シンデレラ(偽)
勢いに任せてやった
反省はしてるが、後悔はしてない
とある国の町はずれに一つの家が建っていました。そこに住んでいるのは……
「シンデレラ!掃除もまともにできないの?」
妹に対してどこまでも高飛車な長女と……
「お姉さまの言う通りだわ!」
長女に便乗して妹に非難を浴びせる次女と……
「す、すみません。お姉さま」
二人の姉に責められ怯えきっている三女
この三人がこの家に住んでいます。彼女たちの親は少し前に病に罹り他界。多額の遺産を残して逝きました。
両親が死んだその日から、三女の地獄のような日々は始まりました。
彼女の名前はシンデレラ。とても良くできた子で母親の手伝いもよくしていたため、家事は一通り出来るし愛想もよい。顔も大層かわいらしいと町では割と評判で、両親にとって誇り高い素敵な娘に育ちました。
両親には、姉妹の中で特に可愛がられていていたため、あまり姉たちとはいい関係を築けてはいませんでしたが彼女はそれでも幸せでした。
両親が死んだその日、これからは姉妹三人で力を合わせて生きていかなければと思っていました。
しかし現実はそうもいきませんでした。
両親の死んだ日の夜、三人は家にいました。シンデレラはこれからどうするのかを相談するためだと思っていました。
「あの、お姉さま?これからどうするんですか?」
「どうするって何が?家事はこれからあなた一人でやっていくのよ?他に決めることなんてあったかしら?」
「……え?」
「ああ、もしかしたら遺産の話かもしれませんわよ」
「遺産に関してなら心配いらないわ。私たちで管理するから」
「ふふっ、そうゆうことだから。あとはよろしく、シンデレラ」
そういって自分の部屋に帰っていく二人の姉。シンデレラは何かを言う暇すらなくただ呆然とするだけでした。
そこからの日々はつらいものでした。
毎日姉たちに召使いのように扱われ、少しでも失敗をすれば理不尽な暴力を彼女が襲っいました。抵抗しようものならその日は何も食すことを許されないのです。服もろくなものが与えられず、いつも彼女は縫い目丸出しのボロボロな服を着ていました。
彼女は毎晩、おまえの部屋だといっておしこめられた狭い屋根裏部屋で彼女は毎日涙を流すのです。
昔を懐かしみ、今と比べ、これからを考える。そしていつも思うのは……
「もう逃げたい、誰か私を助けて……。」
逃げたい。いますぐにでも。ここから……いや、あの鬼のような姉たちから逃げ出したい。
だがそうもいかないのが現実でした。たしかにここから逃げ出すのは可能でしょう。大抵あの人たちは遊びに出かけていて、家にはいません。チャンスはいくらでもあるのです。
しかし問題はその先にありました。住む場所がない、お金もない。見た目もボロボロなので周りの目も厳しくなるでしょう。それにこれでも自分は女性だ。襲われないとも限りません。
「我慢しなくちゃ……」
シンデレラはこの先を生きていくためにも、少しずつばれない程度にお金を貯めているのです。買い物の際に渡される食費から余ったお金を少しだけ自分のにしているのです。
しかしその金額はあまりにも微弱だ。その程度の金だと何年かかるかわかりません。それでもいつか自由になれる日を夢にみて、シンデレラは日々を一生懸命に生きました。
そんな中街ではある噂が流れていました
『あの森には凄まじい力をもった魔法使いが住んでいる』
そんな噂が立っている森の中に必死に毎日を生きるシンデレラの姿を影から見守る人が一人いました
「可哀そうに……私にどうにかできればよいのだが……」
森の奥深くにある家に一人の青年がいました。その青年は机に置いてあるオーブを通してシンデレラを見ていました。
彼は例の噂の魔法使いでした。彼は毎日姉たちの卑劣な仕打ちを受ける彼女を見て、哀れに思いました。そして助けてあげたいと。
そして何より彼はその一生懸命な姿に恋していました。
「しかし、私の魔法をかけても一晩程度しか続かない。それでは彼女は暮らしてはいけない」
彼と一緒に暮らすと言う方法もあるが見知らぬ男とは彼女も嫌がるでしょう
「どうにかできないだろうか……そういえばもうそろそろ舞踏会があるんだったか……」
うまくいけば彼女はそのまま王子に見初められ王族の一員になる。そうなればあんな生活からは逃れることができる。そう考えた魔法使いは、計画を練り準備を進めていきました。
彼は自分の恋心を犠牲にしてでも彼女を助けたかった。それほどまでに愛していたのです。
そして舞踏会の開催日になりました
姉達も当然参加するらしく、化粧もドレスもいつもの三割ましです。
「それじゃシンデレラ、ちゃんと掃除や洗濯してるのよ。晩御飯はいらないから。・・・私達と一緒に来てもいいんですよ?」
「あらお姉様、舞踏会の参加するには相応の格好をしなければいけないですのよ?シンデレラがドレスを持ってるわけがないじゃありませんか」
