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「謹慎させられてるんだ。ランスロットが。俺は相棒だから巻き添え」

 朝は少し遅めに出立した。やはりランスロットが数歩先を行く。現在は王都へ続く林の中を歩いている。簡素ではあるが道がきちんと作られているので迷う心配がない。

 この調子で行くと、今日の夜は王都との境の街で休み、明日には目的地にたどり着けそうだ。

 どうしてここまで秘密裏に行動しているのか、ダフネがセシルに尋ねるとそう答えが返ってきた。


「ちょっとした策略に嵌まっちゃってね」

「セシル」

 ランスロットが珍しく振り向いて、咎めるような声を出す。

「ダフネさんには話しておいた方が良いと思うよ。王都に入ったら嫌でも耳に入ってしまうだろうから」

 少し話が長くなると、3人は大樹の根本に座った。




 国王、ゴットフリートは数年前からひとりの女性に夢中になっている。それはダフネでも知っている有名な話だ。独身なので問題はないが、それまでは賢王として名高かったというのに現在は見る影もなく、国も僅かだが荒れ始めている。


 王を掻き乱す寵妃、カサンドラは妖艶で奔放。目のやり場に困るようなドレスを纏って幾人もの男性をはべらかし、王都で飲み歩く姿も目撃されているが、王は許容していた。まだ籍を入れていないので仕方ない側面もあったのだろう。

 しかし彼女の興味が近衛であるランスロットに向けられると、王は嫉妬に狂った。


 王族のゴットフリートと、貴族であるセシルとランスロットの3人は年齢が近いこともあり、兄弟のように育った幼馴染だ。セシルとランスロットは聡明なゴットフリートを尊敬し、将来は近衛となって仕えることを誓っていた。

 わずか25歳で即位したゴットフリートだが、その手腕は見事だった。まるで未来が見えているのではないかと国民たちは噂したほどだ。

 若く賢明な王のために力を振るえることはランスロットとセシルにとって誇りだった。


 ゴットフリートがカサンドラに入れあげるあまり(まつりごと)が疎かになって数年経つ。国は何とか持ちこたえていたが人心は王から離れつつあった。それでもふたりは、いつか元の賢王に戻ってくれると信じていた。


 それが数ヶ月前に事態が急変する。カサンドラがランスロットに言い寄り始めたのだ。彼は素気なく接していたが、寵妃は自身に興味を示さない美しい近衛の存在がおもしろくなかったらしい。


 そしてついに1週間前の夜のこと。カサンドラがランスロットの寝所に侵入してきた。薄ら笑いを浮かべて突然自らドレスを脱ぐと、半裸になってランスロットに襲われたと廊下に飛び出した。

 彼女の計略だと訴えたが、王の心には届かなかった。

 この事件は王都に知れ渡り、ランスロットは現在謹慎中なのだと言う。すぐさま処刑されなかったのは王のせめてもの温情のようだ。




「その名の通り不義密通の騎士だ、なんて噂されちゃって。お陰で王都では歩きづらいのなんのって」

 セシルは大きくため息をついて肩を落とす。ランスロットと言う名前は、とある物語で王の妃と密通する騎士と同じなのだ。

「こっちのランスロットはそんなヤツじゃないって、すぐ分かるのにね」

 背筋を伸ばすと、ダフネに優しく微笑んだ。

 確かにランスロットは言葉足らずのところはあるが、最初の印象ほど悪い人ではない。強くて麗しい騎士だ。ダフネはそう思ってから、私にはフレデリクがいるのに何を考えているのだと身悶えする。


「それで、私は王様を治すために呼ばれたんですか?この力に人の心を治すことは……」

「違う。お前の力を求めているのは」

「私、お前じゃなくって、ダフネっていう名前があるんですけど」

 ランスロットに対してはつい刺々しい口調になってしまう。

「すまない。人の名を覚えるのは苦手で、つい」

 素直に謝られるとダフネは拍子抜けしてしまう。美貌の近衛は、頼みごとをした相手の名前ぐらい覚えなくては失礼だと反省し、ダフネの名を何度も口の中で呟いた。その内に何か思い当たったようで、ポンと膝を打つ。


「ダフネ……。月桂樹(ダフネ)、か。勝利者の冠だな。良い名だ」

 あまりの誉められっぷりに、ダフネは耳まで真っ赤に染まる。その上、ランスロットの極上の微笑み。ときめかないと言ったら嘘だ。

「あのね、ランスロット!そんなだから、女の子たちは勘違いしちゃうの!」

 ぽかりと杖の先でセシルに頭を叩かれたランスロットは納得していない表情でそこをさする。ダフネはバクバクと鳴っている心臓を落ち着かせようと胸を押さえて俯いた。


「その力を必要としているのは、ラプラスだ」

「ラプラス?」

 ダフネのおうむ返しにランスロットは大きく頷く。

「城の奥にいる。俺もセシルも知らなかった。俺たちはずっと一緒にいたのに、ゴットフリートのことを何も知らなかった……。あれは……未来を予言する魔物だ」

 ランスロットの蒼玉のような瞳が遠くを見つめる。


「国王はずっと、ラプラスを使って未来を『見ていた』」


 カサンドラがランスロットの寝所に侵入した際、部屋の隅に装飾品の石をひとつと思われるものを落としていた。謹慎が決まってからそれに気がついたのだが、近づくとダイヤモンドのように見えた。

 高価なものなのでさすがに返さなければとつまみ上げると、発光し、声が直接脳に届き始めた。幼い女の子のようだ。


 導かれるままに、ランスロットは城を彷徨した。そしてこれまで来たことのない、城の奥深くにたどり着いた。だがこれ以上は進めそうにない。

『ひとつだけ、少し色の違う石があるので、それを押してください』

 教えられた通りに、ちょうど目の高さにあった少しだけ色の違う石を押してみる。するとふっと正面の石壁が消えた。驚きながら先に進むと、暗闇の中でぼんやりと白い光が見える。


『来てくださりありがとうございます、ランスロット』

 口は動いていない。話しているのではなく、直接脳に語りかけている。

『私はラプラスと呼ばれる者』

 紅の瞳。それ以外は髪も肌も雪のように白い。身につけているドレスも白かった。可愛らしい幼い女の子に見えるが、背に小さな黒い翼が生えている。

『ゴットフリートの(つがい)です』

 鎖に繋がれた彼女はそう伝えてきた。

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