15 浮遊島
島に住みついて十ヶ月程経った頃、島を拡張する話が持ち上がった。そろそろ複製体の数も種類も増やして色々と社会実験などもしてみたかったという事もあり、島が手狭になったのだ。それと同時に建国しようという話も出た。
魔導具量産技術の流出によってドリアナが圧倒的な優位性を失い勢いが衰えたこともあって、大陸は未だ戦国時代のただなかにある。ミリカがスグリを吸収し、ペカネがフィカスの東半分、ドリアナがフィカスの西半分を占領した。ドリアナ南西部で城の乗っ取りが起こり新生スグリが生まれ、即座にドリアナに滅ぼされるという一幕もあった。ドリアナも一枚岩ではないとの噂も聞く。小国が消えてある程度の大きさの国だけが三国残り、三国鼎立によってどの国も積極的な軍事行動を起こし辛い情勢になっている。しばらくは硬直状態が続くだろう。
とはいえ、余程の番狂わせが無い限りドリアナが大陸を制するのはまず間違いがない。圧倒的ではないというだけで優位であるには違いないのだ。ミリカとペカネ二国を併せても、国土面積・鉱物資源・農業生産力・工業生産力・技術力・兵数……ほぼ全ての点でドリアナに劣る。その二国が同盟関係にあるとはいえ互いに牽制しあうような仲であるのだから、まあ普通に考えて勝ち目が無い。そのドリアナを滅ぼそうというのだ。滅ぼしてはいおしまいというわけにはいかない。その後の面倒を見る必要がある。その為に、ドリアナを滅ぼした後に大陸を支配する為の国の雛形を作り、国家運営の経験を積む必要がある、とそういうわけだ。
それに、魔法が怖い。魔法の持つ可能性が怖い。誰でも自由に使える現状が怖い。ちょっとした悪意で世界が壊れかねない。性格診断を必須項目とした許認可制にして、定期的に免許更新ぐらいはさせないと恐ろしすぎる。銃刀法というか危険物取扱いというか、何らかの形で規制・管理しなければ危なっかしくて仕方がない。管理するには支配者側に立つ必要がある。
魔法の恐ろしさをこれだけ知っていて、どうにかできそうな技術と勢力を持っていて、何もせずに見過ごす事は許されるのか?
会議を数日間続け、結局皆が皆持っていたそういった義務感のようなものと恐怖が決め手となり、建国が決定された。
国名をライスフィールドという。オリジナルであるルフが初代国王となった。
その年をライスフィールド元年とし、ソマ村の虐殺からちょうど二年目のその日をライスフィールド建国日とした。
島を拡張して数ヶ月後、島が浮いた。空に浮かぶ島はやはり浪漫である。特に浮かばなければならない理由は無いが、せっかくだから浮かせたいとの意見がライスフィールド新島改造会議で出て、満場一致で通った。仕組みに付いては佐々木が詳しく説明してくれたが、わからない部分がいくつかあって適当に聞き流してしまった。まあ、基本は射出魔法を重力と風に釣り合うようにかけ続けているだけですよ、とまとめてくれたからそういう事なのだろう。最近はこういう子供扱いだか年寄り扱いだかわからない扱いにも慣れつつある。自分一人だけ能力が劣っているのが明白な中、下手なプライドを持ち続けてもつらいだけだ。慣れるに限る。
島の真下の海はどうなっているのか聞いてみると、島の底に照明魔法を設置して島の天候に合わせて適切な光を照射しているらしい。島の真下が常に日陰という事はないようだ。
ライスフィールド新島は無闇に広い。将来的にもっと多くの人間を住まわせる予定があるからだが、それでも九州より広いのはいささかやり過ぎの感がある。しかし魔力も管理者の能力も有り余っていたので、小さく作る必要も無かった。物質変換魔法という新魔法が複製体達によって開発された事もあり、材料の心配もない。海水から岩石を作ったり出来る無茶な魔法だ。
せっかくだし大きくしちゃおうぜ、という事で九州の五割増しの面積の島が誕生した。国土の多くは国民の趣味を反映して山と森と水田で出来ている。ライスフィールドの名は水田から取られた。
尚、水田で稲を育てる必要性はあまり無い。魔法による食料生産が実用化されており、水田で時間をかけて稲を育てなくとも簡単に食料を得る事ができる。水田が存在するのはただ単に我々が水田のある風景を愛していたから。それに尽きる。
