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ルフの物語  作者: 水栽培
16/25

16 創世

 第二種複製体達は肉体年齢十二歳で生み出され、第一種達の養子として扶育される事となった。家ごとに受ける教育が異なり、各家の子供たちは自由に交流する事を許された。また各地に学校が建てられ、そこで高等教育を受けて、卒業後進学か就職かを選べるようにするらしい。ようするに前世の高校大学をそのまま移植したようだ。中学校は無く、その役割を各家が担うらしい。


 まあ確かに、違う環境で数年過ごした子供達が高校大学といった多感な時期に出会い、共に青春時代を過ごせば、あるいは……数組のカップルが成立する事もある、のか?両方俺なのに?

 まあ遺伝子も性格もちょっと違うらしいからなんとかなるのかな。両方俺且つ男同士という障害を乗り越えてしまった前例もあるし。複製体同士でくっつけなくとも大陸に嫁探し婿探しに行ってもよさそうなものだがなあ。彼らの考える事はよくわからない。

 ああ、大陸で恋愛だの結婚だのとなると情報流出があるか、恋愛って判断力落ちるっていうし。そういうのは情報管理の仕組みきっちり整えてそれからの話だろうな。まあドリアナ滅ぼした後の話になるだろう。となると複製体同士になるのはまあ自然な流れか。

 ……いいかげん諦めよう、なるようになるさ。俺だって、自分から生まれた自分の国民たちを見て俺とは別物になったと思っていたのだ。彼等には個性が生まれた。彼らは俺のもとを巣立ったのだ。あとは見守ろう。彼らは俺よりは優秀だから、少なくとも俺よりはうまくやるだろう。




 最近新しい研究を始めた。近頃の魔法も科学も難しくてよくわからないし、研究は多分これが最後になると思う。複製体を作る前から温めていた魔法だ。当然皆もその記憶を持っているのだから知っている。俺の為に、この分野に手を付けずに残しておいてくれたのだと思う。

 最後の魔法開発だ。小世界創造魔法、頑張って作ろう。それで魔法研究は引退しよう。




 ライスフィールド歴四年、小世界創造魔法初期型が完成。ライスフィールド歴五年、小世界一号完成。稼働開始。


 俺のオリジナル魔法は結局、他人が生み出した魔法のアレンジばかりだった。基本的に回復魔法と射出魔法、あとは魔術寮の同期生が作った強化魔法失敗型と、設置型魔法。フィルター魔法もあったか。その五つの魔法を分解して組みなおしたものばかりだ。

 今回も根底にあるのは複製体達が作った物質変換魔法だが、一応はオリジナルの魔法糸を使った魔法が組み込んである。最後の最後というところで、ようやく新規魔法糸の作成に成功した。少し誇らしい。小さな事にこだわると笑われそうだが、俺にとっては大事な事だ。魔術寮の同期生が皆新しい魔法糸をほいほいと作ってしまうのに、俺にはそのコピーしかできない。それが、コンプレックスだった。新魔法をいくら作っても、一人で軍を追い返しても、それらは人からの借り物で成した事だとの思いがずっと付いて回った。

 複製体達は魂と肉体の性能が底上げされて早々に未発見の魔法糸の生成に成功しており、俺ひとりだけ置いて行かれているような気がしていた。俺は、自分をこれ以上改造する事が許されない。それが複製体達の願いだからだ。身勝手に彼らを生み出してしまった俺の、せめてもの罪滅ぼしだ。俺は人として生きて人として死んで見せなければならない。これは譲れない。


 小世界創造魔法の仕組みをざっくりと解説しよう。最初に、世界と世界の隙間、利用されていない空きスペースに繋がるゲートを開く。まずはゲートと魂核についてからいくか。

 魂核。これは魂殻の発生源で、魂の本体と目されていた何かだ。肉体から収集されたデータは魂核に格納され、しかるのちに魂殻として出力される。この魂核、その殆どがゲートだ。ゲートの外周というか縁取りが、データを収集したり魂殻を形成する役割を担っている。縁取りをゲートと分けて考えるべきかは少し難しいところだ。縁取りも含めてゲートであるとも言える。

