名前を呼ぶ理由
文化祭が終わり、校内は普段の落ち着きを取り戻しつつあった。
机や椅子は元の位置に戻され、飾りやポスターも片付けられている。
それでも、教室の空気には昨日日の熱気の名残が残っていた。
つかさは窓際の机に座り、窓の外に目をやる。
空は澄んだ青色に染まり、朝の光が優しく差し込む。
「……なんだか、まだ昨日のことを思い出すな」
小さくつぶやきながら、つかさは手元のノートを眺める。
文化祭中の出来事やれんとのやり取りを思い返すと、胸が少し高鳴った。
「桐谷、そんなところにいたのか」
背後から声がして振り返ると、れんが立っていた。
「おはよう、れん」
「おはよう。昨日は……手伝ってくれてありがとう」
「ううん、私も楽しかったよ」
二人の間に、ぎこちない沈黙が生まれることもなく、自然な空気が流れた。
つかさは心の中で、昨日よりも少し落ち着いた自分に気づく。
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教室に入ってきた木嶋とまこが、二人の様子を見て笑う。
「おいおい、まだラブラブしてるのか?」
「うるさいな、別にそんなことないよ」
つかさは顔を赤らめながら返す。
れんは少しだけ笑い、軽く肩をすくめる。
「まあ、少しは……な」
そのやり取りに、つかさの胸はじんわり温かくなる。
文化祭を通して、れんと自然に距離を縮められたことが、今の幸せを実感させる。
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放課後、掃除を終えた教室で、二人は机を並べて荷物を整理していた。
「明日からまた通常授業か……」
「そうだな。ちょっと寂しいけど」
つかさは小さく笑い、れんを見る。
「でも、昨日のことがあったから、少し勇気が出る気がする」
「桐谷……」
れんの視線が優しくなる。
「俺も同じだ」
その瞬間、互いの存在がより身近に感じられる。
手をつなぐわけではないけれど、自然と肩の力が抜け、互いの距離が温かく縮まっていることを実感する。
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夕方の光が教室を柔らかく包む。
つかさは窓の外を見ながら、思い切ってつぶやく。
「れん、これからも……一緒に頑張ろうね」
れんは微笑んで頷く。
「もちろんだ」
教室の片隅には、文化祭で使った小道具がそのまま置かれている。
二人はその存在を見て、自然に笑い合う。
思い出を共有したことで、関係はさらに深まり、これからの日常にも温かさが宿っていた。