無駄ではあるが、全くの無駄でもない。全員共通の好みを反映させる事で、郷土愛を育む効果が見込める。複製体製造から時が経てば経つ程、オリジナルとの乖離が進むと予想される。それを見越して、結束を強化する狙いがあった。という建前の下、水田作りが会議を通った。名目というものは、たとえ相手が同好の士であろうと必要なものである。形は整えねばならない。
国王にはなったものの、最近はまともに仕事をしていない。オリジナルは不老化処理をせず、魂・肉体改造もせず、普通の人間として生きて死んで欲しい、と複製体達に嘆願され、俺は普通の人間を大きくはみ出す事無く生きている。
国の中枢で国中のあらゆる情報を監視・管理している森本一族や、前世の武術を見よう見まねで学び各種魔法を取り入れた武術流派を作った三島、頭の中に描いた設計図を元に一日で街を作ってしまえる中村。皆、魂拡張によって人外の学習能力計算能力を持ち、肉体改造と障壁魔法によって大砲の砲弾の直撃をものともしない体を持っている。俺はこの島に来た当初の体のままだ。皆、自分達が人間離れし過ぎてしまった事が不安らしい。手足として働く自分達はともかく、オリジナルにだけは人間のままでいて欲しいとのこと。俺を基準点として残しておきたいらしい。
まあ、気持ちはわからなくもない。普通の人間として生きて、普通の人間として死んだ。そういう自分が居たという記録が欲しい。必要に迫られて人間をやめてしまった俺ばかりではなくて、まともな人として生きた俺が居たという事実が欲しい。さらに言うなら、それはオリジナルであって欲しい。自分が複製体であったなら俺はそう考えるだろう。そういう事なのだと思う。
彼らにとっての象徴として、この不自由な体で凡夫として生きる事にした。俺が変わらず俺である事で、彼らは心置きなく逸脱する事が出来る。なら、仕方がない。彼らの願いを聞き入れよう。
そうなれば、当然俺にできる事は殆ど無くなる。能力の格差が酷く、議論に参加する事もままならない。最近は家庭菜園に凝っている。
ライスフィールド新島には色々と新技術が投入されている。中でも大きいのが前世の科学技術だ。魂研究が進み、魂核から前世の記憶を吸い出す事に成功した。前世の俺が見聞きした範囲に限り情報を引き出す事が出来る。読んだ事がある本の内容、見た事のある絵画、テレビ番組、ネットで見たもの全て。それを、発展した魂改造技術のフィードバックを受けてバージョンアップした森本が解析する。断片的な情報を元に研究が進められ、魔法技術の補助もあって前世と遜色のない生活をおくれるようになっている。佐々木から聞いた話では前世の知識が半端に過ぎて再現に四苦八苦しており、分野によっては中世レベルにも達していないとの事である。だが、魔法がその隙間を埋めてくれているらしく、表面上は前世の俺が生きた時代の日本に勝るとも劣らない技術を持っているように見える。
前世の記憶の恩恵を受けたのは科学技術だけではない。例えば、武術なども研究されるようになった。三島が担当している。前世の記憶には武術関係の書籍や動画が少なからずあった。流石にそれだけの情報では完全再現など到底無理であるが、書籍から得られた情報を元に基礎を固め、複製体同士で型稽古を観察し森本経由で情報を共有、動画をまねて練習を積み、回復魔法があるからと少々荒っぽい組手を重ねる事によってある程度のレベルに達していた。訓練で得られた情報を三島一族全員で共有できるのが特に大きい。何かの漫画でもあったが、分身して訓練すれば得られる経験も数倍というやつだ。数ヶ月でちゃんと武術の形になっている。
ライスフィールドの人口は無人島から浮遊島に拠点をうつして一気に増えた。無人島時代には俺の直下の複製体十五人、その一族九十人、それに俺を加えた計百六人が人口の全てであったが、浮遊島に移ってからは直下二百人程、その一族一万人程、合計大体一万飛んで二百人程になっている。
人数が増えると手が空く人間も増える。そういう人間は大体知識を移植されて別の現場の穴埋めに行くのだが、それでも余る人間は居る。余った人間は独自研究が認められている。そうすると、実用性のないもの、意味のないものを研究する者も多く生まれる。