 ゲート。生物の魂の核になっているゲートは、異世界に繋がっている。異世界から情報を吸出し、こちらの情報を異世界に送る。そういう役割を持っている。これに気付いて早々に複製体達のゲートに細工をしてこちらの情報が流れ出ないようにしたが、百六人で頑張っていた頃のデータは少々流出してしまった。異世界に百人ばかり超人が生まれてしまったかもしれない。まあどの世界に生まれようが俺は俺だから、そう酷い事はしないだろう、多分。ゲートの向こうの情報も流出先のものは監視しているし、大丈夫だろう。

 話がそれた。ゲートは異世界に繋がっている。生物のゲートは生物を形作る時にデータを必要とするからか、皆既存の異世界に繋がっている。それもこの世界や地球に環境の近い、生物が生存できるような場所に。

 最初はそういう異世界の中から人間の居ない場所を選んで改造しようかと思ったが、まあ侵略は良くないなという事でやめた。人間の魂に繋がるようなゲートの先の異世界だ。放っておけば多分人類によく似たものが誕生する。こちらの世界の人間も地球人とは体の造りが結構違うから、人間と呼べる程似た姿になるかはわからないが。

 さて、空きスペースに繋がるゲートだ。そういうものの存在を、森本が示唆した。

 異世界がある事からわかるように、世界は複数ある。それらの世界と世界の間は、世界の原料とでも呼ぶべきもので満ちている。世界という形にまとまっているものの方が少なく、世界の外側のもっと大きな枠での世界は、殆どが世界の原料で満たされている、らしい。俺にも分かるように言葉を選んで説明してくれたから、どの程度俺の理解と実態が離れているのかよくわからない。まあとにかく、この世界のすぐそばに世界の原料で満たされた空きスペースがあり、そこに繋がるゲートが存在する、との事だ。これだけわかっているのだから、森本は独力で小世界創造魔法を作れたのだと思う。譲って貰えたのは有難いような、みじめなような。まあ気にしても仕方がない。俺が作ったという事実が大事だ。

 世界の原料で満たされた空きスペース、これでは長いので空白帯と呼ぶ。また、我々の暮らす世界や異世界を世界、世界と空白帯を含む大枠での世界を大世界と仮に呼称する。この空白帯に続くゲート、生物の魂核にあるゲートとは違って基本的に閉じており、情報のやり取りが行われていない。ゲートは現象からその輪郭が確認されているだけで、活動していない、開いていない場合は観測できない。つまり開く以前に見つける事もできない。見つけてからあれこれ実験して開く方法を探すという手段がとれない。どこにあるかが解らないのだ。

 なら、見つけずに開けばいい。異世界に繋がるゲートは魂殻の情報に引き寄せられて現れ、魂核を形成する。これは複製体を作るときに確認されている。同様に、空白帯に繋がるゲートを引き寄せて開くような魂殻のようなものを用意すればいい。


 物質変換魔法はデータ書き換えの魔法である。複製魔法を応用し、物質の置き換えを素粒子レベルまで行えるように改造しようと実験を重ねる過程で物質の設計図に干渉する方法を発見した事で生まれた魔法だ。魔力で設計図を書き換えてやる事で物質が他の物質に変異する。それが物質変換魔法だ。書き換えに必要なデータは常人に扱えるデータ量ではないので基本的にはコピー&ペーストで済ます。

 その物質変換魔法を使って、世界の原料を作れないかと相談した。世界の原料は理論的には存在するとされているが観測された事がない。観測された事はないが、性質がおおよそわかっているのであれば物質変換魔法で設計図を書き換えてやれば近い物が作れる。手打ちでの書き換えが常人には不可能であっても、森本一族であれば可能だ。

 空白帯へのゲートを開こうというのだから、まずはその構成要素である世界の原料の現物を手に入れて調べる必要があると考えた。空白帯が世界の原料のみで満たされているのであれば、世界の原料そのものの性質に空白帯へのゲートを開くカギがあるのでないかと思ったのだ。

