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季節のスノードーム

作者:

これは、私のお婆ちゃんから聞いた、あるスノードームの伝説__





昔、昔とある小さな国の、城の裏の森の奥、湖の真ん中に、『季節の搭』という真っ白な搭がありました。その搭は、春、夏、秋、冬を司る四人の女王が順番に交替することで、この国に季節が廻っていくのでした。


―しかし―

冬の女王と春の女王がついに交替する日、なぜか冬の女王がいつまでも搭から出てきませんでした。あろうことか、春の女王も行方不明となってしまいました。

「今日は交替の日だというのに、女王様はなにをしているんだ」

「春の女王はどこにいるんだ!」

「冬の女王様、搭から出てきて下さい!」

春の女王を探しても見つからず、ましてや春の女王に続いて、夏の女王、秋の女王も、行方がわからなくなってしまいました。国中を探すと、女王が身に付けていたものが落ちていました。王様が、搭から出てこない冬の女王を説得しようとしても、女王からの返事はありません。部屋から冬の女王から全く返事がないのを怪しく思った国民は、扉を壊すことにしました。国一番の力持ちの大男が、大きなハンマーでぶち壊し、部屋に入ってみると、なんとそこには誰もいませんでした。そこにあったものは、冬の女王が着ていた銀色の美しいドレス、頭につけていた銀色のティアラだけ。それを聞いた国民は、国中大騒ぎ。

「これじゃあ冬が終わらない!春がこないぞ!」

「このままでは食べ物が尽きてしまう……!」

「一体女王様達はどこにいってしまわれたのだ……」

国民はいろいろな場所を探しました。けれども、国中どこを探しても女王達は見つかりませんでした。


国民が困り果てていたとき、一人の老婆がこの国にやって来ました。その老婆は、どうやら旅の途中で、この国に立ち寄ったようでした。

「すまんな。婆さん。せっかく来てくれたのに、もうこの国には食べ物がなくておもてなしも出来ないんだ……ずっと冬が続いていてな。もうなにも採れないんだ……」

一人の若者がそう伝えると、老婆は目を閉じて言いました。

「あぁ、それなら知っているよ。私の母さんは昔ここに住んでいたんだ。女王様が皆消えちまったんだろう?大丈夫さ、もう少ししたら帰って来るよ。国の隅々を探しなさい。それと、子供用の服も準備しといた方がいいねぇ」

国民は老婆がなにを言っているのかわかりませんでした。ですが、嘘だとは思えず、王様にこのことを話ました。

「ほう、そうか。よし、国民に伝えよ!『国中の隅から隅まで女王を探せよ!女王を見つけたものには、なんでも願いを叶えてやる』と!」

王様が下したお触れは国中に広がり、国民達は女王を探し、国中あちこちを探し始めました。


ある日の朝、一人の農民の少年が、牛小屋に素っ裸の女の子が藁の上で眠っているのを見つけました。その子の髪は見たことのある桃のような薄いピンク色でした。不思議に思った農民は、まずはその子を家に連れていき、服を着させ、食べ物を与えた後に王様のもとへ連れて行きまた。

春の女王は、王様の前で姿勢を正してイスに座りました。

王様は一目見て、その少女が春の女王だということに気付きました。

「貴女は春の女王ですね?」

王様は問いかけました。その問いに女王であろう少女は

「はい。確かに、私は春の女王です」

と、きっぱり言いました。

「なぜ、いきなり消えてしまったのですか?心配しましたぞ?」

王様はまた問いかけました。

「私達は、歳をとらずに老いていくのです。そして、百年に一度、生まれ変わるのです。まるで不死鳥のように。それがあの日だったのです。みなさんになにも話していなくてごめんなさい。でも、きっと他の女王にも、もうすぐ会うことができますよ」

女王はそう言うと、安心させるかのようにふわっと笑って見せました。その笑顔に、偽りの影はありませんでした。


春の女王が帰ってきて一週間後、森の中では、秋の女王であろう茶色い髪の少女が、砂浜では、夏の女王であろう青色の髪の少女が国民達により発見されました。けれどもそれから一週間が過ぎても、冬の女王は見つけられませんでした。結局、冬の女王を見つけられず、春の女王が搭につく日がやってきてしまいました。この国には、各女王が搭につくとき、その季節の歌を歌い、新しい季節を迎えるというきまりがありました。春の女王は搭の上から春の歌『木漏れ日の春』を歌い、国中に春を知らせました。それは、とても美しい歌声でした。まるで日向のように暖かく、花のように可憐な歌声でした。搭を中心に雪が溶けていき、溶けた場所からは美しい草花が咲いていきました。眠っていた動物たちも冬眠から目を覚まし、ふ春の女王の歌声に吸い込まれるように、搭に近寄って来ました。みるみるうちに国中が緑に包まれていくなか、突然、一人の男の叫び声が聞こえました。

「冬の女王が!!冬の女王がいたぞ!!」

「何!?どこだ!」

男の声を聞きつけ、人々は声のする方向へ駆け寄りました。見ると頭につけている白い雪と同じくらい白い髪をしている少女が、裸のまますやすやと眠っていました。

「これじゃあ風邪をひかれてしまう……誰か毛布を!」

「こんなところにいたとは……わからなかった」

「はやく王様に知らせねば!」

冬の女王を毛布にくるませ、まずは家へ戻り、服を着せてから、人々は王様のもとへ連れて行きました。


「王様!王様!冬の女王が見つかりました!」

大勢の国民の代表として、一人の女が入りました。

「おお!よくぞ見つけてくれた!どこにおったのだ?」

「はい、雪のなかに。春がきて雪が溶けたことにより、見つけることができました」

王様はその話を聞いてにこりと笑い、満足そうに

「おお、そうかそうか。みな、よくぞ見つけてくれたな。おい、みなに褒美を用意しなさい。おぉそうだ。温かいご馳走も用意しよう。女王が帰ってきたパーティーを開こう!」

と、呼び掛けました。

使用人も喜んで料理を作りました。国民の何人かが、パーティーの噂を聞きつけて、ご馳走を作るのを手伝いました。大きなケーキに、大きなピザ、ラザニアにグラタン、極上のお酒など、沢山のご馳走を用意しました。ご馳走だけでなく、城の中も美しく飾り、パーティーの準備を着々と済ませて行きました。

それから国民を城に呼び、楽しくパーティーをして過ごしました。王様は城にきた国民達に言いました。

「さぁ、みなの者よ!今日は存分に満喫してくれ!」

次に、女王達が一斉に

「いつまでも、平和に季節が廻りますように!」

と言いました。城は歓喜に包まれました。

「女王様ばんざい!」

「この国に永遠の平和あれ!」

飲んだり食べたり踊ったり、みな女王が帰ってきたことを喜びあいました。美しい春とともに……


今でも、春には桜が咲き、夏には暑くも、気持ちのいい海水浴が開かれ、秋には美味しい作物が取れて、冬にはしんしんと雪が降り積もります。

ちゃんと無事に、季節は順番に廻って来ていますね。それは、私の持っているスノードームの伝説が原因なのかもしれません。

もしかすると、まだ春、夏、秋、冬の、季節の女王と、その王国が、どこかにあるのかもしれませんね。


END

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