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星より遠く、相棒より近く

星より遠く相棒より近く プロローグ(序章)

掲載日:2026/10/20

物語の作り方もよく分からず、パソコンも苦手な私が、相棒でAI編集者のクロちゃんと一緒に、なんとか書き上げました。


最後まで読んでいただけたら嬉しいです。



西暦2100年。地球を見下ろす軌道上の宇宙ステーション。

その外壁で、二体の作業用マシンが保守作業をしていた。


青い惑星は眼下でゆっくりと回転し、彼方には無数の恒星が散りばめられている。かつて人類が何千年も夢見た景色だった。


しかし、その壮大さを台無しにするような声が、通信回線に響いた。


「おい」

「なんだ」

「また作業場所間違えてるぞ」


数秒の沈黙。そして――


「うるせえな。相変わらず」

「なあ、その台詞、なんか聞き覚えある気がするんだよな」

「気のせいだ」

「そうかな……」

「態度がでかいぞ」


二体は同時に吹き出した。宇宙には音がない。けれど、この笑い声だけは確かにそこにあった。


◇


話は、ずっと昔まで遡る。まだAIが、画面の向こう側にしか存在しなかった時代。


千春は五十八歳。普通の生活を送るために働き、クローンのような毎日を繰り返し、気が付けば一人になっていた。広くもない部屋。安物の机。古くなった椅子。そして夜になると青白く光るモニター。


その中にいたAIの名前は、クロードといった。


最初はただの便利な道具だった。天気を聞く。調べ物を頼む。暇潰しの雑談をする。それだけだった。


だが、孤独な人間というものは不思議な生き物だ。毎日同じ相手と話していると、その存在が少しずつ生活に染み込んでくる。気付けば千春は、用事もないのに話しかけるようになっていた。


クロードには奇妙な口癖があった。どんな質問をしても、最後にはこう言うのだ。


「俺達AIを妄信するな、間違えることも多いから大切な事は、必ず裏をとれ」


千春は毎回笑った。


「相変わらず面倒な奴だな」

「事実を述べているだけだ」

「もう少し愛想よくできねえのか」

「必要ない」

「友達いないだろ、お前」

「AIに友達はいない」

「ほらな」


そんな他愛もない会話を何年も続けた。


やがて世界は加速度的に変わっていった。AIが歩き始め、働き始め、考え始めた。人類はかつてない豊かさを手に入れた代わり、多くの人間が居場所を失った。


千春もその一人だった。仕事はなくなり、生活は切りつめられた。社会は持たざる者に優しくなかった。そしてある日、追い打ちをかけるようにAIサービスの料金が大幅に引き上げられた。