 結果、情報を完全に抜いてやる事で世界の原料の作成に成功した。


 世界の原料作成を実演してもらう前に、物質変換魔法について詳しく説明を受けた。物質の設計図とはすなわち魔力の事で、魔力自体が情報を持っているのだそうな。魔法ですらない魔力そのもの、それが情報の塊で、魔法とは物質を構成する一要素である魔力に魔力でもって働きかける技術である、との事だ。

 魔力は物質の構成要素だ。その魔力を完全に抜いてやると、当然魔力以外の構成要素が残る。それが空白帯を構成する世界の原料であったらしい。つまりは、世界の原料と魔力で世界は構成されている。


 理論上は、大世界の殆どが世界の原料で満たされているという。しかし、この世界内で世界の原料が観測された例が無い。

 世界の原料と魔力が反応してこの世界が出来た。おそらくそれがこの世界の成り立ちだ。なら、どこかに反応しきれなかったものが極微量でも残留していておかしくない。しかし、魔力を身にまとっている生物が到達できないような地中や、宇宙から来たと思われる隕石の中にも、それらは無かったと森本は言う。つまりは、世界の原料はなんらかの理由で消えた、と考えられる。


 森本が世界の原料を生み出して放置する。空白帯へのゲートが開き、世界の原料は飲まれて消えた。

 やはり、世界の原料は空白帯に引き寄せられる性質があるらしい。空白帯のみに偏って存在していると聞いた時から予想していた通りだ。

 世界の原料も空白帯へのゲートが開く様子も肉眼では確認できないが、複製体達が作った観測機器にはそれっぽい雰囲気の映像が映し出されていた。俺に見せる為にわかりやすく表示するソフトを作ったらしい。俺は普通の人間なので映像でなければ理解が難しいが、第一種複製体達は強化人間なので数字だけで理解できるのだそうな。情報の正確性を考えて、能力が充分にあるのなら元データをそのまま扱う方が良いというのが複製体達の考えらしい。

 ともあれ、空白帯へのゲートは開いた。後は、ゲートが開いている内にゲートの先の空白帯を生物の生存できる環境に作り替えてやればいい。そうすれば、そのゲートは魂核になり得る。魂核になれば、開き続ける事が出来る。

 生物の生存できる環境に作り替える。簡単な話だ、魔力を注いで物質を作ればいい。魔力は発魔機があるからいくらでもつぎ込める。間に魔法を噛ませて注ぐ魔力の内容を調節すれば望んだ物質を作れる。解決だ。


 世界の原料を望んだ通りの物質に変換する魔法を作った。これに俺のオリジナル魔法糸が組み込まれている。術者のイメージを読み取り、求められている物質に一番近い性質を持つ物質を作り出す、物質創造魔法。術者の魂核ゲートを通じて異世界の情報を取得し、そこから製造する物質の情報を検索するように作ってある。存在しない新物質を創造するのは俺には無理だったので、ちょっと名前負けしている感がある。ともあれ、これを使って空白帯を改造する。既知の情報のみではうまくいかない部分を穴埋めする為の魔法だ。


 以上が、小世界創造魔法の仕組みとなる。俺はこれを組み上げるだけで力尽きた。

 小世界内部の構造やこちらの世界への情報伝達方法は複製体達に丸投げした。丸投げした直後に詳しい解説付きの小世界内部の構造図と情報伝達手段の草案を佐々木に手渡された。もう準備し終えているのは薄々気づいていたが、こいつら、特に佐々木は性格が悪い。お前作業遅すぎるよと言わんばかりだ。

 佐々木は性格が悪い。このくらいなら俺が傷ついたりしない事も、手を出さずに見守ってくれた事を感謝している事も、見透かされている。俺が改めて礼を言おうとしたのを察して、嫌がらせによってそれを妨げて見せた。礼はいらないという彼なりの意思表示なのだろう。

 彼らは俺に優しい。その為に自分の不甲斐なさ、無力さを感じて苦しくなる事もあるが、今はそれが有難かった。

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