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あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
ビジュ磨きの理由

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3/13

誤解のはじまり

昼休み。

 廊下で友人の白石まこが、つかさの腕を掴んで教室の外へ連れていく。


「ちょっとつかさ! 今日のれんとの空気、なんなん? いつも以上に色々あった感じの顔してんだけど」


「別に。なにも」


「はい出た、別に。なにも。いや、絶対あるでしょ」


 まこはつかさの親友で、唯一つかさが完全に強がれない相手だった。


「れんがね、今日のつかさ綺麗とかなんとか言ってたけどさぁ」


「……聞いてたの」


「聞こえてきたの!」


 まこはため息をつく。


「つかささ、そろそろ言ってやれば? あんたのビジュ磨き、れんのためじゃないって」


「言ってるじゃん。いつも」


「強がりでしょ? れんも分かってんだよ、あんたが本当は──」


「違う」


 その瞬間、つかさの声色がほんの少しだけ震えた。


 まこは目を丸くする。


「……つかさ?」


「違うんだってば。本当に。れんのためじゃない」


「うん。でも、じゃあ何のため? 自分のため?」


「……」


 答えられない自分が悔しい。


 少し黙ったあと、つかさは話題を強引に変えた。


「ところでさ、新しいクラスに転校生来るって噂、知ってる?」


「え、ああ。風間たいち? イケメンって言われてるけど、実物どうなんだろね」


 そのとき、ちょうど教室の方からざわめきが聞こえてきた。


「転校生、来たらしい!」


 つかさとまこが顔を見合わせて教室に戻ると、そこにいたのは人懐っこそうな笑顔を持つ男子──風間たいちだった。


「風間たいちです。よろしくお願いします」


 その声はよく通り、雰囲気も明るい。

 女子たちから小さな歓声が上がる。


 れんはというと、たいちをじっと観察していた。


「へえ、なんか感じ良さそうなやつだな」


「……」


 つかさはなぜか胸がざわついた。


 たいちが席に向かう途中、すれ違いざまにつかさと目が合う。


 にこっと笑われた。

 優しい笑顔。それなのに、不思議と距離が近く感じる。


 その瞬間、れんがつかさを見た。

 つかさが誰かと目を合わせるだけで、れんは少しだけ表情を変える。


 その変化に気づいてしまう自分が、ますます嫌になる。


「あれ、桐谷さん? キレイな髪だね」


 たいちが声をかけてきた。


「……どうも」


「毎日こんな感じなの? すごく整ってる」


 ナチュラルに褒めてくる。その自然さが逆に新鮮で、反応に困る。


 そのやり取りを、れんは無言で見ていた。


 昼休みが終わる頃には、つかさの中で“なにか嫌な予感”が形になり始めていた。

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