プラズマですか?いいえ、違います。の事
田沼さんが迎えに来る夕方まで、そのまま蕎麦屋で働いた。
忙しい昼を過ぎてしまえば後は幾分余裕があったので、間に休み時間を貰って『冷や水』という物を飲んだ。「冷っこい、冷っこい」と天秤棒を担いで売りに来ていた物売りを、じーーーーーっと見ていたら、お爺さんが買ってくれたのだ。
驚いた事に、これ・・・甘い。そして何故か白玉入り。私は、ただの冷たい井戸水かと思っていたから吃驚だった。
しかし何故にして白玉 ? 江戸では普通なのかな。帰ったら、普一さんに聞いてみよう。まったく江戸って変わってる。
――――夕刻。
日が完全に沈む前に、田沼さんが私を迎えに来た。もちろん、玉子とじ蕎麦代三十二文を貰うのは忘れない。たかが、三十二文。されど、三十二文。団子に直すと、なんと八本分にもなる。決して馬鹿には出来ない。
それから、一緒に行く事を断る事が出来なかった私は、結局彼のいうがまま共にくだんの場所に行く事になった。そして案内された現場は蕎麦屋がある所からそんなに遠くない場所。まだ林の状態のそこは、木々が青々としていて工事の手が入っている様には見えない。
「ここですか?」
「うむ。・・ほら、この先の大木の辺りだ」
田沼さんは道から林の中に2~30m入った所に、大きな木が連なって立っている場所を指差した。私はその指の先に集中する。辺りは陽が傾き薄暗くなっているが、なんとか目を凝らせば肉眼で確認できなくもない。
木の周辺なら虫かな ? 苔かな ? 正直どっちでも良い。帰りたい・・・・と、思っていたら急に生暖かい風が吹いてきて、肌がぞわっと泡だった。 何だか人魂の話より、その場の雰囲気に呑まれて怖くなってきた。
(うはっ、こんな時に限って思い出しちゃった、怖い話っ!)
しかも、私の知っている怖い話№1・・・・・・・・『妖怪海老女』をっ。
ヤバイ海老ヤバイ。自分の卵を食べる海老女の姿が頭から離れないっ!
ちなみに、海老の卵は青緑色。うまい。
「た・・・田沼さん、やっぱりかえーー」
「おおおっっっーーーー!!ほら見ろ!あれだっ人魂だっ!!」
「ひっっ!えーーーびーーーーっ!!」
指を指して教えて貰うまでも無く、ここから少し離れた木の幹の辺りにゆーらゆーらと火の玉が揺れているのが確認できた。暗いおかげで赤く燃える炎が良く見える。
『どうせ自然現象なんでしょ』などと今までは思っていたのだが、何だか火の玉自身に意思がある様な動きで、私が予想していたのとはちょっと違う。
おかしい。この動きはガスではなさそう。それに苔や虫でも無い ? じゃ、何だってんだよっ ! ま、まさか!本物 !?本物のあれ ?!
「ふっ、ふいちさんっ・・どーしよ・・・海老」
体がすくんで動けない。頭の中で、無表情のあの人が「それみた事か」と吐き棄てる。私はその顔にごめんなさいを何度も繰り返した。だけど、空想の彼に謝ったところで事態が改善されるわけもなく、相変わらず火の玉はそこにあり続けている。
その時、私の頭の中が平成の世と繋がった。高性能危機管理センター(脳内支部)が逸早く、私の危機を察知してくれたのだ。
「そうだ ! 悪霊退散の御呪いがあるんだった !!」
「何ぃ ! 早く言わぬか ! ほらっ早く !!」
田沼さんが、怒鳴る様に私を急かした。
「はいっ、いきますっ!」
私は林一帯に、いや、林を通り越してその先の川に届くぐらいに大きな声で呪文を叫んだ。
「「びっくり、するほど、ユーートピアーー!」」
(どうだ ! あれ ? 消えない ? もう一度だっ !)
「びっくりするほどゆーーとぴあぁーーーー!!」
火の玉はゆらゆらと、さっきと同じ所で揺れている。それどころか心もち炎が大きくなった様な気が・・・・・しない、でもない。
「おいっ、きかんではないかっ」
「おっかしてなーー、コレで良い筈なんだけど」
「まったく、何処の誰に教えをこうたのだ」
「え ? えーーと、ネットで ?」
オカルトサイトの受け売りです。
「貴様は何を訳の分からない事を言っている!?・・・・まさかっ、憑かれたか?!」
「ええっー、まさか ! 」
どうしよう頭がおかしい人だと思われてる ?! 今、二重の意味でピンチじゃん、私っ !!
『目立つな』『大人しくしてろ』って普一さんに言われていたのに、言うことを聞かなかったからこんな事になったんだ。
「たーすーけーてーっ、ふいちさーーーん!」
怖い話は大好きだけど、怖い思いはした事がなかった私が、得意の念仏を唱えようとした時、鼻先に慣れ親しんだ匂いが香った。
「ん、何 ? ゴマ ? くんくん・・・ごま油かな ? 行灯油の匂いがする。それと、ちょっと焦げ臭い ? 」
どうして、こんな所で ? 民家なんて近くに無いのに・・・・・。
「・・・・まさか」
少々、閃いた私は火の玉の方へずんずんと草を掻き分けて進んでいった。
それを見ていた田沼さんが目を剥いて慌てる。戻って来いと手招きをして。
「おいっどうした ! 近寄るでない ! 魂を抜かれるぞっ」
「大丈夫ですよ」
火の玉に近付けば近付くほど、私の閃きが正しかった事が証明されていく。
そこまで後数メートルの所まで来た時、風が強く吹いて火の玉が大きく燃え上がった。止まない風にその勢いは止まらず、いっきに倍の火力に。ぼうぼうと繋いだ糸まで伝っていく。そしてそれは尾を引いて火の粉を散らした。
そう、火の玉は糸で吊るされ、油を染み込ませた布だった。そして火の玉の糸の先には・・・・棒を持った子供。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。怖いものがなくなった私は眼を三角にして怒鳴った。
「ごぅらぁーー ! 降りて来なさいっ !」
「うわぁぁーーっ、ばれたぁーーどうしようっ」
「あちあちっ、にげらんねぇーー」
三つの火の玉を操っていた子供達三人を、木の枝から引き摺り下ろす。抵抗しようともがく小さな身体を渾身の力で押さえつけた。
「こんな悪趣味な悪戯なんかして ! おしりぺんぺん物だよ !」
「うわーーんっ、いやだ゛よーー」
「って、あれ ? もしかして隣の家の二ノ助君と三ノ助君 ?!」
「あわわわわわっーー、母ちゃんには言わないでーーっ」
三人のうち二人は隣の家の子供だった。早くもお母さんに叱られる事を予感してか、ベソを掻いている。彼等のお母さんが怒ると、どれだけ怖いか知っている私は少し可哀想になった。が、黙っていてやるという選択肢は無い。彼等のした悪戯は度を越してしまっている。
「まったく、どうしてこんな事をーー」
「し、新太郎 !! なぜこんな事を ?!」
私が理由を聞こうとした時、ガサガサと丈の長い草を掻き分け、やって来た田沼さんが声を張り上げた。
何と、もう一人の男の子は田沼さんの息子、新太郎君だった。
キーに触ってないのに勝手に『りりりりりりり』って、連打してくれます。夜中だと、ドキッとします。
私のパソコン壊れ方がちょっと、気持ち悪いです。