ライスフィールド建国から二ヶ月。ライスフィールドでは亜人ブームが起きていた。動物の耳が生えただけの人間といった方向性のものではなく、リザードマンのような種類の亜人が主流である。各々造形を競い、立居振舞のもっともらしさを競い、種族に合わせた武術流派を開き、ロールプレイに興じている。龍人専門、鳥人専門のようにそれぞれの種族専門の武器防具衣類等を扱う店も出来、活況を呈している。江戸時代の町人文化のように娯楽が発展しつつある。管理側の都合で広められたものではなく、暇を持て余した人間が知り合いに見せびらかす為に技術と労力をつぎ込んで馬鹿な事をし、それが広まるという形で浸透していった。俺も混ざりたい。でも俺国王だし。肉体改造禁じられてるし。
鳥人や龍人が特に人気なようだ。俺は空を飛ぶのはあまり好きではないのだが、複製体の中に空を飛ぶ楽しさに目覚めた者がいたらしく、そのデータが出回って飛行魔法研究会なるものが作られる程人気が出ているらしい。鳥人龍人はやはり自前の翼では自重を支えられず殆ど飛べないらしいが、それを魔法で補っているのだそうな。当初は自前の羽で飛んでこそとの声もあったそうだが、翼をあれこれ改良した結果諦めたらしい。翼のサイズがアンバランスすぎるとか、飛び方が優雅でないとか、主に見た目の問題で。
一度背中に乗せて飛んでもらった事がある。何かあっても彼らがちゃんとフォローしてくれると思えば然程怖くは無かった。俺の飛行嫌いも改善されつつある。
文化が生まれ、評価の高い作品が生まれれば、対価を払いたくなるのが人間というもの。それが良いものである程ただで受け取るのは居心地が悪く感じるものであるし、対価を払い製作者を支える事で次の作品の誕生にわずかながらでも関われるような気もする。なんらかの形で作者に還元したいと思う者が現れるのは自然な事であった。
最初は、代わりに仕事に出るから作品作りに専念してくれと作者に親しい者が申し出た事から始まった。それを受けた作者が自分は大丈夫だから作品作りに協力してくれた人の仕事を代わってやってくれと権利を譲渡した話が広まり、仕事を代わって貰う権利、その権利書が出回り始めた。
他人の仕事を代わりにこなして手に入れた権利書を、好きな作品の作者に寄付する。受け取った作者は権利書と引き換えに仕事を休み、余った権利書を協力者にアシスタント料として渡す。協力者はそれを使って休みを取ったり好きな作品の作者に寄付をしたり……そういう、金、いや権利書の流れが生まれていた。
この流れを受けてネットバンクと電子マネーが登場した。衣食住は完全に保証されていたため今までは通貨の必要性が無く、通貨が存在しなかったのだ。
この時までは、皆が皆無償で労働していた。複製体達の為、ライスフィールドの為の労働とは、つまり自分の為の労働である。全員が自分自身であるのだから、特に不満を持つ者が居なかった。
これからはより長く娯楽に関わっていたいという者も増えるだろうからと、国から労働の対価として電子マネーが振り込まれる事となった。得たお金を支払う事で作品を購入したり、バイトを雇って仕事を休んだりできる。一時的に記憶と人格と能力を移植する事ができるので、人員に穴が開いても適当に募集して代わりに仕事をさせる事が容易である。これによってライフスタイルが多様化した。
そうなると個性が生まれる。森本のコントロールによって著しい逸脱や社会に不利益をもたらす変容は抑制されるものの、皆が皆元が同じ人間であると信じられた時代は終わりつつあった。
ライスフィールド王国は、その国民は、建国から一年足らずで既に俺の手に余るものになっていた。俺は王だが、それは名目だけの話だ。王としての能力が無い。誰も俺の能力を必要としていない。
肩肘張る必要もない。不祥事を起こさず、心身を改造せず、ただ国の象徴としてあるようにだけ気を付けて、後は気楽に生きよう。もはやドリアナに敗れる事はあるまい。後は複製体達が仇討ちを九分九厘まで進めてくれるだろう。王の椅子で腰を据えて待てば良い。
