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『星のなる木』  作者: ゆき。
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『願いの始まり』

職場にある木を夜に見た時に、ふと星がなってると思い、そこから膨らんだ話しです。


むかしある1本の木がありました。


大きく枝の張った、しっかりした木でした。


いつからかその木は年に一度の

月と星の明かりだけで過ごせる夏の夜に星が実るようになりました。


赤、橙、黄、白のこんぺいとうのような星達が実って、ひとつ願いを込めるとその実は熟されるのです。


その星のなる木は何百年も静かに暮らしていました。


ある日のことでした。


深い深い森の中に迷い込んだ1人の青年がいました。青年は息を切らしながら、木を掻き分けて、森の中を彷徨っていました。線の細い、どこか儚げな印象の青年でした。手の甲に三日月のような形の痣がありました。青年は数人の男達に追われていました。


『あっちへ逃げたぞ。』野太い声が森の中をこだまする。木の影に隠れて、男達の追っ手をやり過ごして、

青年は一息ついた。

『はぁ。もうここまでくれば、あいつらも来ないだろう。』

青年は一息ついて、ふと視線を上げると目の前の大きな木に、黒い大きなフクロウと目が合ったような気がした。

『わぁ。びっくりさせるなよな。はぁ。心臓に悪い。』

青年は独り言をつぶやいたはずだった。

『青年よ。お前が勝手に驚いたのだ私は悪くない。』

フクロウは金色の大きな目をこちらに向けて、どこか厳かな雰囲気を漂わせて話し掛けてきた。

『えっ!なんでフクロウが話してるの?俺の目と耳おかしくなったのか??』青年が混乱していると、

黒いフクロウは少し迷惑そうに

『これ青年よ。混乱するでない。お前の目も耳も正常だ。私は途方もない時間を過ごしてきたのでな。人の言葉もいつの間にか話せるようになっていたのだ。まぁ。気にするな。ところで、青年よ。誰かに追われておるのだな?』

心の奥の何かを見通すように、フクロウは静かに語り掛けてきた。

『あぁ。お察しの通り。俺は今、街の役人達に追われている身だ。少し揉め事があってね。人生って不条理だよね。』

『どうしたのだ。青年?通りすがりのフクロウだが、聞いてやらなくもないぞ。』

『さっきから思ってたんだけど、

君ってずいぶん上から目線だよね。』

『あぁ。すまない。誰かと話すのはずいぶん久しいものでな。つい調子に乗ってしまったのだ。』

『ふーん』

『ところで、さっきの話しの続きだが、どうして街の役人達に追われてるのだ?』

『どこから話せばいいんだろう。

俺は靴職人の元で働いていたんだ。

そこの親方が優しい人でさ。身寄りの無い俺を家に置いてくれて、仕事も厳しかったけど、しっかり教えてくれてたんだ。親方には一人娘がいて、その子も親方に似てすごく優しくて暖かい人なんだ。

俺は慎ましいけど、小さな幸せに包まれて暮らしてたんだ。

だけど、ある日一人の厄介な客が店に来るようになったんだ。』

『その厄介な客とは?』

『そのお客が親方の娘さんの事を気にいってしまってね。しつこく娘さんに言い寄るようになってしまったんだ。だけど、その娘さんは俺と今年の夏に結婚する事になってたんだ。』

『その娘は、青年の婚約者なのか?』

『あぁ。婚約者だったんだ。事件が起きるまでは。厄介な客があまりにしつこいんでね。俺が話し合いで解決しようと思ってたんだが、その客に今年の夏にはあの子と俺は結婚すると伝えたら、逆上してしまって隠し持ってたナイフで俺に切り付けてきたんだ。俺は身を守る為に、あの客をナイフで刺してしまったんだ。』

『なるほど。青年は人殺しの罪で追われていたんだな。』

『そういうこと。』

『だが、お前に非は無いのではないか?』

『たしかに。俺は被害者だが、加害者でもあるから。俺のいた国では、法によって裁かれないといけないんだ。俺は罪を償おうと思ってたんだ。だけど、あの子は俺が警察に捕まるのが嫌だったんだろうね。

俺が逃げないと、自分をナイフで刺してしまうと、必死に訴えてきたんだ。俺は必死なあの子を見てたら、その子の言葉に従ってしまってたんだ。逃げた後に、気づいてしまった。あの子も犯罪者の俺を逃がしてしまった罪に問われると。俺はどうすれば、よかったんだろうな。』

『人生に迷える一人の青年よ。青年の願いを叶える事が出来るぞ。』

『え?フクロウが話す事も信じられないのに。そんな無茶な事信じられる訳ないじゃないか。』

『驚く事が多過ぎて、信じられなくても結構。だが、人生は小説よりも奇なりというではないか。

実は、私がとまってるこの木には、秘密があってな。

願いを叶える事が出来る木なのだ。』

今まではただの黒い木がなにかすごいものに青年には見えていた。

青年は必死な様子でフクロウに尋ねた。

『それはどんな願いでもなのか?』

『あぁ。もちろん。ただし、それに見合うだけの対価が必要だ。』

『俺の願いに見合う対価だと、どんなものになるんだ?』

『うむ。願いにもよるな。』

『俺の願いはただ一つ。あの厄介な客との出会いをなかったことにして欲しい。』

『あの客との出会いをなかったことにして、罪自体を消したいのだな。

『あぁ。そうだ。そうすれば、あの子も罪を償うこともないからな。』

『それは自分の罪が消えなくてもいいのか?』

『出来れば、罪をなくして欲しいが、あの子の笑顔が見れれば俺はそれでいい。』

ふっとフクロウは笑った。

『お前は相変わらずだな。』

『えっ?何て言ったんだ?』

『いや、何でもない。わかった。青年の願いは、青年と青年の婚約者と例の客との出会いをなかった事にするでよいか?』

『そうだ。俺の願いに対する対価ってなんだ?』

『それは青年と婚約者との間の恋愛感情が対価だ。』

『ということは、願いが叶った後は、あの子はもう俺の事が好きでは無くなるという事なのか?』

『あぁ。そういう事だ。青年への気持ちがすっぽり無くなってしまう事になるな。』フクロウは神妙な顔で答えた。

青年はじっと足元の土を見つめて、考え込んでいた。


『わかった。俺の願いを叶えて欲しい。』

『最後に聞くが、恋人の青年に対する気持ちは消えてしまうが、よいか?』

『あぁ。願いを叶える為だ。仕方ない。』

青年は決意するようにフクロウの目を強く見つめた。

『では、青年の願いを叶えよう。』

フクロウは息をひとつ吸い、深呼吸した。

『青年よ。この木に手を付けて、自分の願いを強く込めよ。木の実がなり、熟して地に落ちるまでだ。』


青年も深呼吸して、目の前の黒い木に手を添えた。目を閉じて、願いを込めていく。彼女と過ごした日々が走馬灯のように目を前を去っていく。

黒い木も青年の思いに応えるように、ピクリと枝を揺らす。青年の手の届く位置にぷくりと枝から木の芽が出てきて、瑞々しい葉が茂り太陽のような橙の花が開き、音も立てずに、一粒の夕陽のような艶やかな木の実がなった。


『これが俺の願いを叶えてくれる実なのか?』

『あぁ。そうだ。青年よ。その実をしっかり噛み締めて、身体に染み込ませるように、食べるのだ。そうすれば、じきに願いが叶う。』




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