「あはは、そうでしたわね。ごめんなさい、すっかり忘れてましたわ」
「お姉様、もうそろそろし行きませんと遅れてしまいますわよ」
「そうね。じゃいってくるわ」
「……はい、いってらっしゃいませ」
姉達のあからさまな皮肉に泣きそうになりながらも見送ったシンデレラは今日も仕事に取り掛かります。
「舞踏会か~楽しそうだなぁ」
「……舞踏会に行きたいですか?」
「え?」
後ろへ振り向けばそこには灰色のローブを着た青年が立っていました。
「あなたは……誰?」
「私は森の魔法使いです。あなたの願いを叶えるためにやってきました」
「魔法……使い?それに願いをかなえるって……」
突然現れてきた男、それも魔法使いと名乗る彼は正直とても怪しい。しかしそれ以上に彼女には気になる所が有った。
「私の願いを叶えてくれるの?」
「ええ、私はそのために此処に来たのですから」
「ほんとに?本当に叶えてくれるの?」
「ええ、あなたの努力次第ですけどね」
魔法使いが手に持っていた木の杖をフッと振るうと、そこにはカボチャをモチーフにした馬車が現れました
「いいですか?あなたにはこれからこの馬車に乗って舞踏会に出席してもらいます」
「舞踏会に?しかし舞踏会にこんな恰好じゃ……」
「心配する必要はありませんよ」
魔法使いが再び杖を振るうと、たちまちシンデレラは白い霧に包まれてしまいました。
「きゃっ!?な、なんですかこれ!?」
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」
霧が晴れるとそこには、青色と白色の豪華なドレスを身に纏ったシンデレラがいました
「綺麗なドレス……」
「とても似合っていますよ。これなら街中の男達が黙っていられませんね」
「そ、そんなことないですよ!?私なんか全然……」
「そんな、謙遜なさらずに」
顔を真っ赤にしながら照れているシンデレラをもうしばらく見ていたかった魔法使いでしたが、時間もあまりないのでコホンと咳払いをし気を取り直し話の続きを喋り始めました
「話を戻します。その舞踏会にはもちろん王子も参加しています。どうにかして王子と親しくなりそのままゴールしちゃってください」
「ゴールって一体……?」
「いうなれば既成事実を作ってください」
「き、きき既成事実!?」
「大丈夫、きっとあなたなら王子をたぶらかすことができます」
「たぶらかすって……」
「ともかく!そうなればあなたは王族の一員になれる、こんな生活とはおさらばできます」
「そ、そんなこと……」
「どうしても不安なのでしたら」
魔法使いは懐から一つのビンを取り出し、それをシンデレラに渡しました
「それを王子の前で開けてください。きっとあなたの助けになってくれるでしょう」
「いったい何が中に……?」
そろそろ行かなければいけない時間になってきました。なのでシンデレラが馬車に乗り込もうとした時です。シンデレラはその歩みを止めて魔法使いのほうへ向きました
「あの、魔法使いさんは舞踏会にでないのですか?」
「私はいけません。私は森の魔法使い、森から出ることは許されないのです」
そう、彼は魔法の力を手に入れることの代償としてこの地にとどまらなくてはならないのです。彼は無理に作った笑顔を彼女に向けました。
そんな彼を見てシンデレラは決心しました
「……私、やっぱり舞踏会にはいかないです」
「そ、そんなっ!?……逃げたくはないのですか?あなたの願いはこんなひどい生活から逃げることではなかったのですか?」
「逃げたいですよ。ですから魔法使いさん、もし本当に私の願いをかなえてくれるのなら」
見知らぬ王子にすべてをささげて王族という枠組みの中で窮屈に暮らすよりも彼女は……
「あたしをこの地獄から連れ去ってほしい。あなたのその手で直接助けてほしいんです」
唯一救いの手を差し伸べてくれた優しき孤独な魔法使いと一緒にいることを決めたのです。
「そしてあなたが私をこの地獄から解放してくれたように。あなたをその孤独から解放してあげたいです。お願いです、私にあなたを助けさせて?」
シンデレラの二つの願い
助けてほしい
助けさせてほしい
「……二つも願い事があるなんて強欲すぎますよ」
「だめですか?」
「いえ、わかりました。その願い必ずかなえて見せます。ですから今は……」
彼は手をさしだし、心から笑って言いました
「Shall we dance?(いっしょに踊りませんか?)」
誘われた彼女はその手を取りながら返事をしました
「I would love to.(喜んで)」
その日以降シンデレラの姿を見たものはいなくなりました。
街にはある噂が流れていました
『あそこの森には凄まじい力をもった魔法使いの夫婦が住んでいる』
めでたしめでたし
感想おまちしていります
できる限り参考にしていきたいです