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あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
風間たいちという揺さぶり

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9/13

れんの嫉妬と、言えない言葉

昼休み。

 つかさが廊下の端でパンを食べていると、れんがやってきた。


「つかさ、ちょっといい?」


「……なに」


 今朝かられんはずっと機嫌が悪かった。

 理由は明らかだが、つかさのほうから触れたくない。


 れんはつかさの近くの壁にもたれ、低い声で言った。


「……風間と、なに話してた」


「別に。普通の話でしょ」


「普通じゃないだろ」


「うるさい。聞いてないでしょ」


「聞こえた。というか、見てた」


「……見てた?」


「ああ」


 言い切るれんの目は、いつになく真剣だった。

 つかさは視線を逸らす。


 れんはため息をつく。


「つかさ……さ、なんで風間とあんなに距離近いの」


「近くないし」


「近い」


「近くない!」


 言い合う距離がぐっと縮まる。

 つかさは息が止まりそうになった。


 れんは、まるで何かを我慢しているように続けた。


「……俺が心配してるって言ってもさ、つかさは絶対わかってくれないよな」


「なにそれ」


「風間はさ……悪いやつじゃないとは思う。けど、つかさみたいなタイプって、ああいうやつには狙われやすいんだよ」


「狙われるって言い方やめて」


「だって」


「たいちはそんなタイプじゃない」


 れんの眉がわずかに動いた。


「……呼び方」


「え?」


「風間のこと、下の名前で呼んだ」


「たまたま出ただけでしょ!」


「たまたま、ね」


 れんの目がすこし陰る。


 その表情を見た瞬間、つかさの胸がぎゅっと締まった。

 こうやって、れんが何かに傷つく顔を見るのは苦しい。

 理由なんて分かりきっているのに、認めたくないだけだ。


「……つかさ」


 れんが一歩近づく。


 逃げない。

 逃げさせてくれない。


「お前が誰と話してるか、誰に褒められてるか……全部気になるんだよ」


「…………っ」


「理由、言わないとわかんない?」


「わかんない」


「嘘だろ」


 つかさは口を噤んだ。


 本当はわかっている。

 れんがどういう気持ちでいるのか。

 だけど、それを受け止めたら、自分の“努力の理由”が変わってしまう。

 怖いのだ。


 そこへ、タイミング悪くたいちが姿を見せた。


「桐谷さん、放課後の話だけど──」


「たいち」


 呼んだ瞬間、れんの表情が変わった。

 つかさ自身も、呼び方が自然に出てしまったことに驚いた。


 れんはそのまま、言葉もなく教室へ戻っていった。


 つかさは取り残された気分で、胸がざらざらした。


 たいちはそんなつかさに小さく笑いかける。


「今日、ちゃんと話そうね」


 れんの背中と、たいちの笑顔。

 その対比が、つかさの中の何かを大きく揺らしていた。


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