前世の記憶から掘り出された漫画や音楽でも久しぶりに楽しむかな。館の近くの川に魚を放流してくれていると聞いたし、魚釣りでもやってみようか。ここ二年……いや、もうすぐ三年か、まあそれだけの間、ずっと気を張り詰めていたのだ。これからはのんびり生きよう。
ライスフィールド歴二年、第二種複製体製造計画が議題に挙がった。第二種とは何か、旧来の複製体とは何が違うのかと問えば、第二種とは一般市民である、との答が返って来た。なるほど、複製体は誰もかれもが管理側の人間だ。これではドリアナを倒し大陸を治める際に、支配者層と一般市民に種族の差ができてしまう。もはや複製体は人とは別種の生物になっている。そんな連中がいきなりやってきて支配者の椅子に座ってしまうというのはよろしくないだろう。ライスフィールド人の中にも一般の被支配者層が必要だ。民間人同士の交流があれば、ライスフィールド人でも一般人は俺達と同じなのだという意識があれば深刻な溝が生まれる事も防げるかもしれない。
「支配者側と被支配者側の意識のデータを取るのが主目的です」
なるほど、深く考えすぎたか。予想を外すのはいくつになっても恥ずかしい。口に出さないで良かった。
「第二種の仕様を詳しく頼む」
「はい。性格や遺伝子に少し手を加えただけの普通の複製体です。ベースは建国前の王のデータが残ってますからそれ使いましょうか」
「ふむふむ」
「第二種以降は魔法をそのまま扱わず魔法具の使用に頼る文化へのシフトを考えております」
「ああ、いいね。魔法はちょっと危なっかしすぎる。研究に関わる人間には性格審査か何かがないと遠からず大惨事が起きるだろう」
「ええ。ですので、魔法を視認する能力を削除し、試験に合格した者に後天的に付加する形をとろうかと」
「え、あれ消せるの?」
「はい、魂の欠陥に由来する能力でして、そこを修正すれば。前世の記憶と人格の一部が漏れ出ていたのもその欠陥によるものです」
「あー……なるほど」
「欠陥の内容と魔法視認能力の仕組みについて詳しい説明が必要ですか?」
「いや、いい。続けてくれ」
どうせ聞いてもわからん。佐々木が説明しましょうかなどと言う時は、詳しく聞いてもまず理解できない。大体の情報はこちらが何も言わずとも提示してくれる。説明をするかしないか確認する場合は、俺の基礎知識の不足の為に説明が非常に長く難解になるがよろしいかと聞いているのだ。
それに、ここで説明を受けなくともこういう会議の後はほぼ必ず冊子が届けられる。会議で話題にのぼった技術について、たとえ話や図をふんだんに使って説明した、読みやすい冊子が。俺一人の為にあんなものを毎回作るのは手間だろうに。彼らの心遣いが身に沁みる。
「男性体と女性体を製造し、自由恋愛による婚姻を一つの目標とします」
「……んん?」
「一般市民ですから男ばかりというわけにもいきません。男ばかり何万人も製造してよそから女性をさらってくるわけにもいかないでしょう」
「いやいやいやいや、ちょっと待とう、なぜ俺が女にならねばならん」
「陛下が女になるのではありません。陛下の記憶を持った女が生まれてくるのです」
「違わんだろそれ」
「いずれはやらねばならない事です」
「いやーいやいや……ちょっと意味が解らない……そもそも俺の記憶を保持する必然性はどこにある」
「記憶の共有もなく、性格や遺伝子にも手を加えたとあってはそれは赤の他人です。実験体といっても結局こいつも俺なのだから構わないだろう、俺が被験者になるだけだという言い訳が通用しなくなります。自由恋愛にも結婚にも性格や遺伝子の差異が必要です。同一性を残すなら記憶しかありますまい」
「んん……確かにそりゃそうかもしれんが」
「そうかもしれない、ではなく、そうです」
「いやでも、女になった俺が男の俺と恋愛して結婚するの?」
「そうです」
「廃あ」
「陛下」
「……」
「必要な事です」
「……いや、でも……」
「……仕方がない」
「佐々木、やめとけ」
「やめません。陛下、陛下のお心を慮り今までお耳に入れずにいたお話があります」
