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まずは、ここからの事。

「痛っ!!あたたっーっ!また、やったよー・・・」


 火打鎌を打ち付けた親指を手の中に握りこんで、怪我を無かったことにしてみた。でも、じんじんとした痛みは消えるわけも無く、火が点かない事への苛立ちに益々、拍車を掛けるばかり。


「もーう。どうして火花が散らないのかなぁ?」

「・・・・またやったのか。おい、指は付いているか?」


 呆れたような低い声。私はしゃがんだままの格好で、声のした方へと首を仰向ける。そこには長身の男の人が立っていた。


「あ、普一さん。お帰りなさい」


 普一さんは、この時代には珍しく短髪で髷を結っていない。

 素肌に黒い腹掛け、羽織りを引っ掛け、下は黒い猿股。絵に描いた様な職人スタイル。これがなんとも長身の彼には似合っていた。

 この時代のモテル男の定義からは若干ずれている様だが、結構そこかしこで女性の目を集めているらしく、長屋の奥様連中の中にもファンが居るとか、居ないとか。一緒に暮らしている私の背中に、嫉妬の視線が刺さるとか、刺さらないとか。


「堅いイメージだし、イケメンというより男前って感じ、かな」

「池麺 ? さっきから何言ってんだ」

「いやいや池麺て~、何だか生臭そう。私食べたくないなぁ」

「・・・・んなことより、あんた床上げしたばっかりなんだ、無理はするんじゃねぇよ」


 せっかくボケに突っ込みを入れてあげたのに、無かった事にされた。やはり、現代人のノリを彼に求めるのは間違っているのだろうか。

 つまんないの。なんて、勝手な事を思っていると、心配そうな目が私を見ていることに気付き、罰当たりな考えを改めた。

 

「大丈夫ですよ。少しくらいは動かなきゃ体が鈍っちゃう」

「だけど水仕事は、まだ早ぇ」

「でも洗濯位は・・・・」


 狭い土間の隅っこの竈の前にしゃがみ込んでいる私を見下ろし、無言の圧力を掛けてくる普一さん。

 言外に「無駄な抵抗は止めろ」と。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ううううぅぅぅぅ~・・・・・・・・・・」

 

