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ルフの物語  作者: 水栽培
18/25

18 生命

 前世の俺の名を志田和仁という。享年二十歳。持病があり運動ができない為運動能力や反射神経は劣るが、生まれ持っての体格は悪くは無く筋力はそこそこある。身長180体重65で痩せ形、足は長くも短くもない。目は良くないが眼鏡やコンタクトレンズを嫌い裸眼。顔つきや振る舞いからはマイペースな印象を受ける。性格は俺に近いが価値観に違いが見られ、生への執着が薄い。


「小世界の設定はともかく、志田君の初期状態はこれで大丈夫なのか」

「大丈夫とはどこを指しているんです?」

「死亡直後に無人の世界に放り出されて説明もなく放置ってところ」


 俺やられたら泣くかもしれん。


「森本が大丈夫って言ってますから大丈夫ですよ。神だの管理者だの造物主だのと名乗る相手が突然現れて事情説明、なんて事をやられても素直に話を信じたりしないでしょう、陛下も私も」

「ああ……そうだな、まず敵対者として認識するな」

「ええ。色々な可能性が頭に浮かんで、その中でも悪い可能性ばかり掘り下げて考えて、より良い立ち回りをしようとしてやや過剰気味に相手を警戒する。結果、マイナスの感情を持つ。このあたりの性格は前世でも変わらなかったようで」

「そういや記憶見せて貰った時そんな感じの行動してたなあ」


 人間不信気味な所は前世からか。もう治らないんだろうな、多分。


「人間不信という程のものでもありませんけどね。正常な反応の範疇です。志田様もそういう正常な反応をすると思われますので、ある程度向こうに精神的な余裕が生まれるまで待つ方が良いとの判断だそうで」

「なるほど」

「自分の目で色々と確認して大体の状況は勝手に把握するだろうとの事です。それより前にメッセージを送るのは混乱のもとだと」

「そうか、まあ森本の判断だし大丈夫だろう」


 情報を与えられすぎても混乱する、というのは確かにある。自分のペースで情報を集める方が良いのだろう。

 志田氏の脳に直接情報を書き込む手もあったが、そういう改造は基本的にはしない方が良いだろうと判断した。志田氏が寿命で死ぬまで付き合う事になるのだ、嫌われるような事はあまりしたくない。本人の許諾を得ずに記憶を操作したり心を読んだりしては今後の関係に差し障りがある。それしか手が無いのならともかく、森本が他にやりようがあるというなら別の方法を取りたい。監視については危機管理の為という事で理解が得られるだろうとの事だ。


「そろそろ予定時間か」

「そうですね。編集した映像と報告書を後で届けさせましょうか」

「初日の分はリアルタイムで見ておきたい」

「わかりました」


 さて、どうなるか。




 志田氏は初日に多少取り乱しはしたものの、以後は至って冷静に状況把握にいそしんでいる。基本的に無言であちこち歩き回っては時折実験らしき行動をしているだけなので、見ていて楽しいものではない。そもそも初日にリアルタイムで観察していたのは発案者としての義務感によるもので、俺は他人の生活を覗く事に喜びを覚える性質ではない。以後は基本的に報告書を読むだけとなった。まあ一月もすれば志田氏も情報整理を終えて落ち着くだろう。俺が関心を持っているのはそれから後の生活だ。夢が叶った志田氏は何を思うのか、次に何を望むのか。あの夢は間違ったものだったのかどうか。すぐに答えが出るものでもないから気長に待とう。




 待とう、と言っておよそ二ヵ月が経過した。志田氏はパソコンを購入してから家に籠りきりだ。変身魔法エディタで遊んでいるらしい。どうも、他人が全く居ないとそれはそれで外出する気がなくなるようだ。初期は隣町に出かけたり本屋に並べて置いた魔法書を発見して魔法を使ってみたりと結構活動的だったのだが、パソコンを買えるようにしたのがまずかったか。


