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四季暦は死にたくない  作者: 韋駄天
一章
12/14

無限サンドイッチ

「ほな行こかー」

軽い手振りつきで、歩き始める弥生さん。

僕達は、その後ろを着いて歩く。


「せや!暦君?ちょっとええか?」

少し歩いたところで、不意に弥生さんが振り返ってくる。


「なんかあったんですか?」そう言って僕は、少し前を歩く弥生さんに駆け寄った。


「いやなぁ。ほらあの女子二人組、凄い人気らしいなぁ。お陰さんであの後、入部希望者がアホほど増えてなぁ。まぁ全員追い返したんやけどな。」笑いながら話す弥生さん。


片っ端から入部拒否する部活とは……

いや心の底から感謝している。これで僕の学校生活のおける心の休息ポイントができたのだから。


「ご迷惑おかけしました。」素直な気持ちである。


「いやいや!ええんやで。困ったときはお互い様ってゆーやろ?せやから、まぁまたうちが困ったら頼むわ。」

さっきより一段と笑いながら話す。恩を仇で返すなよと言わんばかりに。。。

「勿論ですよ!もしもの時は、精一杯頑張りますよ」

僕はそう言いながら、元の位置に戻った


「何話してたのー?」

ニコニコしながら聞いてくる時雨しぐれに少しだけ。その横からちょいっと顔を覗かせている林檎にほんの少しだけ。魔が差してしまった。


「ん?弥生さんのカップ数についてだよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いっいや 勿論冗談だよ?部活についてだよ。ハハッハハハハハ」

沈黙に殺されるかと思った。黙殺されるところだった。

ひきつった笑いをしながら、そんなことを僕は思った。


「ほらついたで。初部活動や。なんやなんやそんな顔して。冗談の一つも通じへん女子はモテへんねんで~?」

弥生さんの言葉により、時雨と林檎の凍っていた表情が融解する。

いや神じゃん。女神じゃん。また恩を作ってしまったが、これは仕方ないだろう。僕がまいた種だから。


そして劇場に入る。劇場の中は大きな映画館のような作りだった。

席の並びは、弥生さん|時貞|林檎|僕|時雨

やばい!女神様が遠い。公演が終わるまで、僕は生きているだろうか…


「ど~もど~も~……」

一組目が出てくる。どうやら杞憂だったようだ。二人とも食い入るように見ていた。

さぁ僕も楽しもうかな!!


四組目が終わり……お!次は僕が好きなコンビだ。と心の中でテンションを上げる………!!

激痛が走る。痛い痛い痛い。右肩が重い。何とか首を動かしそちらを見ると、僕の肩を枕に、時雨が爆睡していた。いやいや速すぎだろ……諸悪の根源を起こそうと、右腕を動かそうとするが…がっつり凭れ掛られていて、全く動かせない。


仕方なしに左腕を動かす。と

「どっどうしたの?暦さん」

僕の異変に気付いたのか、林檎か横から声をかけてくる。

「!!」僕の方を見てまた驚く。


これは事故である。永遠に続く痛みと、右腕が動かせない苛立ちにより、僕の顔はこの世の終わりのような顔をしていたらしい。

僕は、簡単に彼女に説明する。

といっても、左腕で彼女をどかしさえすればいいだけなので、早々に説明を切り上げようとする。


「まっ待って。」そう言って彼女は僕に耳打ちをしてきた。

それは、簡単にいうところの時雨だけずるいというものだ。僕が好きなコンビが出た後から、林檎と手をつなぎ、僕が失神する→目を覚ます→失神する……いや死ぬだろ。


「だっだめかな?」

うん。だめじゃない。両手に花で死ぬならまぁ悪くないよね…

でも本当に林檎って大胆だよね!もはや内気は仮面じゃないかなってレベルだよね!

そんなことを考えていると、僕の好きなコンビの出番は終わっていた…全然頭に入ってない!


