プロローグ
ここは始まりの街より徒歩三分ほどの場所
一人の若者がスライムと戦闘を繰り広げていた。
「うおーーーっ 究極魔法 【ファイアーエンド】!!」
スライムは刹那の如く塵と化し、死灰となってしまった。
俺の名はエルト 街の者からは白眼視されているがこれでも勇者だ。
魔王討伐を王様から依頼された俺だったが臆病な性格故に始まり街から一歩も進もうとせず既に三年も根城にしている。
街の奴らは「はよ倒しに行け」だの「腰抜け勇者」などと好き勝手に言うが俺は絶対に死にたくない!!この場で99レベルになってから進もうと心に決めているのだ。
とは言え、スライムのみを狩り続けるのはかなり単調な作業でいくらなんでも飽きてくる。
レベルは73に到達していた俺だったが、先のことを思うとため息をつかずにいられなかった。
「はあ……スライムの経験値、貧しすぎだろ……」
ため息の反動で顔が下を向き、ふと目をやると先ほど倒したスライムの死灰から虹色の宝石が煌き光っているのが見えた。
「ん? なんだこれ? スライムは薬草しか落とさなかったはずなんだが」
死灰を手で払い、拾い上げ所持アイテム一覧を確認する。
【奇人の証】
スライムのみを十万匹、討伐することで入手可能。
使用者のレベル HP MP 力 魔力 敏捷 体力 を全てカンストする。
特技 魔法は全てリセットされるがSPの上限は外され時間で増加する。
ランダムで一つのステータスを∞にする。
※容姿が大幅に変化するので使用の際はご注意下さい。
「奇人の証……つまり変態の証ってことか!? ちょっと傷つくな……まあスライム十万匹も倒すアホなんて普通いないからな……」
ここにそのアホは存在し実際手に入れてしまったのだから全く世の中恐ろしいものだ。
レベリング作業に終止符を打つ為、早速使ってみた。
「おっ!? 光ってる! 俺、光ってるよ!?」
身体を眩い光が纏い包み込むと、妙にハイテンションになる、はしゃいでいると全身に変化が現れ始めた。
元がチビだったので然程デカくはならなかったが一回り大きくなり力が溢れ出るオーラを感じた。
うまくいった様子に軽く拳を握り妙なテンションのままステータスを確認する。
【ステータス】
レベル 99
HP ∞
MP カンスト
力 カンスト
魔力 カンスト
敏捷 カンスト
体力 カンスト
「あるぇー!? HPが無限になったって事は俺、無敵じゃね!? さっさと魔王倒して王様から報酬もらっちゃお!!」
ハイテンションで狂喜乱舞していた俺だがそう都合の良い事ばかりではない、すぐに現実をみる派目になる。
特技 魔法 取得なし 所持SP 3ポイント
……心に真冬が到来したかの如く冷めきった俺は、ひとまず初級魔法【ファイアー】を取得し僅かに、心を温めるのであった。
斯くしてエルトの魔王討伐は三年の時を得てようやく動き始めたのである――