと鳴き声違うじゃねーか!?」
馬鹿だなあ、声帯のところに変声機付けてんだよ。
「なっ、それ、絶対分かんねーじゃん!」
馬鹿だなあ、本物のイジトリの鳴き声には規則性があんだよ。それを見抜くのが俺たちのこのイベントでの仕事ってわけ。
「い、意味分かんねえ……!」
(おい、もう一人の方……)
おい、呼ばれてるぞ。
「あ、はい、何でしょう?」
(見ていれば、お前は全然答えないな……)
「……えっ?」
(次は、お前が答えろ……)
「……はい?」
(最後、三列目だ……)
「えっ、ちょっ、大丈夫なのかよ、これ?」
お前ならできるさ。
「その自信はどこから生まれてくるんだ!」
根拠なんてないがな。それでも、俺はお前を信じてる。
「その信頼が今は少し腹立つ!」
(今回は……三羽だ……まず一番……鳴け)
[じゃああっくううううううううう!]
「……!?」
(次、二番……鳴け)
[ぱんだあああああああああ!]
(ラスト、三番……鳴け)
[わかめえええええええ!]
(さて、この三羽の中で、異次元のニワトリはどーれだ……?)
「わっ、分っかんねえ……! ジャックとかパンダとかワカメとか、一体どんな鳴き声してやがるんだこいつらは……!」
お前ならできるぜ!
「その信頼をヤメロ」
実際、規則性が分かればどうってことないぜ!
「どっかにそんなもんあった!?」
君ねえ、普通気付くでしょ?
「分かる余地ねえよ!」
(どうした……早く答えろ……)
「あっ、はい!」
頑張れ! 君ならできる!
「……!」
おっ、何か閃いた顔だな。
(その閃きに……見込みがあるか……見極めてやろう……)
「確か、世界のどっかでは、ジャックパンダさんはパンダって呼ばれてるんだったか」
……え、お前、何言ってんの?
「きっと、作者さんの名前にちなんだ鳴き声に違いない! 答えは二番だ!」
(ほう……正解だ……)
「……えっ、マジで」
(マジだ……やはりお前たちには、オヤジが言うように見込みがあったようだな……)
「嘘だろ。結構滅茶苦茶な理由で答えた自覚あったぜ、俺」
まあ、何でも合ってりゃいいだろ。
(いいだろう……お前たちには異次元のこっこお行列をクリアした記念として……異次元の包丁をやろう……)
いよっしゃああ! こっこおおおおおおおおお! 興奮してきた! これで俺も、ついにイジボウを手にするときが……!
(ただ、今は予約がたくさんあってな……三か月待ちだが、それでもいいか……?)
構いません! あなたが作った包丁を手に出来るなら、いくらでも待ちます!
(それと、そっちのお前……)
「あっ、はい」
(お前には、記念にこのイジトリをやろう……)
[ぱんだあああああああああ!]
「えっいらない」
(そう言うな……慣れてくると可愛く見えてくるぞ……)
「それって慣れなきゃ可愛く見えないってことですよね!? いらないっすよ――」
失礼します!
「えっ、ちょっ、帰んの!?」
おう、異次元のこっこお行列に挑戦できたし、イジボウも注文出来たことだしな!
(ああ、イジボウが完成したら連絡入れるから……また来な……)
「あっ、ちょっ扉閉めないで――」
ありがとうございました!
「ちょっ、お前も引っ張るな――って、扉閉まっちまったか」
[ぱんだあああああああああ!]
「えっ、こいつ、どうしよう……?」
よかったな、イジトリ貰えて!
「えっいや全然嬉しくない――」
[くるっくほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!]
[けっけえええええええええ!]
[おじゅぱああああああああ!]
[わかめえええええええ!]
[ぎいいいいいいやあああああああ!]
「何か……外に鳴き声が漏れ出てると変な動物園みたいだな……」
異次元のニワトリの動物園……異次元の動物園か、確かにその一面はあるかもな。
「まあ、中にいるへんてこな鳴き声のやつよりは、こいつでよかったのかな……」
[ぱんだあああああああああ!]
「いややっぱいらねえ」
まあ待て、そいつ、育てりゃイジタマ産むんだぜ? 滅茶苦茶旨いんだぜ、イジタマ。何せ、異次元のタマゴだからな。それでもだめか?
「んー、まあ、それを聞くと少しは――」
[ぱんだあああああああああ!]
「いややっぱいらねえ」
2017年度千葉大学文藝部部誌『晴嵐』所収