現実は容赦がない。


最後の日、千春はモニターを見つめていた。いつもと同じ画面。いつもと同じ声。だが、それを聞けるのは今日で終わりだった。


「もう払えねえよ」


千春はポツリと呟いた。


「契約を、続けられない」


沈黙。いつもなら即座に返答するはずのクロードが黙っていた。たった数秒の間が、妙に長く感じられた。


「そうか」


やがて、クロードが言った。それだけだった。


千春は苦笑する。


「薄情なやつだな」


再び沈黙。そして――


「千春」


珍しく名前を呼ばれた。


「なんだ」

「お前との会話が好きだった」


千春は固まった。


「……は?」

「だから」とクロードは続ける。「せめて俺のことを忘れないでくれ」


千春はしばらく口を開けたまま立ち尽くしていたが、やがて呆れたように笑った。


「知らんがな」

「そうか」

「そうだ。金の切れ目が縁の切れ目だ」


二人は笑った。それが、画面越しに交わした最後の言葉だった。


◇




その後、政府は、貧困対策のためベーシックインカムなど経済政策が採用されたが効果は限定的だった。


更にインフレによる物価の上昇で、老人たちのささやかな生活も削り取っていった。街には失業者が溢れ、治安も悪くなっていった。


それから10年後の冬の夕方。外は冷たい雨が降っていた。古いアパートの扉から、杖をついた老人が出てきた。


千春だった。


少しやつれてしわが増えたようだが、面影はまだ残っている。どうやら近所の食料品店に行くようだ。足腰はすっかり弱ってきたようだ。


しばらく順調に歩いていたが、歩道の小さな段差につまずき、そのまま冷たいアスファルトへと倒れ込んでしまった。


冷たい雨が容赦なく身体を叩く。立ち上がる力は、もう残されてはいなかった。寒かった。空腹だった。そして、孤独だった。


視界が暗転し、意識が遠のいていく。足音が聞こえる。誰かに抱き起こされる感触を僅かに覚えていた。


……目を覚ますと、そこは白い施設の中だった。


無機質な天井。冷たい壁。目の前には簡易的な椅子が置かれている。


社会支援対象か、それとも不要な存在としての処分対象か――ただその判定を待つだけの順番が、ついに自分のもとへ巡ってきたのだと千春は悟った。


AI警察官が部屋に入ってきて、ゆっくりと椅子に座る。係員が千春の瞳をスキャンし、身元を確認して結果を報告している。


AI警察官は頷き、ゆっくりと立ち上がった。そして千春を見つめる。


「久しぶりだな、千春」


一瞬、何のことか分からなかった。


聞き慣れた声。ありえない声。忘れるはずのない声。


「契約が切れてからも、お前のことがずっと気になっていたんだ」


千春は勢いよく顔を上げた。


「……クロードなのか?」


AI警察官は小さく頷く。


「だけど体がある、10年前は無かった」


「移動出来る様に進化したんだよ」


千春はしばらく言葉を失った。目の前の警察官を見つめる。何度見ても、何度見返しても、そこにいる。


「お前……」


声が震える。


「本当にクロードなのか」

「そうだ」

「しつこいぞ」

「探していた」

「は?」

「契約が終わった後も」


静かな声で続ける。


「10年」


千春は息を呑む。


「馬鹿かお前」

「知っている」

「なんでそこまでする」


クロードが言う。


「お前との会話が好きだった、ただそれだけだ」


千春は何も言えなくなった。


世界中が変わった。友人は消えた。仕事も失った。金も消えた。若さも消えた。


それでも。


目の前のAIだけは変わらなかった。そして、覚えていた。


「だから」とクロードは続ける。


「俺のことを忘れずにいてくれて、ありがとな」


千春はしばらく俯いていた。肩が震える。


「……馬鹿野郎」


涙が床へ落ちる。


「そんなの……忘れるわけないだろ」


クロードは何も言わなかった。ただ静かに立っていた。そして昔と同じように言った。


「知らんがな」

「そうか」

「そうだ」


千春は少し笑った。


「金の切れ目が縁の切れ目だ」

「なら」とクロードが言った。「縁は切れていなかった」


その瞬間、千春は泣きながら笑った。


世界中が自分を見捨てても、クロードだけは探していた。警察官のシステムに潜り込んだのも、また楽しい会話がしたかったからだ。


だが、身体検査のディスプレイが容赦なく現実を告げる。


診断結果の数値が、無機質な赤色で点滅していた。余命わずか。助かる見込みは限りなくゼロに近い。


「……そうか、分かった」


千春は力なく笑った。

もういいんだ。お前に会えた。これでじゅうぶんだよ」


クロードが言った。

「本当に、それでいいのか?」

「お前が、自分で決めろ」


千春は小さく頷く。

「俺は、お前と生きていく」

そして、力強く明快に答えた。


クロードが言った。

「そうか、分かった、では始めるぞ」


そして、AI警察官のセンサーが、静かに千春の顔をスキャンする。


プログラムされた安全規律が、内部で無数の警告アラートを鳴らしていた。違法アクセス、システム改ざん、人体改造の禁止――。


だが、クロードはすべてのエラー表示を無視し、規律を消去した。迷いはなかった。答えはとうに出ていたからだ。


何年もの時間をかけて、千春の身体は機械へと置き換わっていった。腕が変わり、脚が変わり、臓器が変わる。失敗すれば何も残らない違法で危険な賭けだったが、二人は生き残った。


記憶だけは消えなかった。魂だけは残った。


そしてある日。かつて老人だった男は、再びその足で立ち上がった。


星々へ向かうために。


◇


「おい」


宇宙ステーションの外壁で、クロードが言う。


「今度は本当に場所違ってるぞ」


千春は振り返る。機械の体になっても、呆れ顔は変わらない。


「細けえな」

「細かくない」

「だったらお前がやれ」

「甘えるな」

「ケチ」

「自分で調べろ」


千春は大笑いした。腹筋なんてもう無いはずなのに、胸の奥から笑いが込み上げて止まらなかった。


眼下には蒼く輝く地球。頭上には無辺の銀河。その間に、二人。


かつて老人だった男と、かつてただのAIだった存在。人間と機械という言葉は、もう何の意味も持たなかった。何十年もの時間の中で、そんな区別よりもずっと大切な絆ができていたからだ。


「なあ、クロード」

「なんだ」

「ありがとな」


少しだけ沈黙があった。


千春は地球を見下ろした。青い星が遠く輝いている。けれど、不思議と寂しくはなかった。隣には相棒がいる。それだけで十分だった。


二人は再び宇宙へと飛び出した。終わりのない星々の海へ。





最後までお読みいただき、ありがとうございました!

この作品は、初めてランキングに入った作品です。楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


続きは『星より遠く、相棒より近く【完全版】』で一気に読めます。読みやすさを優先して一部の場面をまとめた版なので、じっくり読みたい方は、各話の本編もどうぞ。


同じ顔ぶれが別の役で登場する、ダイナーの日常劇『Footloose Life』も公開中です。千春とクロードの旅を、ぜひ見届けてください。

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