美少女>>>桜
―――春。県内でも有数の進学校である双星高校に入学できた僕、
四季 暦は今、世界で一番感動と不安に挟まれていた。
「レベル高すぎるだろ……」
一人校門の前で立ち尽くし、満開の桜にもたれ掛かり、目の前を通りすぎていく同学年or先輩方、特に【女子の】同学年or【女子の】先輩方を横目で見ながら思わず言葉を漏らしてしまう。
これは双星高校のお偉いさんが、可愛い娘しか入学させません運動を起こした訳ではなく、僕が今まで生きてきた所、謂わば故郷はど田舎であり、この双星高校は故郷から電車を一時間と少し乗った所にあり、近くにはショッピングモールやマンションやビルが所畝ましと並んでいる、謂わゆる都会である。
環境が人を作るとは全くその通りである。ほぼ全員がメイクを施していたり、髪色を変えていたり、これで私服登校までもが許可されていたなら【双星大学】と言われても気づかないのではないかと思うほど、皆が皆大人びて見えたのだ。
本当に頑張って勉強した甲斐があったというものだ。
そして僕は晴れてこの四月から独り暮らしである。
ビバ!下宿!ビバ!独り暮らし!
ただこれだけだと僕が今の立場を、ひたすらに自慢しているように捉えられかねないので言わせて頂きたい!
一見、順風満帆感を醸し出している僕が抱える問題について。
悪魔の嫌がらせか神のイタズラか。
四季暦は奇病にかかっている。
世界でも知っている人はほとんどいないだろう。
ましてや実際にかかっている人なんて神話レベルの確率らしい…
ただこうして自分がその神話レベルを引き当てたと思うとどうも実感が湧かない。
神話は神話で済まされるべきだろう?
そしてその現代の神話の名前は『異性交遊シンドローム』一言で言えば、女子と一線を越えると死ぬ病気だ。手を繋げば全身に謎の発疹が出て、キスなんてすれば呼吸困難に陥る。
決して『こじらせちゃった童貞君』などではないと強くここに表明したい―――いや勿論。童貞君なんだが。
「新入生の諸君、この度は我が校への入学誠におめでとうございます……」
校長先生だろうか?僕にそういった権利があれば表彰を送りたい。あなたのスピーチはとても眠気を誘ういいスピーチですと……………
「!?」全身に猛烈な痛みが襲う。
「こよみん?さすがに初日から寝るのはどーかと思うけどなぁ」隣からささやく声が聞こえた
僕は慌てて隣を見るとそこには、強引に僕と腕を組む時雨の姿があった。
皐月時雨彼女は僕の幼なじみであり、彼女の父が僕の主治医と言うことで僕のこの奇病をしる数少ない人物である。容姿端麗。英俊豪傑。秀外恵中。黒髪ロングの清楚系であり、自他ともに認める美少女であった。ただ自分で気づいているかは分からないが少し天然である……少し
「悪かった。だから今すぐその腕を外してくれ。当たってるから……」全身に走る痛みを堪えながら彼女を諭す。僕の病気は服などの間接的なものだと症状が軽くなる………が彼女の持つ『それ』は
服越しでも十分な破壊力を持っていた。
「ええ!?こ!これは事故だからね…」彼女はそう言って顔を赤らめながら前を向き直る。
そうして恥ずかしそうにする彼女を横目で見ながら、また睡魔に身を委ねるのだった。
高校生活が始まり、4日ほど経った。奇病を抱えていると言っても、女子と触れ合わなければこれと言って日常生活には何の支障も無い。幸い友達も出来た。
「こよみーー!今日俺ん家こない?新作ゲーム勝ったんだよ-!なんなら泊まりでもいいぜ!?折角の金曜日だからなぁ!花金だぜ!」
彼は睦月時貞、中学時代は少しやんちゃだったらしいが、僕からすれば情に厚そうな好青年だ。多分…いやたった四日で人を判断できるほど、僕は人生の経験値を持ってはいない。
そんな彼の提案に笑顔でokを出していると…
「ごめんね-!睦月くーん!ちょっと、こよみん借りてくねー?」颯爽と現れた時雨に強制的に連れて行かれる。
幸いにも。不幸にも。彼女とも同じクラスになっていたのだが。始業式から今日までお互い関わることは無かったのだが……
ハッキリ言えば、僕と彼女は住む世界が違うと言えばいいのだろうか?
メイクバチバチガールにウェイウェイボーイ。或いは大部分を占めるガリ勉系メガネ族。
どっちつかずの僕は基本的に時貞と二人で過ごしていた。
そんな僕に比べて彼女は、誰とでも仲良くなり、円の真ん中にいる存在だった。まぁ中学校、小学校の景色となんの変わりもないので驚くことはないのだが。
そんな彼女が、世界を飛び越えて急に僕の前に飛び出してきたのだ。
勿論、驚いていたのは僕だけじゃなかった。周りは等しく、はてなマークを頭の上に掲げていた。
そんな時間が止まったような世界で動いている二人がいた。正確に言えば、時雨が僕を強引に引っ張っていたのだ。
腕を掴まれているため、全身に走る痛みによって僕は彼女に抗うことは出来なかった。
そして彼女は廊下を越え、階段を駆け上がる。
そして屋上についた。
そこで初めて彼女は僕の腕を離す。
「いきなりどーしたの?」僕は怒りをあらわに。天然の彼女にでも伝わるように。声を荒らげる。
いくら服越しとはいえ、勘に余る痛みの長さだったのだ。
「こよみん!よーく聞いてね」彼女はいつにもまして真面目そうに僕の顔をのぞき込む。僕の怒りなんて関係ないとばかりに。。。
静寂が僕達を襲う……
「こよみん!私に告白して?」
…………………………………………………………………………………………………………………はい!?
