れんの嫉妬と、言えない言葉
昼休み。
つかさが廊下の端でパンを食べていると、れんがやってきた。
「つかさ、ちょっといい?」
「……なに」
今朝かられんはずっと機嫌が悪かった。
理由は明らかだが、つかさのほうから触れたくない。
れんはつかさの近くの壁にもたれ、低い声で言った。
「……風間と、なに話してた」
「別に。普通の話でしょ」
「普通じゃないだろ」
「うるさい。聞いてないでしょ」
「聞こえた。というか、見てた」
「……見てた?」
「ああ」
言い切るれんの目は、いつになく真剣だった。
つかさは視線を逸らす。
れんはため息をつく。
「つかさ……さ、なんで風間とあんなに距離近いの」
「近くないし」
「近い」
「近くない!」
言い合う距離がぐっと縮まる。
つかさは息が止まりそうになった。
れんは、まるで何かを我慢しているように続けた。
「……俺が心配してるって言ってもさ、つかさは絶対わかってくれないよな」
「なにそれ」
「風間はさ……悪いやつじゃないとは思う。けど、つかさみたいなタイプって、ああいうやつには狙われやすいんだよ」
「狙われるって言い方やめて」
「だって」
「たいちはそんなタイプじゃない」
れんの眉がわずかに動いた。
「……呼び方」
「え?」
「風間のこと、下の名前で呼んだ」
「たまたま出ただけでしょ!」
「たまたま、ね」
れんの目がすこし陰る。
その表情を見た瞬間、つかさの胸がぎゅっと締まった。
こうやって、れんが何かに傷つく顔を見るのは苦しい。
理由なんて分かりきっているのに、認めたくないだけだ。
「……つかさ」
れんが一歩近づく。
逃げない。
逃げさせてくれない。
「お前が誰と話してるか、誰に褒められてるか……全部気になるんだよ」
「…………っ」
「理由、言わないとわかんない?」
「わかんない」
「嘘だろ」
つかさは口を噤んだ。
本当はわかっている。
れんがどういう気持ちでいるのか。
だけど、それを受け止めたら、自分の“努力の理由”が変わってしまう。
怖いのだ。
そこへ、タイミング悪くたいちが姿を見せた。
「桐谷さん、放課後の話だけど──」
「たいち」
呼んだ瞬間、れんの表情が変わった。
つかさ自身も、呼び方が自然に出てしまったことに驚いた。
れんはそのまま、言葉もなく教室へ戻っていった。
つかさは取り残された気分で、胸がざらざらした。
たいちはそんなつかさに小さく笑いかける。
「今日、ちゃんと話そうね」
れんの背中と、たいちの笑顔。
その対比が、つかさの中の何かを大きく揺らしていた。




