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暗闇に置いてきた過去



母の浮気現場を目撃した僕は、それを父に相談した。

父は僕の頭を撫でて褒めたよ。

「良くやった」ってね。

次の日の朝、僕が目を覚ますと母は荷物と共に姿を消していた。

そして、二度と戻っては来なかった。

まあ、あのまま僕が報告しなくても、結局2人は別れただろうけど。

…それから数年は、僕と父の二人暮らしだった。

13歳、中1の頃、父が新しい母だと女を連れてきた。

その人は僕に懐いてもらおうと良い母を演じていたよ。

表向きは、とても良い家族に見えていたと思う。

僕も、少しずつではあったけど、新しい母に心を開いていた。

その頃の僕は自分で言うのもなんだけど、女性に好かれやすくてね。

…ああ、自慢じゃないよ。

寧ろ僕自身はうんざりしていたんだ。

…話を戻そう。

父が出張で3日程留守にした時、義母は夜中に僕の部屋に入ってきて、無理矢理僕とも関係を持とうとした。

…そうだよ。

彼女の付けていた香水がそれだったんだ。

勿論、僕は彼女を拒絶した。

「何するんだ」って突き飛ばして、部屋に鍵をかけて情けなく一晩中ベッドの中でガタガタ震えてた。

だけどあの女の本性はそれだけじゃなかった。

出張から帰っていた父に泣き付いたんだ。

僕が義母を襲うとしたと、嘘の話をしてね。

そこまでは何となく予想はしてたよ。

いつだって、女は嘘と涙で出来ているから。

僕にとって問題だったのは、父の方。

馬鹿な事に、すっかり義母の言葉を真に受けちゃったんだ。

少し考えれば分かる事なんだけどね。

父は嫉妬に狂い、実の息子である僕に包丁を向けた。

「お前なんか生まれて来なければ良かったのに」。

父は、あの人はそう言ったんだ。

父親に殺されかけた僕は家から逃げ出して、唯一信頼出来る父親の弟…僕にとっては叔父になるんだけど、その人の家で暮らす事になった。

それが、15歳、中3の時だ。

その頃からかな。

僕はあまり他人と関わらなくなった。

叔父はそんな僕を見て悲しそうにしていたけれど。

…そんな叔父も一昨年の3月、僕の高校卒業の前日に亡くなった。

元々身体が弱くて、病気がちだったらしい。

あっさりと逝ってしまったよ。

叔父の遺産と元両親からの手切れ金で何とか生活出来ているけど、僕の心は完全に死んでしまった。

血の繋がった肉親も、僕と関わろうとする他人も、もう僕には必要ない。

だって、僕には何も感じられないから。

…思い出したよ。

家では見せなかった母の楽しそうな笑顔。

僕に跨る義母の下品な臭い。

狂気に満ちた父の瞳。

…叔父の寂しそうな声。

全て忘れられれば良いんだけど、この分じゃまだ時間はかかりそうだ。




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