ん、やっぱりそういう事もあるか。俺は改造を受けていないただの人間だし、唯一のオリジナルだからな。精神に変調をきたしかねんような情報が遮断されるのは自然な事だろう。彼らがそうすべきだと思ったのならそれが正しいのだろうから文句はないが、話してくれるというのなら聞こう。曲がりなりにも国主をやるからには守られてばかりというわけにはいかない。
「やめとけって」
「中村、構わん。佐々木、話せ」
「陛下、我々複製体の中に、同性愛者が現れました」
「……えぇ?」
「同性愛です。男が男を好きになったりするあれです」
「…………えー、いや、それ、えっと」
「お気持ちはお察しします。御自身は異性愛者であるとお考えになっておられる陛下の複製体達の中から同性愛者が現れたというのですから、同性愛者への偏見云々とはまた違った部分でショックをお受けになった事と思います。そのうえ、相手もまた複製体……自分が自分に恋をしたというのですから」
「ああ……うん」
特に根拠もなく、自分は異性愛者だと思い込んでいた。魔法糸を視認可能な特異な能力を持った身でありながらも、自分はそれ以外の部分では多数派側の人間だとの思い込みがあった。
自分が確かだと無根拠に信じていた足場が突然崩れた。ちょっと冷静でいるのは難しい。
気付かずにいた自分自身の別の側面を複製体達が目に見える形で日々示してくれている事で、常識だの固定観念だのといったものは粗方処分してしまえた気になっていた。まだ、不足があったらしい。
「まだ想いを伝えてはいないそうです。彼は性転換を望んでいます。彼の性自認自体は男のそれではありますが、我々の多くは異性愛者ですから、肉体が男の物である限り受け止めては貰えないだろうから、と。それが受け入れられないなら記憶の初期化を、と」
佐々木が言うには、武術を研究する三島一族の若手と文学を研究する中山一族の若手が飛行魔法研究会を通じて親しくなり、気づけば互いに惹かれあうようになっていたのだそうな。二人とも性格改変が行われるようになってから生まれた個体らしい。
国民の数が増え、島が広がり、分業が進み、生活環境が一律のものではなくなった。生まれた一族によって継承される記憶の内容も違う。肉体、魂に手が加えられ、得意とする分野が異なる。様々な切り口から研究できるようにと性格にも手が加えられている。
そこに、新しい文化によって既存の枠組みを超えた交流が生まれるとどうなるか。自分とは違うタイプの人間と親しく話す仲になればどうなるか。それが男女であれば、まあ、何も起きないという事もないだろう。飛行魔法研究会の会員数は二千を超えると聞く。元が同一人物であるとはいえ、二千人も居れば一組二組はそういう感情を抱く事があったとして、まあ、不思議でもない、のか。
「……えーっと、その、あー、そう、か。そりゃ、あんだけ個性が生まれれば、自分と違うタイプの人間と触れ合えば、まあ、うん」
「はい」
「じゃあ、その、彼の希望を叶えるかどうかは君らで決めて。俺が決めるよりいいと思うから。性転換も君らがいいと思うなら許可するから」
「わかりました」
自分自身との恋愛及び婚姻、それに性転換。それらは何もおかしな事ではないと、むしろ国がそれを推奨していると示す事はおそらく彼に──初恋が叶うかどうかは別として、今後の彼の人生全体に──有利に働く。
「……あー、その、第二種複製体製造について、決を採る」
満場一致で可決し、第二種複製体製造計画は実行に移される事になった。目が覚めたら女になっていた、などという経験をする事になる第二種の女性陣には同情するが、しかしまあ、そういう事なら仕方がない。
複製体同士の恋愛の実績もあるし、第二種複製体製造計画、うまくいくといいなあ。第三種からは複製じゃなくて自然出産の形でいくのかな、記憶とか性格とか継承させずに。いつまでも複製頼りだと多様性がなくなって頭打ちになるだろうし、まあその方向が妥当なんだろうな。
「自然出産……か。俺が出産……」
考えるのをやめた。忘れよう。明日は朝から釣りにいこう。
魔法文明とくれば空飛ぶ島ですよ。原始時代とか時の最果てとかに時間移動する某名作RPG的に考えて。自分がいつから魔法好きになったのかはっきりとはわからないんですが、あのゲームの影響が相当大きいのは確か。