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変わらぬもの


「どうして、そんな酷い事を言われて、それでも僕を探したの」



彼女の話には、覚えがあった。

あの頃から人が嫌いだった僕は、オロオロする隣の女子が鬱陶しくて、それが静かになるならと、ペンを机に向かって放った。

叔父さんが滑り止めくらいは受けなさいと言うから受けただけの学校に行く気はなくて。

結局別の高校に進学したけれど、そこにはいない僕を彼女はずっと探してたという。

ペンを返すためだけではないだろう。



「…あの日の君がとても冷たくて、少しだけ寂しそうな目をしていたから。

その目がどうしても気になって、怒る事も忘れちゃったんだ。

でも君と再会して、君という人を知って、君の心を知って、私は確信した。

君はとても優しくて、誰よりも素敵な人なんだって」

「…僕が優しいなんておかしな事を言うんだね」

「君は優しいよ。

本当に冷たいなら、あの日絶対に私にペンなんか貸してくれなかった。

自分の事を幽霊だーなんて言う変な女の話に付き合ったりも、きっとしなかったよ」



叔父さん以来だった、こんな変な人に会うのは。

だけどそれ以上に、彼女が愛おしいと思った。



「いくつもの嘘をついた私だけど、そんな事をしちゃうくらいには君の事が好きだよ」



嘘を重ねたのは、僕だって同じだ。

君を好きだと叫ぶ自分の心にまで、僕は嘘をついた。



「君はこんな私の事、嫌い?」

「僕は…」

「おーっす。

盛り上がってるかー?」



…何故彼が…。



「…ってあれ、何か俺邪魔しちゃった感じ?

もっかい出て行った方が良い?」

「君は空気を読むという事を覚えた方が良いよ」

「お前にだけは言われたくねぇよ!?」



ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼にため息を1つ。

まあ、彼にも聞きたい事はいくつかある。



「許してあげるよ」

「ねぇ何でお前上から目線?

一応俺今回頑張ったんだけど?」

「それなんだけど、君は何故こんな事を?

それに、君と彼女の関係もまだ聞いてない」

「あー……やっぱ思い出さねぇか…

だよなー、もう10年近く前の話だし」



彼が寂しそうな顔で苦笑する。

10年前…?

僕はまだ小学生だ。

…いや、ちょっと待て。

確か小学3年生の頃、家の都合で転校していった男の子がいた。

僕はその子と仲が良くて、最後に会った時「また会おう」と約束して…



「僕と君は、以前友人だった…?」

「…大学に入って、お前を見付けて驚いたよ。

まさか同じ大学で同じ学部だったなんてな。

性格も違うし、俺が話しかけても無視するし。

最初は何だよって思った。

俺の事簡単に忘れやがってって。

でもさ、コイツと同じで放っとけなかったんだよ。

大学入ってすぐのお前、今にも死にそうな顔してたからさ。

で、今年に入ってコイツの相談受けてたら、相手がどうもお前っぽくてな。

色々手を貸してやったんだよ、俺の親友と従妹のために」

「従兄妹…?」

「俺の父親がコイツの父親の兄貴なんだ。

だから、お前が心配するような事はねぇから、気にすんな」

「ああ、道理で似ていると思ったよ。

君たち2人の笑顔はまるで太陽のようだから」

「…さらっと恥ずかしい事言うところは全然昔と変わってねぇのな…」



半眼になりながら彼が言う。

自分では特に気付かなかったが、彼が言うならそうなのだろうか。



「――――話は一段落ついたかい?」



店主がお盆に湯気のたつお茶を乗せて戻って来た。

4つある、という事はこの人もまた僕たちの会話を聞いていたんだろう。



「…ああ、しまった。

お茶菓子を持って来るのを忘れてしまった。

悪いがお前たち、台所にあるから取って来てくれないか」

「はいはい。

ほら、行くよ」

「おー」



店主の孫2人は大人しく店主の言葉に従った。

今まで常識のある普通の老人かと思っていたが、流石あの2人の祖父。

中々食えない人だ。

彼らには聞かせたくない話、という訳か。





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