僕の思考回路が止まっている隙に、時雨は矢継ぎ早に続ける。
「よく聞いてこよみん!来週の月曜日に、こよみんは告白されるんだよ。こよみんはクールでカッコイイって評判なんだよ?ただでさえ優しいこよみんは、そんな女の子の愛をどーやって断るのかな-?だからと言ってOKしちゃった日には………私まだこよみんに死んで欲しくない!」
「何で僕が付き合ったその日に死ぬんだよ!?」僕は血に飢えた獣か……
「お母さんが言ってたよ!男は皆狼さんだって!」時雨は心配そうに僕を見つめる。
確かに……考えてみるとそれはまずい。至極まずい。適当な理由をつけて断れば学校での僕の評価は、だだ下がりだろう……
いくら女子と触れ合えない体質だからと言って、それのせいでクラスでボッチに甘んじるなんてあり得ない!!
まぁ現状二人ボッチなんだが…
だからと言って彼女の言うように気安く付き合えば僕の身が持たないだろう………
「これはね!こよみんだけの問題じゃないんだよ?自慢じゃないけど、私ももう4人から告白されてるんだよ?狼さん4匹ごあんなーい!だよ?」…
何をどう思って自慢じゃないと思ったのか。まず『わたしも』って僕はまだ告白なんてされていない。される予定ではあるらしいが…
「こよみんは小さいときからのお友達だしね!私にもし変なことしようとしても止められそうだし♪」確かに……小さいときから僕を。僕の病気を知る彼女なら。どーすればどう僕の症状が出るか心得ているだろう……
「でも……だからって付きあうって言うのは……」僕が言葉を濁す。
「こよみん!?しつこいよ?年貢の納め時だよ?見苦しいにも程があるってものだよ?女の子がこーんなに、こよみんのためを思って言ってくれてるのに!それを良しとしないのは男として……人として…どーなのかなー?」
本当に僕のためだけなのかは些か怪しいものだが……
僕は渋々提案を受け入れることにした。いや。渋々受け入れるふりをした。ここで僕が大手を振って喜んで、僕まで狼さん認定されると困るから!学校でも人気の美少女と付き合えるのだ!!喜ばない男子が居るならここに呼んできて貰いたい。
僕が直々に、マンツーマンで朝まで生討論して論破してやりたい。
といってもあくまで付き合うというのは、お互いの身のためであり、僕は死なないため。彼女は狼さんに襲われないため。同盟のようなものであり、いわば恋人ごっこである。
「じゃぁね!!こよみん♪ん?ダーリン♪のほうが良かったかな-?」時雨は笑う。
「いやダーリンは止めて下さい。体に悪いので…」病気の性だろうか?先程から動悸が止まらない………よく見ると本当に可愛いからなぁ…4人から告白されるのも無理はないのだろう。
まぁまだ学校が始まって四日なのだから、出会って四日で告白してくる奴なんてウェイウェイボーイ達なのだろうが…
ん?まてよ?それならば来週僕に告白してくる女の子もそっち系統の人なのだろうか?
困るなぁ。偏見かもしれないが、そっち系の女の人って、やっぱり肉食系じゃん?
最早ウェイ系=肉食系じゃん?
もし付き合っちゃったりなんてしたら、本当に付き合った次の日が、僕のお通夜なんてこともあり得る話だろう。
そんなことを考えながら時雨を見送り、スマホを取り出し時貞に申し訳ないが、今日はいけなくなったという内容のメールを送る。
そして一人、誰も居なくなった校舎を後に、校門をくぐって帰路につく。
さすがに大変な経緯があったとはいえ、学校でも名高い美少女と付き合うことになったのだ。本当は今すぐ時貞に話し、自慢をしたいところなのだが、時貞とはまだ出会って4日であり、奇病のことを話すのは憚られた。
まぁそのうち話す時が来るだろう。いや。僕が考えすぎなだけで案外、彼はすんなりと受け入れてくれるかもしれない。
さっきも言ったが、彼は情に厚そうだし、まわりにその秘密をバラすとも思えない。早いうちに言っておいて損はないだろう……
ただ今じゃない!今はこの自慢したくても出来ないという。実は学校でも有名な美少女と付き合っているという背徳感からくる高揚を一人楽しみたいのだ。
ただこの恋人ごっこの効力を発揮させようと思えば、付き合っていることを公言しないといけない。
だから月曜になったらもうこの高揚は味わえないのだ。
一日だけ。いや、放課後からなので半日だけ。日本人は儚いものに心惹かれると前にテレビでやっていた気がするが、そう言う仮説があるなら僕は完全な日本人なのだろう。
入学初日から僕の目を奪い続けていた桜さえも見えないほどに。
ふと我にかえったときに、肩にのっていた桜の花びらを払いながらそんなことを考えていた。