 勝敗なんて目に見えている。 

 おんぶに抱っこの生活をしている自覚の有る私に、勝てる訳が無いのだ。

 私は手を上げ、降参のポーズ。


「後でにしますぅ・・・・・・」


 私を絶対服従させているこの人、基本無口無表情。一重の目は鋭くて、ちょっと見、取っ付き難そう。だけど実は凄く良い人。

 ちなみに、あの夜、雨の暗闇の中から私をひっぱり出してくれた人だ。


「そこで何してる」


 心配するというより不審者を警戒する響きだったけど私は、

「もう大丈夫」「助かった」この人が助けてくれる。そう思った。

 その後ほっとしたのもあってか、普一さんにしがみ付いたまま意識が朦朧とし始めて、後の事は良く覚えていない。

 それから高熱が出て半月寝込み、暫らく寝たり起きたりを繰り返し、やっと3日前に床上げが出来た。

 飾り職人の仕事をしながら、ずっと傍にいて看病してくれたのも、この普一さんだ。

 鳥の雛が最初に見たものを親だと思い込むように、私は普一さんを全面的に信用していた。


「何て言ったっけなぁーインティプリ・・・プリ??インタプリ何とか?」

「・・・それより手、見せてみろ」

「手?平気平気!大丈夫です。取れてませんよ。」


 そっと手を後ろに隠す。衣食住、世話になっている者としては、これ以上は面倒を掛けたくない。それに、傷だらけの指を見られるのは何と無く恥ずかしかった。


「あんたは、二言目には「大丈夫」だな」


 指摘され、今までを思い返す。が、自分では余り分からない。


「そうかなぁーそんなに言ってるかなぁ」

「言ってる。それで「大丈夫」だったことは無いな」

「むむむむむむむむ。そ、そう、ですかぁ ? 」

「今さら俺に気ぃ使ってどうすんだ・・寝込んでた時のことを忘れたか」


 普一さんは私を土間の壁に追い詰めると、後ろに隠していた手を強引につかんで怪我の状態を確かめ始めた。

 握った指を、さっきの強引さとは打って変わった優しい動きで解いていく。

 でも、いくら壊れ物を扱うようにされても傷に触れれば、やはり痛い。私は顔を顰めながら、彼の言う「寝込んでいた時」の事を思い出し、懇願する。


「ええと、その節はお世話様です・・・・いてて・・あのですね、あの間にあった事、見た事は、何とぞ他言無用でお願いします。――――マジで」


 雨と泥で汚れた体を清めたり、寝汗を拭いてもらったのを朦朧とした意識の中で薄ぼんやりと覚えている。

 熱で抵抗できない私は、濡れた服を問答無用でひっぺがされたわけで。そして、体中拭いてくれたのも、この人なわけで。寝巻きを着せてくれたのも当然そうで。

 その時は恥ずかしさなんて感じているどころじゃなかったけど、今思い出すと・・・・・・・。



「 忘れて下さい!今すぐ!」


(羞恥で人は死ねるっっ !! )

 顔に血が集る。カッカと燃えるよう。たぶん真っ赤になっているであろう私を見て普一さんは、しらっとのたまう。


「そんなに直ぐに忘れられるかよ。まだボケるには早ぇ。でも安心しろよ。誰にも言わねぇ。もったいねぇ」

「ひぃ !!! 」

「役得だった」

「っ!!何ーを言っているのですか?!ぁぁぁあもうヤダ!むっつり!むっつり!」


 (珍しく普一さんの口元が数ミリ上がっているる!ニヤッとしているっ。この人、本当にむっつりか!?)

 鉄面皮の同居人にしては珍しい顔に、恐れ慄き、一歩後退。それにしても、何て物言い。役得だったなんて・・・・。滅多にしない表情だからか、それとも堅いイメージの人から出た言葉だからか、やけにセクシャルに感じた。ギャップって恐い。


「穴があったら入りたい・・掘ってでも埋まりたい・・・」

「・・・・なに」


 私の何てこと無い言葉に、行き成り普一さんの回りの空気が、すぅぅぅぅと冷えたように感じた。

 彼は入り口を背に立っているので、顔は逆光で良く見えない。


「・・・・・・・・・あんた、やっぱり死ぬつもりだったのか・・・・・」

「え?何で?私、人並みに生きる気は、バンバンありますよ!?」

「しかし今、埋まりてぇって・・」

「違いますよ!それくらい恥ずかしいって事です!」


 初めて会ったときの状況が悪かったのか、どうも私に自殺願望があると思っているようだ。胡乱なものを見る目つきで私を見ている。私は、そんな事、有り得ない ! と断言してから気を取り直し、手に持った道具をまだ疑いの目をしている彼に向って掲げた。


「それよりも!火打ち石の使い方を、もう一度教えて貰いたいんです」

「ふぅ、まだやるのか。手、痛ぇんだろ」

「火ぐらい自分で点けられるようになりたいんです。隣のお花坊だって出来るんですよ?」


 20歳の大人が、6歳児に負けてるなんてちょと恥だ。

 火打ち石が使えないと竈に火を入れられない。お湯すら沸かせない。たいした料理の腕がある訳じゃないけれど、普一さんに何か作ってあげたい。

 少しでも貰ったものを返したい。私にだって、女として、大人として、恩を受けた者として、プライドがあるっ ! 鶴やら、お地蔵さんに負けてはいられないんだよっ ! 

 恩返しの定番メンバー達に、メラメラとライバル心が燃える。


「とにかく!早々に火付けを習得しなければ成らないんです!!」


 電気が欲しいなんて、もう言わない諦めた。ライターが欲しいとも言わない。無い物は無いのだ。そうなると、この時代、新しい火を作るには火打ち石を使うしかない。

 残念だが、私の周りに当たり前に有った物が無いのがこちらの普通。そして、教科書や資料館にあった物が普通に生活の道具として使われているのが、この時代。


 私が迷い込んだ雨の先は「火事と喧嘩が大売出し!」の江戸時代享保13年。

――――どうやら、ただいま(推定)江戸時代に居るらしいんです。










あれっ?本文の入力の仕方が分からない!?

これで良いのかな?

どきどき。

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