「陛下、志田様の事で報告が」

「ん、何かあった?」

「志田様が人工生命を生み出しました」

「……ど、どういう事?」

「変身魔法エディタは知っていますよね」

「ああ。変身魔法の設計に使う魂殻のシミュレータだな」

「志田様がそのソフト内に人工生命を生み出しました。独立思考、自己進化、自己複製による増殖が可能ですのであれは最早生命と呼んで差し支えないかと」

「……確か志田君は普通の人間じゃ無かったか」

「ええ、無改造です」

「まだあの世界に行ってから二か月だろう?魔法に触れてからだと一月半くらい……前世の俺、結構凄かったんだなあ」

「まあ、魔法への適性が高いですし二ヵ月もあれば何かしでかすとは思いましたが。それに、我々とは違って志田様には魔法学入門がありますから」

「あー、発見済みの魔法糸いっぱい載せてる本だっけ」

「ええ。ほぼ全ての魔法糸の立体映像と魔法糸の特性に関する記述が閲覧できるようになっています。魂の構造や利用法も載っていますね」

「で、パソコンと変身魔法エディタもあり、か」

「はい。なのでこの期間で成果を出した事自体はおかしな事ではありません。ただ」

「未開拓分野?」

「はい。うちは森本が居ますから人工知能や人工生命の必要性が希薄でして、誰も深く研究していなかったようで。せいぜいが人格をエミュレートするタイプのものぐらいですね。使用者の人格コピーを一時的に発生させているだけのあれです」


 車輪の再発明ぐらいなら予想の範囲内だったが、新発明はちょっと予想外だったと。報告をあげてきたのはその為か。


「一月程家に籠ってたのは」

「話し相手を作ろうとしていたようです。一人は流石に寂しかったようですね」

「それは……気の毒な事をしてしまったというか」


 俺の前世は人間不信で孤独への耐性も強かったから、てっきり平気なものだとばかり。そもそも厄介な他人が居ない世界が志田氏の夢だったのだから、先客を配置するのは良くないだろうと思ったんだが。ばーちゃんの偽物作ったら怒るだろうしなあ。


「一応、寂しくなった時の話し相手にと森本機関の窓口をネットに作って気付くように誘導しておいたんですが」

「気付かなかったか」

「いえ、気付いたうえで無視されました」

「なぜ」

「さあ。不審に思われたのでは」

「そうか……」


 まあ、仕方ない。読心を禁止すると森本でも予測の精度は落ちる。

 人工生命か。こっちではちょっと倫理上問題があるが、まあ志田氏が責任を持つならいいか。ベースが志田氏の魂殻のコピーらしいからこっちの複製体と大差は無い。


「ちょっと人送った方がいいかな」

「いえ、もう大丈夫でしょう。大勢の友人を必要とするような性格ではないようですし」

「そう、だな。ゼロってのがまずかっただけで、一人居ればそれで充分。そういう性格だったか」

「はい」


 やはり、どうにも魔法というものは危険なもののように感じる。魔法を知ってわずか一月半。それで、人工生命を作れてしまえる。

 大陸には少なくない数の魔法使いが居る。彼らが魔法視認能力を手に入れればどうなるか。放置していて大丈夫なのだろうか。複製体を派遣して情報収集はさせているが、もう少し数を増やすべきかもしれない。

 今回登場した志田和仁は拙作「故郷に似た無人の異世界における自作人工生命との日々」の主人公です。ただ、「ルフの物語」・「故郷に似た無人の異世界における自作人工生命との日々」はどちらも単品で楽しめるように作ってありますから、「故郷に似た無人の異世界における自作人工生命との日々」を読まなくとも全く問題はありませんのでその点はご安心ください。

 「故郷に似た無人の異世界における自作人工生命との日々」は三日後の最終話投稿で完結しますので気が向いた方はお暇潰しにでもご利用下さい。

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