「じゃっじゃあ握るね」

そういって林檎は僕の手を握る…一瞬で気絶した僕だったが、その一瞬でも分かるほど彼女の手は震えていた。


そのあとのことは、よく覚えていない。。。

…………気が付くと目の前には、僕以外の全員が立っていた。




「こんなけ爆睡するなんか、ええ度胸しとぉなぁ?」

僕が目を覚ましたのに気づき、弥生やよいさんが口を開く。顔は笑っているが、目が全く笑っていない。


というか…僕は寝てなんていない。気絶である。

僕は助けを求め、林檎りんごに視線を送る。

〈林檎は反応が無い。既に屍のようだ〉

んんん。だめか。

勿論承知だと思うが、阿呆しぐれはどうにも出来ないに決まっているので、助けを求めるだけ時間の無駄だろう。

まず、この公演中に、自分が僕にもたれ掛かって寝ていたことを覚えてない様子だ。


救いようがない人間に、救いを求めるのは。期待肥大だと思う。


兎にも角にも、全力で謝り倒す。


「ほな、罰ゲームとして時雨ちゃんとののろけ話でもまたゆっくり聞かせてもらおかな」


「えぇ!それ私も巻き込まれてませんか!?こよみんじゃなくて、私とこよみんの罰ゲームになってませんか!?」

おおっと。そうか。時雨ってこんな奴だったっけ。


「まぁ付き合ってるんやしなぁ。ていうか時雨ちゃん。よだれの後くっきりついてもーとるで。せめて取ってから言わんと。」


「えっ。ホントだ!!私寝てたんですか!!全然気付かなかった!」

弥生さんの突っ込みにエヘヘと笑いながら口をこする時雨。

うん。やっぱり昔からこんな奴だった。





「まぁ罰ゲームはまた今度や。付き合ってからまだ日ぃ短いやろ?やからしゃーなしや。林間学校の後期待しとるでぇー」


「いやいやいや!こよみんは狼さんじゃないですから!大丈夫ですよ!」


「なんやなんや?林間学校で襲われるおもてるか?中々大胆なやっちゃなぁ。まぁ自分が寝てることに気付かんやっちゃからなぁ。」


「その話はもう止めましょうよぉ!助けてよぉーこよみんー」


「ん?ごめん寝ぼけてて何言ってるか理解できないや」


僕は、時雨からのSOSをバッサリ切り捨てる。因果応報というやつだ。



僕達はあの後、お昼ご飯を食べるために、近くのファミレスに来ていた。

そして弥生さんの標的は専ら僕から時雨へと、変わっていたのである。いやぁ素晴らしい。

 



「よぉ食ったなぁ。さぁどーしよか。うち用事あるさかいそんなおれへんけど、記念に皆でプリクラでもとろか!」

ご飯を食べ終え、弥生さんが口を開く。

「いえ!申し訳ないですけど!僕はこれで失礼しますね!林間学校で思い出したんですけど。色々備品買わないと行けないんで~」


〈暦は逃げ出した。奇跡的に逃げることに成功した。〉


正直、僕は今プリクラ恐怖症である。

閉所恐怖症でもなければ、林檎恐怖症でもない。

ただプリクラはとりあえず、1年くらいは入りたくない気分だ。


まぁ、備品なんて直ぐ片付くと言えばそうなのだが。嘘では無いから……



ピローン

メールを受信する。誰からだろう……もう『今日はお疲れ様!』メールじゃ無いだろうしなぁ。

まだ別れてから、一分も経ってないくらいだ。


[今どこー?こよみん実行委員に為っちゃったんだよねー?手伝うよー!皆にももう言ってあるからー]


あれ。こんな奴だったっけ。ちょっと嬉しかった。だから、こう言う時は電話だろ!という心の声を閉まってメールで僕の居場所を伝える。

と言っても、皆が居たところから道を一つ曲がっただけなのだが……


「おぉ!こよみーん!お待たせー」

時雨は見つけると、嬉しそうに手を振りながら走ってくる。


「嬉しいけど、そんな大変でも無さそうだから来なくても良かったのに」

本音である。プリクラサボりがバレるわけにはいかないのだ!僕の高校生活と林檎の尊厳のために。



だが、そんな僕の考えが最低最悪かと思えるほど、心の底から反省するほど。彼女は屈託のない笑顔をして見せた。


「いやいや!私はこよみんの彼女さんだからね!少しでも大変だったら手伝うのが仕事だよ?」




「ありがと………………………………………………………………………あれ?じゃあ何でさっきは罰ゲーム嫌がったの?僕凄い大変だったけど」


「えっ。そっそっそれは~~あれだよぉ~」

僕の質問にあからさま戸惑う時雨。


騙されるところだった。

悩殺スマイルに全てを流されるところだった。

 

まぁこう言う所も含めての時雨だからなぁ。


仕方ないなぁ。僕も人生史上最高の悩殺スマイルを解放して……

「でも。嬉しいよ、さぁ行こうか」

フフフ。喰らうがいい。我が至極のハニカミスマイルを……


「こよみん!大丈夫?私が居ない間に頭うっちゃったのかな?凄ーい気持ち悪い顔してるよ?」


彼女の混じりけの無い言葉は僕の心を、これでもかと抉っていったのだった………


「こよみーん?大丈夫?」

〈暦は反応が無い。既に屍のようだ〉







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