揺れる視線
放課後。
つかさが帰り支度をしていると、まこが「今日は塾だから」と先に帰ってしまった。
一人で帰るのも嫌いではない。
静かな帰り道は、朝ほど気を張らなくて済むから。
校門を出ようとしたところで、風間たいちが声をかけてきた。
「桐谷さん、帰り?」
「ああ、うん」
「よかったら一緒帰らない? 道、全然分かんないんだよね。迷子になりそう」
その誘いは悪気のないものだと分かる。
でも、つかさは他人と二人になるのが得意じゃない。
「別にいいけど」
「よかった」
たいちは歩幅を合わせて隣に立った。
人と横並びで歩くのは久しぶりで、妙に緊張する。
「桐谷さんってさ、なんか雰囲気あるよね」
「雰囲気?」
「うん。強そうなのに、どこか無防備な感じもあってさ。見てて飽きない」
「……よく分かんない」
「分かんなくていいよ。俺が勝手に言ってるだけだし」
たいちの言い方は柔らかくて、過剰な距離を感じない。
親しみやすいけど押し付けがましくない。
そんなタイプはつかさの周りに少なかった。
「ねえ桐谷さんって、朝からすごい完璧じゃん。なんであんなに頑張れるの?」
「……別に」
「誰かのため?」
「違う」
即答だった。
でも、その言葉の裏側をたいちがどう捉えたかまでは分からない。
「ふーん。じゃあ、自分のためか」
「……そういうことにしといて」
たいちは笑った。
「じゃあさ、明日俺、桐谷さんの好きなところ一つ見つけてくるよ」
「はい?」
「理由とか関係なく、純粋に“いいな”って思うところ」
「……別に、いいけど」
「楽しみにしといて」
その笑顔の直後──
背後から、聞き慣れた声がした。
「つかさ」
振り返ると、れんが立っていた。
学校の前なのに、どこか険しい表情。
「帰るなら言えよ」
「……別に、言う必要ないでしょ」
「いや、あるだろ」
たいちが軽く手を挙げる。
「如月くん、だよね。ごめん、つかささん借りてた」
「つかさ“さん”?」
れんは小さく舌打ちしたように見えた。
「……つかさ、帰ろ」
「なんであんたが決めるのよ」
「危ないだろ、暗くなるし」
「まだ明るいけど」
「……いいから」
れんが少し強引に腕を引き、つかさは抵抗しながらも、最終的に歩き出してしまった。
たいちはそれを見送りながら、少し微笑んだ。
何かを面白がっているように。
れんは横で、珍しく無口だった。
つかさの胸の奥が、またざわざわと揺れた。




