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理解し難い男。の事

 数日後――。


 夏の暑さにも陰りが出る中、何事も無く日々が過ぎた。

 お婆さんの腰も、だいぶ良くなって来たとの事。喜ばしい事なんだけど、私は仕事を止めなくちゃならないから少々複雑ではある。

 お爺さんとも仲良くなれたし、飲食店経営にちょっと興味が出て来た所だったんだけどな・・・・。


「さぁて、お十和ちゃんは、そろそろ仕舞いにして良いぜ」

「いいの ? 店長一人で大丈夫 ? 」

「おおよ。お天道さんのご機嫌もあんまり良くねぇし、お客もこねぇだろうさ」


 お爺さんは先日の栗里とか言う侍を気にして、私を早く家に返したいのだ。私もそれは分かっているので、言うとうりにしようと思っていた。

 広く人と関わるのはプラスの事ばかりじゃない。

 でも、栗里に関しては、私が相手にしなければ良いだけだから、何てこと無い。などと思っていると、呼んでも居ない当の本人がやって来た。


「女。良い知らせだ。お前の働き口が見つかったのだ。とある身分の在るお方がな、お前と一度会ってやっても良いと仰っている」


 挨拶も無しに、頼んでも居ない事を言い出した。余りに勝手で吃驚したが、何とか笑顔を保った。

 この手の高飛車な客には強く出ずに、やんわり相手をした方が良い。長年の居酒屋勤務からの教訓だ。


「いえいえぇー、私なんか高貴な身分の方の所なんて務まりません。モウシワケアリマセンガジタイイタシマス。」


 お腹の中では『大きなお世話だ一昨日おいで』と、尻をペンペン。


「あちらはそれでも良いと言っている。先方は、元目付けの方だぞ ? お前なぞ一生顔を見る事、叶わぬ方だ。上手くやれば、綺麗な着物、上等の紅、何だって贅沢し放題だ」


 そして、貴方は紹介料を受け取るんですね。

 働き口だなんて言っているけど、結局は愛人の斡旋でしょ ? そうなんでしょ !? この、やりてジジイめっ !! だいたいね、こんな話はテレビの時代劇で使い古されてるよ ! マンネリ25点。黄門様だって飽き飽きだって ! 時代は常に進化していかなきゃ。ね ? 

 それと、着物はトビウオ柄のコレがお気に入りなので気遣いは結構だよ。


「そんな大それた所へなど、タヌキでオカメな私が行ける訳も有りません。ドウカゴカンベンヲ」


 こんな感じで、のらりくらりと栗里をかわす。すると、最初は甘い顔をしていた男が、焦れたように怒り出した。こいつ、かなり短気だ。


「あぁー、ぐだぐだと、五月蝿い ! 先方とは話が済んで居るのだっ ! つべこべ言うなっ !」

「何勝手な事をー ヤッ ! イタッ ! 」


 栗里が、私の腕を掴んで強硬手段に出た。私だって負けていられない。摑まれた腕を振り回して、応戦する。


「やだってば ! 」


 それをお爺さんが止めようとして、栗里の長羽織にすがり付く。


「お止めくだせぇっ ! こいつは、この蕎麦屋の娘なんでぃっ !! 」

「お爺さんっ」


 ブンッ――っと、栗里がお爺さんを払い倒した。机や小物入れが引っくり返る。「ガチャンッ !! 」辺りに派手な音を立てて、箸や割れた茶碗が散らばった。

 あっと言う間に、目茶苦茶。足の踏み場も無い。


「お前が来ぬと、私の面子が立たぬ、ほらっ ! 来いっ !! 」

「何て事すんのっ !? やだ、やだってばっ ! 触んないでっーーー。きもいー」


 栗里は暴れる私を尚も引きずって行く。男の力は強く、掴まれた腕はきっと痣になっているだろう。

 その時、ひっくり反っていたお爺さんが、よたりと立ち上がり小さい体で自分より大きな男に体当たりする様にしがみ付いた。


「ええぇい ! 邪魔するな !! 」

「お爺さん ?! 危ないからっ、もう止めてっ !! 」

「おめぇは、早く逃げろーーーーーーっ !!」


 振り回され、倒され、それでも立ち上がり向かって来るお爺さんに、苛立った栗里がとうとう、刀を抜いた。


「町人の分際で無礼なっ、この羽虫がっ !!!」


 『ぬらり』と刀が光ったかと思うと、男はソレを左から右へ薙ぎ払った。

ヒュッ―っと風を切る音と共に、お爺さんの体が後ろへ倒れる。


 (くう)に飛んだのは、埃か、血煙か。


「やぁぁぁぁーーーーーっ !!!! おじいさんっ !! おじいさんっ !! 」






本作のヒーローより、活躍してるお爺さん。

最初は、タイムスリップして来た女の子と蕎麦屋のジジイの事件簿の予定だったので、その名残でしょうか。

ああ・・・・・何時になったらラブに?

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