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ルフの物語  作者: 水栽培
19/25

19 一つの時代の終わり

「ミリカが皇帝を傀儡化しようとして失敗、部下の暴走、という形をとったドリアナの陰謀によって皇帝が弑逆されました」


 大陸で動きがあったらしい。ドリアナ・ミリカ・ペカネの三国以外が滅んでからは小競り合い程度で静かなものだったのだが、いよいよ動き出したか。いつもの佐々木太郎ではなく佐々木の三郎が報告をあげてくれた。自ら潜入して情報収集をしていたそうだ。


「ほー……皇太子や他の皇位継承権持ちは?」

「ここ何代かの皇帝は夭折していて男系男子が少なく、該当者は皇太子含めて三名。ただ、皇太子以外の二名は初代皇帝の弟の血筋で正統性に欠けます」

「ほうほう」

「皇太子も危うく殺される所でしたが確保に成功しました」

「なるほど」


 確保、か。何かに使うつもりだろうか。


「皇帝は人柄は然程悪くは無いものの、暗愚。政治も社会情勢も理解しておらず、また理解する気も無かったようです。皇太子はやや能力不足の感はありますがまともです」

「なるほど。皇太子と面識はあったのか?」

「魔法使いとしてもぐりこんでいましたから、魔術寮で講義の際に知り合いまして。友人と、呼べる仲であったと思います」

「そうか。なら、ライスフィールドに家を用意しようか。それとも小世界でも作った方がいいかな」

「そうですね、小規模の小世界にでも匿って頂ければ。遠からず政治的なカードとして役に立ちましょう」

「いや、君の友人らしいからな。家族も殺されているのに政治はもういいだろう、平穏な生活をさせてやってくれ」

「ご配慮痛み入ります。しかし当人が元皇族としての責務を果たす事を望んでいます」

「国取りをするから皇帝の位に返り咲かせてやる事はできないが」

「本人もそれは承知しています。皇室は既に滅んだ、と」

「今後統治する上で余計な火種になるように思えるが」

「二代目国王の王配、というのはどうでしょう」

「あー……」


 皇統をそのまま残せるなら、支配が幾分楽にはなるだろう。タルフは男系相続だ。こちらの王族に組み込む形で、しかし皇族の男系男子がそのまま名目上の支配者の椅子に残り続ける。三代目以降を男系相続に固定するならタルフ皇室からライスフィールド王室に看板が変わっただけだと認識させられる。将来ライスフィールドが討たれタルフの世に戻すとなったとしても王家の血が絶たれる可能性を下げる事が出来る。

 侵略者、簒奪者はどうしても反乱分子に大義名分を与えてしまう。タルフの外から攻め込んで来た連中がタルフの支配者の位置に収まるというのは原住民からして気分の良いものではない。放置すれば革命の口実に使われるだろう。

 既存の支配者の血筋と新支配者の血筋を統合してしまえば、リスクを下げる事ができる。歴史に配慮して既存の支配者の男系をそのまま保存するなら反発も抑える事ができると考えられる。


「しかしライスフィールドの王族の男系の血筋はどうする。俺は別に残さないでもいいが、将来的に今の王族はライスフィールドの正統な血筋では無いなどと言い出すのがでるかもしれんぞ」

「ええ。二代目国王を両性具有にしましょう」

「またかよ」


 女性化の前例があるからもしやとは思ったが。


「しかし、たとえ両性具有でも二代の腹から産まれる以上変わらんのではないか」

「いえ、男でもある二代目国王の男子であるから二代目から三代目に正しく男系相続が行われたのだ、と名目上の問題を解決する事はできます」

「しかし二代目のY染色体は継承されない」

「ええ。その為に初代国王を不老不死にします」

「ほー……」


 血筋の正統性が云々というやつには初代国王そのものをぶつけて黙らせる、か。我が息子の正統なる裔である、とでも言えば黙るわな、建国王その人に言われれば。初代国王のY染色体は初代国王その人に守らせる、か。力技だなあ。


「……ん、そうすると俺が不老不死になるのか。無改造でいてくれというのはどうなった」

「王の立場では友人を作る事も叶わず、改造を受けられないことから記憶共有によって孤独を癒す事も出来ない。初代国王は孤独な存在です」

「俺わりと平気だけど」

「孤独なんです」

「はい」

「王の孤独を癒す為、第一種の総意で改造を容認することとした、と。そんな筋書です。そういう公式発表をして、実際に玉座に座るのは現在の陛下から分かれた複製体です。複製体が陛下に成り代わり初代国王を名乗ります」

「んー……改造するのは俺じゃなくて俺に成り代わった複製体の方、て事でいいのか」

「はい。陛下の改造が制限されるのはオリジナルだからであって、王だからではありません」

「ふむ」

「陛下以外の者が王になれば王にも魂・肉体改造を施せます。その為に、複製体を王に据えます」

「で、建国王という肩書が重要だから代替わりではなく成り代わりが必要と」

「はい」


 まあ、正直言って王という肩書は俺には重荷だったから渡りに船といったところだ。王の椅子に未練は無い。それで統治の助けになるならそうすべきだろう。


「俺は王をやめた後どうすりゃいい?」

「小世界に離宮を作って移り住まれるか、第二種複製体に紛れて一般市民として暮らすか。今出ている案はこの二つです」

「そうか。実施時期は?」

「ドリアナを滅ぼしてからですね」

「それを聞いて安心した。じゃあそれで行こう。どっちの生活をするかはまた後で決める」

「わかりました」


 ドリアナを滅ぼす。王の椅子に未練は無いと言ったが、それを達成するまでは退くわけにはいかない。どうあろうと、それだけは俺がやらねばならない。でなければ、俺は先に進む事が出来ない。

 それが達成されれば王位などどうでも良い。俺が始めた事だからとドリアナ滅亡後の統治にも責任を持つつもりだったが、能力向上の見込みが無い俺では足を引っ張ってしまう。後の事は強化された俺に任せた方が良いだろう。

生殖能力のあるY染色体卵子は存在し得るみたいなんですが、x染色体を持たないYY型はざっと調べた感じどうも生存自体難しいようです。なので、三代目の時点でどちらかのY染色体が失われるのは確実なわけでして。

そういう事情から、二代目はXX型で皇太子側のY染色体を次代に継承、初代のY染色体は別の形で残す、という形になりました。皇太子側を不老不死にするわけにもいかないので。

男系男子とは別に女系女子の系統を残してライスフィールド側はミトコンドリアDNAを継ぐとかでも良いかな、とも思ったんですが、面倒な事になりそうですしこの方がいいかな、と。三代目以降男系は元タルフ皇族、女系はライスフィールドを継いでいるときれいに別れてしまって統合した意味が無くなってしまいますし。

まー性染色体やミトコンドリアDNAの継承がそんなに重要かってのはちょっと疑問に思わないでもないですが、父親から息子にしか継承されない遺伝子だの染色体だのがあるとかいう認識が広まると一般民衆はやっぱり気にするものなんじゃないでしょうか。受け継がれてないとなると王権の正統性とかなんとか言って難癖つけられるでしょうし。

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