第7話マルー
薄暗い空間で目を覚ました。 辺りを見回すと目の前に大きな赤い竜がこちらを見下ろしている。
「汝は何を求める?」
竜はそう尋ねた。
俺は竜の姿に目を奪われる。
大きいけどどこか繊細で儚くて、とにかく綺麗だ。
「答えぬか」
「特に何も求めてないです」
「力を求めない? 珍しいな、ならお前は何を求める」
「しいて言うなら好きな人達との安全と平和ですかね」
「はっはっはっは」
竜は高らかに笑っている。
「お前のその望みは大きな力が必要だと言う事を覚えて置いた方が良いぞ。
この世には本当の不条理や理不尽が存在するからな」
竜の言葉を聞くとまた眠くなり意識が遠のいていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ねぇ起きてよ! 起きてってば! リュウ!」
目を開けると目の前にはミラが居た疲れているのかひどい顔だな。
どうやら今度はしっかりと起きれたみたいだ。
ミラは俺が起きた瞬間に思い切り抱きしめてきた。
「お、おはようミラ」
「おはようじゃないよ、3日も寝てたんだよ、私が力試しみたいな事したから本当にごめんなさい」
ミラの声は少し震えていた、髪に目をやるとあんなに綺麗だった髪はボサボサになっている。
「俺は大丈夫だよ、ミラのせいじゃないから気にするなよ」
「そうです。 私の判断ミスです。 リュウはまだあの力を使うべきではなかった、使わせてしまった私のミスです」
「いや、ナービのせいでもないさ」
「ですが」
「良いって、ナービも俺を勝たせようとしてくれだだけだろ? それにいずれ慣れないといけない力だし」
「そうですか」
ミラはまだ俺に力いっぱい抱きついている。
ボサボサになった髪を撫でようかと思ったが、寸前の所でやめて肩に手を置いた。
「すごい疲れてるみたいだよ? 俺はいっぱい寝たから、ベッドで寝てれば? でもあの、俺の後に寝るのが嫌だって言うならシーツとか裏返すし」
俺がベッドに目をやるとミラはもうぐっすりと寝息を立てて寝ていた。
相当疲れてたんだな、ありがとうミラ。
ドアがゆっくりと開く、昨日の男が立っていた。
「昨日は危ない所だったね、僕が居なかったらどうなっていたか、僕はマルーさすらいの剣士だよ」
昨日は竜化の影響で良く見えなかったが剣士は褐色の肌をして、身長も俺より一回り大きい。
褐色の肌はあっちの世界で言うハーフみたいな存在かな、自分で言っててあっちがどっちだがわからなくなるな、これからは俺が居た世界を現界と呼んで、この世界を異界と呼ぼう。
「あの後ミラはね、自分のせいだって酷く落ち込んで3日間つきっきりで何も食べずに看病してたんだよ、後でお礼を言うと良いよ。
「ああ、分かってるよ。 マルーもありがとう、マルーが居なかったらミラを殺してしまっていたかもしれない」
「いえいえ、ちょうどあの森に入ってて良かったよ、後1つ忠告しておくけど、あの力はもう使わない方が良い」
「分かってるさ、俺もナービもよーく分かってる。 極力使わないようにするよ」
「それなら良いんだ、その人に見合っていない力は身を滅ぼすからね」
「そういえば、森を抜けたと言っていたけど、何か変わった物を見なかった?」
「うーん…………そういえばこの森の奥に大きな大木があってね、中が空洞になってるみたいで何かが居そうな気配がしたよ」
「そうか、それが俺とミラが探している。 大狐の寝床かもしれない、場所は分かるか?」
「なんとなくなら覚えてる」
「じゃあミラが何日か休んだらそこへ案内してくれ」
「その大狐を倒そうとしてるの?」
「うん、村に最近狐が襲いに来るようになってね、それでミラと俺は狐達のボスを探しているんだ」
「じゃあ僕も行くよ、君達だけだと危なっかしいからね」
「ありがとう。 力強いよ、ミラも喜ぶよ」
「どういたしまして」
このマルーという男素性はまだ分からないが悪いやつではなさそうだ。
俺はベッドに座ってミラの手を握り彼女の寝顔を眺めた。