誤解のはじまり
昼休み。
廊下で友人の白石まこが、つかさの腕を掴んで教室の外へ連れていく。
「ちょっとつかさ! 今日のれんとの空気、なんなん? いつも以上に色々あった感じの顔してんだけど」
「別に。なにも」
「はい出た、別に。なにも。いや、絶対あるでしょ」
まこはつかさの親友で、唯一つかさが完全に強がれない相手だった。
「れんがね、今日のつかさ綺麗とかなんとか言ってたけどさぁ」
「……聞いてたの」
「聞こえてきたの!」
まこはため息をつく。
「つかささ、そろそろ言ってやれば? あんたのビジュ磨き、れんのためじゃないって」
「言ってるじゃん。いつも」
「強がりでしょ? れんも分かってんだよ、あんたが本当は──」
「違う」
その瞬間、つかさの声色がほんの少しだけ震えた。
まこは目を丸くする。
「……つかさ?」
「違うんだってば。本当に。れんのためじゃない」
「うん。でも、じゃあ何のため? 自分のため?」
「……」
答えられない自分が悔しい。
少し黙ったあと、つかさは話題を強引に変えた。
「ところでさ、新しいクラスに転校生来るって噂、知ってる?」
「え、ああ。風間たいち? イケメンって言われてるけど、実物どうなんだろね」
そのとき、ちょうど教室の方からざわめきが聞こえてきた。
「転校生、来たらしい!」
つかさとまこが顔を見合わせて教室に戻ると、そこにいたのは人懐っこそうな笑顔を持つ男子──風間たいちだった。
「風間たいちです。よろしくお願いします」
その声はよく通り、雰囲気も明るい。
女子たちから小さな歓声が上がる。
れんはというと、たいちをじっと観察していた。
「へえ、なんか感じ良さそうなやつだな」
「……」
つかさはなぜか胸がざわついた。
たいちが席に向かう途中、すれ違いざまにつかさと目が合う。
にこっと笑われた。
優しい笑顔。それなのに、不思議と距離が近く感じる。
その瞬間、れんがつかさを見た。
つかさが誰かと目を合わせるだけで、れんは少しだけ表情を変える。
その変化に気づいてしまう自分が、ますます嫌になる。
「あれ、桐谷さん? キレイな髪だね」
たいちが声をかけてきた。
「……どうも」
「毎日こんな感じなの? すごく整ってる」
ナチュラルに褒めてくる。その自然さが逆に新鮮で、反応に困る。
そのやり取りを、れんは無言で見ていた。
昼休みが終わる頃には、つかさの中で“なにか嫌な予感”が形になり始めていた。




